藤原実頼は有職故実に通じ小野宮流を創始。
一方、弟・師輔の子孫に伝えられた有職故実
の流派を九条流と云う。各子孫を表す用語
でもある。

藤原敦敏(アツトシ)は摂政太政大臣・実頼の長男、
世間の評判も非常に良かったが、祖父・忠平
や左大臣に昇進した直後の父・実頼に先立ち、
当時流行した疫病にかかり、早世(享年30)。
敦敏から見れば、菅原道真を失脚させた
時平は大伯父であると同時に外祖父になる。
時平の血を引く者は多くが短命で、それは
道真の怨霊によるものだと喧伝されたが、
敦敏も例外ではなかった。なお、その長男
佐理(スケマサ)は草書の第一人者として評価が
高く、小野道風・藤原行成と共に三跡の一人
に数えられる。

頼忠(ヨリタダ)は実頼の次男、敦敏の同母弟。
実頼の死後、摂政の座は円融天皇の直接の
外戚である伊尹(コレタダ,師輔長男)に移るが、
頼忠も昇進して、上位の中納言である藤原
兼家と橘好古を越えて権大納言に昇進し、
翌年には正三位・右大臣に叙任された。
伊尹が急死すると、伊尹の弟・兼通が内覧
宣下を受け、太政大臣となった。

兼通は不仲の弟・兼家より頼忠を頼りとし、
頼忠を一上(筆頭の公卿)に任じた。一上が
特に定められていない場合には、左大臣・
源兼明が一上の職務を行う慣例であったが、
賜姓皇族として人望の厚かった兼明の影響
を恐れた兼通による指名であった。兼明は
兼通の意思によって親王に復帰させられ、
空いた左大臣に頼忠が引き上げられた。
兼通は、自分の死後に摂関家の嫡流の座を
兼家の子孫に占められることを恐れ、頼忠
を自らの後継にしようと考えていたようだ。
重病に陥った兼通は、無理を押して参内し、
最後の除目を行い、頼忠に関白の職を譲り、
逆に兼家から要職である右近衛大将を奪い、
同じ日に頼忠は藤氏長者に復した。程なく
兼通は薨去した。

円融天皇は親政への意欲から政務の全てを
頼忠には一任せず、一上の職務を左大臣・
源雅信に行わせた。この状況の中で、頼忠
は娘の遵子(ノブコ)を女御として入内させた。
不遇だった兼家が復帰参内すると、娘詮子
(アキコ)を女御に入れた。頼忠が太政大臣に
進むと、兼家は右大臣に引き上げられた。
遵子は中宮に立てられたが、皇子を生む事
はなく、一方では詮子は懐仁(ヤスヒト)親王
(後の一条天皇)を儲け、ますます兼家に
有利な情勢となった。

円融天皇は(第65代)花山天皇に譲位した。
その外祖父の伊尹が既に他界していたため、
頼忠はそのまま関白に留まったが、東宮に
懐仁親王が立てられた。頼忠は外戚たらん
と花山天皇にも娘・諟子を女御に入れたが、
花山天皇の寵愛は受けられず、やはり皇子
は得られなかった。また、新帝補佐として
権中納言に抜擢され、将来の大臣・関白の
資格を得た藤原義懐(伊尹五男,天皇の叔父)
が加わった事で、更に頼忠の立場は弱まる。

兼家は懐仁親王の即位を望み、策謀により、
花山天皇を出家退位させた(寛和(カンナ)の変)。
幼い懐仁親王が即位(第66代一条天皇)して、
外祖父・兼家が摂政として朝政を完全掌握
するに至り、頼忠は関白を辞職、太政大臣
の職こそは維持したものの名目のみと化し、
まもなく失意のうちに薨去(享年66)。

公任(キントウ)は頼忠の長男、母は代明親王の
娘・厳子女王。父の頼忠は関白を辞任して
兼家が摂政となり、政治の実権が小野宮流
から九条流に移る。兼家の息子で同い年の
藤原道長はこの時点で従五位下の位階だが、
翌年には一挙に従三位まで昇進し、公任は
瞬く間に位階を追い越された。一条朝では、
執政・道隆に対して不満を持つ一方、同じく
道隆に反発していた弟・道兼とは親密であり、
道兼の養女(実は昭平親王の娘)と結婚した。

長徳の変を経て、執政の座が道長に移ると、
公任は14年ぶりに昇叙されて従三位になる。
この頃より道長に接近するようになるが、
奏功してか、上席の参議・藤原懐平ら3名を
越えて正三位中納言となる。公任は一条朝
の四納言の一人。四納言とは当時活躍した
4人の公卿(源俊賢・藤原公任・藤原斉信・藤原
行成)の称で、藤原斉信が大納言、他の3名
が権大納言まで昇ったことによる。
NHK大河ドラマ『光る君へ』では、公任(演)
町田啓太さん、斉信(演)金田哲さん、行成
(演)渡辺大知さん、俊賢(演)本田大輔さん。

斉敏(タダトシ)は実頼の三男、頼忠の同母弟。
冷泉天皇が即位すると、正四位下・参議に
叙任されて公卿に列した。円融朝では昇進
は停滞、従三位に叙せられたが、14歳年下
の九条流・藤原為光にまで権中納言昇進で
後塵を拝し、失意のうちに薨去(享年46)。

斉敏の子息3人は全員65歳以上を保って、
公卿に列した。特に実資(サネスケ)は、実頼の
養子となって右大臣にまで至り、小野宮流
を継承した。兄で権中納言・懐平(カネヒラ)の
子資平(スケヒラ)を養子としたが、最愛の子は
実娘の千古、小野宮家の財産を多く千古に
継承させ、資平には一部しか継承させず。
そのため、小野宮家の経済的な衰微を招き、
同家没落の原因となったが、実資は天寿を
全うし、90歳で薨去。
『光る君へ』では、実資(演)秋山竜次さん。