妻、イザナミを失い、悲嘆に暮れるイザナギは、その想いを諦め切れず、黄泉の国にいるというイザナミに会うことを決意します。

黄泉の国は、日本神話における死者の世界です。

そして、イザナギは、黄泉の国へと通ずる黄泉比良坂(よもつひらさか)を訪れ、そのまま黄泉の国との境にある根の堅州国(ねのかたすくに)に向かいました。

しかし、時既に遅し、イザナミは、既に黄泉の国の物を食べてしまったため、元の国には帰ることができない体となってなっておりました。

諦め切れないイザナギは、扉の向こうにいるイザナミに、「なぜこんなに早く死んでしまったのだ。もう一度、力を合わせて国造りに励もうではないか。」と共に帰ることを提案します。

しかし、既に、黄泉の国の住人となってしまったイザナミにとって、これは大変難しいことではありました。

しかし、イザナギの熱意に負け、イザナミは、黄泉の神々に掛け合うことにしました。

ただし、それは時間が必要とのことで、少し待っているようにと言い残し、イザナミはその場を離れました。

しかし、なかなか返事がこないイザナミに、しびれを切らせたイザナギは、その約束の時を待たず、扉を開き、イザナミに会いに行ってしまいました。

すると、イザナギの目に飛び込んで来たのは、8柱の雷神をまといながらも、体が腐敗し、ウジ虫の湧くイザナミの変わり果てた姿でした。

驚いたイザナギは、その場を逃げ去ろうとしますが、約束を破り、姿を見られたイザナミは、怒りに震え、逃げるイザナギを追いかけます。

そして、ここから、イザナミによるイザナギ追走劇が始まります。

逃げるイザナギ、追うイザナミ。先ずは、イザナギの元に、黄泉醜女(ヨモツシコメ)が遣わされます。ヨモツシコメは、黄泉の国住む鬼女で、ひとっ飛びで、千里(約4千キロ)を走る俊足の鬼女でした。

迫り来るヨモツシコメに対し、イザナギは、先ず、つる草で出来たクロミカヅラ(髪飾り)を投げつけつけます。すると、そこから、山葡萄の実が実り、ヨモツシコメの注意をそらすことに成功しました。

しかし、ヨモツシコメは、山葡萄を全て喰らい尽くすと、すぐさま、イザナギの元を追いかけ直します。

続いて、イザナギは、角髪(みすら:太古の人たちの髪型の一種)から湯津津間櫛(ゆつつまくし:クシの一種)を取り出し、そのクシの歯を折って投げ付けました。すると、今度は、ニョキニョキとタケノコが生えてきて、再び、ヨモツシコメの注意をそらし、何とかヨモツシコメの手から逃げ切ることができました。

そして、、生と死の境である黄泉比良坂付近まで逃げ延びることに成功します。

しかし、今度は、雷神が黄泉の醜女(軍勢)を率いて、イザナギの元に迫りました。イザナギは、その場に生えていた桃の木から実を3つほどもぎ取り、迫り来る黄泉の醜女に投げつけました。

すると、黄泉の醜女たちは桃を嫌い、恐れ、イザナギに追いつくことができませんでした。

こうして、イザナギは、桃の力に助けられ、無事、黄泉の国から逃げ帰るこができました。

そして、最後に追いかけて来たイザナミを見て

その入り口を千引岩(ちびきいわ)で塞ぎました。すると、岩の扉の向こうから、イザナミは「何という裏切りを私は死の国の神となって、地上の国の人たちを毎日1000人殺します。」と叫びました。

すると、イザナギは、「それでは、私は毎日1500人の子どもを誕生させよう。」と答えました。

こうして、仲睦まじかったイザナギとイザナミは別々の道を歩んで行くことになりました。

ちなみに、

黄泉の国とこの世の境目を黄泉比良坂と呼ばれるようになりました。
桃の木に助けられたことから、その感謝の証として、この桃に意富加牟豆美命(おおかむずみ)という名が付けられました。
イザナミは、黄泉の国に残り、 黄泉の国を統括する女神として、黄泉津大神(ヨモツオオカミ)と呼ばれるようになりました。

 

多くの産んだ神々にも人間らしい感情があるのですね。