以前、[消費税] 適格請求書類似書類(インボイス制度関連)という記事を書きました。その関連の投稿記事です。

”インボイス制度が始まる令和5年10月以降、免税事業者が消費税を請求したらいけないの?”という視点で書いてみます。

 

 

結論として、”インボイス制度が始まる令和5年10月以降、免税事業者が消費税を請求したらダメ”というルールはないと思います。(ただ取引相手がどう感じるかはまた別の話)



まず、消費税の課税対象について


消費税法4条には

国内において事業者が行つた資産の譲渡等及び特定仕入れには、この法律により、消費税を課する。

とされています。

ここでは「事業者」といっているので免税事業者や課税事業者かなどは区分してないです。つまり、免税事業者が行った取引だろうが、課税事業者が行った取引だろうが、非課税取引に該当しない資産の譲渡等は課税取引となります。

(ちなみに、日本国の消費税の課税取引の対象となる取引は(ここでは外国貨物の引取りの説明などは省きます)①日本国内において②事業者が事業として③対価を得て行われる④資産の譲渡及び貸付け並びに役務の提供、の4要件全てを満たすものだけです(消費税法2条・4条)。

 

なので、免税事業者(ちなみに「免税事業者」という用語は消費税法上の定義にはありません。「第九条第一項本文の規定により消費税を納める義務が免除される事業者」などのように規定されています。同様に「課税事業者」も消費税法上の定義にはありません。)が行う上記4要件を満たす課税取引について消費税を請求するのはおかしくはないと思います。


ただし、当然のことながら免税事業者は適格請求書発行事業者になり得ないですよね。

 

インボイス制度導入以降は免税事業者からの課税仕入れについては仕入税額控除ができないよとだけ規定があるのであって取引自体が4要件を満たしていて非課税取引でないなら課税取引のままなのです。(課税取引であるか否かと免税事業者であるか否かは別次元の話です。なお免税事業者からの課税仕入れの経過措置もまたこれとは別の話です。)

 

 

課税取引か否かと納税義務があるか否かだけでもややこしいんですが、そこにインボイスが入ってくるからさらにややこしくなるのです。まあこれも国民の代表たる国会議員が決めた法律(つまり国民の代表=国民が決めたこと、と法律上はなります。日本国憲法41条以下)なので仕方ないですけどね。

→ 参議院「国会のしくみと法律ができるまで!」(たまに「税務署(国税庁)が勝手に法律を決めた」という方がいますがそれは間違いです。そんなことはあり得ません。税務署や国税庁は行政機関であって立法機関ではありません。)

 



ということで私が知る限り、免税事業者が消費税を請求してはならぬ、だとか、適格請求書発行事業者でない課税事業者が消費税を請求してはならぬ、ということは消費税法にはどこにも規定されていないと思います(間違っていたらすいません。)。

そこは民VS民(必ずしも民同士の取引でないにしても)の取引の決め事であって、そこには国は介入しないという意味合いなのだと勝手に想像しています。


免税事業者(厳密には適格請求書発行事業者以外)からの課税仕入れは仕入れ税額控除の対象にならないというだけであって、免税事業者が消費税を請求してはならない、というのは消費税法上どこにも規定がないような気がします(つまりそこはお互いの自由ではないかと)。


あくまでも税務署(というか国家)が介入できるのは、「適格請求書発行事業者になったからには課税事業者なのだからちゃんと消費税の申告納税しろよ」という点と「適格請求書がないと仕入れ税額控除できねーからな」という点なのかな、と。(もちろん、適格請求書類似書類の発行は×です。)



ということは実務上、下記のようなことが考えられます。

例えば、インボイス制度導入後、免税事業者のフリーランス(一人親方やフリータイターなど)が相手先(発注元)に本体1,000,000円と消費税100,000円を記載した請求書合計1,100,000円を発行する。

すると相手先(発注元)はこう言うでしょう。

相手先(発注元)「あんた、適格請求書発行事業者じゃないじゃん。消費税を請求しないでよ」

この時、こう反論することがあるかも知れません。

免税事業者のフリーランス「いや取引そのものは課税取引だから消費税はかかるんですよ。だから消費税を請求しています。適格請求書発行事業者じゃないから消費税を請求できないとは消費税法に規定されていません。ま、私は免税事業者だから税務署には納めないですけどね、これも合法なんで」

 

この反論をどう感じるかは人それぞれでしょうが、少なくとも消費税法上言い分は間違っていないことになります。
なぜなら課税取引に消費税がかかるのは消費税法上正しい話ですし、免税事業者だから消費税を税務署に納めないのも合法です(と同時に、消費税の免税事業者には消費税の申告書を提出する権利もありません、すなわち還付申告もできません)。
(消費税法では課税取引の定義を4条で規定し、納税義務の免除を9条で規定している)


しかし、インボイス制度が始まった後、実務上、こんな会話が想定されます。

相手先(発注元)「いいや、でもオタクは適格請求書発行事業者じゃないんだから、消費税分を削った請求書を出してよ。じゃなきゃオタクともう取引やめます」

なんて、会話が。

すると下請けや仕事をもらっている側は立場が弱いですからね。世の中は力関係です。色々なところでトラブルが出そうですね。まだ、インボイス制度はまだまだ世間に認知されていませんが年明け位にはワイドショーなどにも取り上げられて騒ぎになるんじゃないでしょうか。(令和5年10月の制度開始時から確実にインボイス事業者になるには令和5年3月までの登録申請が必要なため)

 

 

ゴリ押しして取引解消をヨシとするか、あるいは、消費税相当分を請求しないか、あるいは、適格請求書発行事業者になるか、あるいは、理解いただいて消費税相当分を請求するのを認めてもらうか(免税事業者と言えども経費などは消費税込みで仕入れているので)、、どうするかは経営判断なんでしょうけれども、、、。

下請け側の立場の人の中には、課税事業者と適格請求書発行事業者を選択して簡易課税を選択する方法などを選ぶ人も出てくると思います。もちろん、その場合、消費税の申告義務もありますし、適格請求書の交付義務などもあります。

人や会社でそれぞれ事情が異なると思いますのでよくよく考えて判断してください。

ちなみに「免税事業者及びその取引先のインボイス制度への対応に関するQ&A」には次のような文言が書かれています。ここから見ても免税事業者が消費税を請求することには問題がないのだと思われます。(ただし、取引先(相手方)が納得するかどうかはまた別の話)

 

特に「Q5」の「消費税の性質上、免税事業者も自らの仕入れに係る消費税を負担しており、その分は免税事業者の取引価格に織り込まれる必要があることにも、ご留意ください。」は取引先側としても理解が必要だと思います。

 

『Q5 現在、自分は課税事業者ですが、免税事業者からの仕入れについて、インボイス制度の実施に当たり、どのようなことに留意すればいいですか。
A 簡易課税制度を適用している場合は、インボイス制度の実施後も、インボイスを保存しなくても仕入税額控除を行うことができますので、仕入先との関係では留意する必要はありません。
 簡易課税制度を適用していない場合も、取引への影響に配慮して経過措置が設けられており、免税事業者からの仕入れについても、制度実施後3年間は消費税相当額の8割、その後の3年間は5割を仕入税額控除が可能とされています。
 また、消費税の性質上、免税事業者も自らの仕入れに係る消費税を負担しており、その分は免税事業者の取引価格に織り込まれる必要があることにも、ご留意ください。
 なお、免税事業者等の小規模事業者は、売上先の事業者と比して取引条件についての情報量や交渉力の面で格差があり、取引条件が一方的に不利になりやすい場合も想定されます。このような状況の下で取引条件を見直す場合、その設定方法や内容によっては、独占禁止法又は下請法若しくは建設業法により問題となる可能性があります。具体的に問題となりうる行為については、Q7をご参照ください。』

 

『Q6 課税事業者が、インボイス制度の実施後に、新たな相手から仕入れを行う場合には、どのようなことに留意すればいいですか。
A 簡易課税制度を適用している場合は、インボイス制度の実施後も、インボイスを保存しなくても仕入税額控除を行うことができますので、仕入先との関係で留意する必要はありません。
 また、簡易課税制度を適用していない場合は、インボイス制度の実施後は、取引条件を設定するに当たり、相手が適格請求書発行事業者かを確認する必要があると考えられます。
 免税事業者からの仕入れは仕入税額控除ができないため、免税事業者から仕入れを行う場合は、設定する取引価格が免税事業者を前提としたものであることを、互いに理解しておく必要もあると考えられます。例えば、免税事業者である仕入先に対して、「税抜」や「税別」として価格を設定する場合には、消費税相当額の支払いの有無について、互いに認識の齟齬がないよう、ご留意ください。
 また、具体的な取引価格の設定に当たっては、取引への影響に配慮して経過措置が設けられていることなど、Q5の内容もご参照ください。』


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改正消費税法

 

 

(定義)
第二条 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
三 個人事業者 事業を行う個人をいう。
四 事業者 個人事業者及び法人をいう。
七の二 適格請求書発行事業者 第五十七条の二第一項の規定による登録を受けた事業者をいう。
八 資産の譲渡等 事業として対価を得て行われる資産の譲渡及び貸付け並びに役務の提供(代物弁済による資産の譲渡その他対価を得て行われる資産の譲渡若しくは貸付け又は役務の提供に類する行為として政令で定めるものを含む。)をいう。


(課税の対象)
第四条 国内において事業者が行つた資産の譲渡等(特定資産の譲渡等に該当するものを除く。第三項において同じ。)及び特定仕入れ(事業として他の者から受けた特定資産の譲渡等をいう。以下この章において同じ。)には、この法律により、消費税を課する。

(小規模事業者に係る納税義務の免除)
第九条 事業者のうち、その課税期間に係る基準期間における課税売上高が千万円以下である者(適格請求書発行事業者を除く。)については、第五条第一項の規定にかかわらず、その課税期間中に国内において行つた課税資産の譲渡等及び特定課税仕入れにつき、消費税を納める義務を免除する。ただし、この法律に別段の定めがある場合は、この限りでない。

(仕入れに係る消費税額の控除)
第三十条 事業者(第九条第一項本文の規定により消費税を納める義務が免除される事業者を除く。)が、国内において行う課税仕入れ(特定課税仕入れに該当するものを除く。以下この条及び第三十二条から第三十六条までにおいて同じ。)若しくは特定課税仕入れ又は保税地域から引き取る課税貨物については、次の各号に掲げる場合の区分に応じ当該各号に定める日の属する課税期間の第四十五条第一項第二号に掲げる消費税額(以下この章において「課税標準額に対する消費税額」という。)から、当該課税期間中に国内において行つた課税仕入れに係る消費税額当該課税仕入れに係る適格請求書(第五十七条の四第一項に規定する適格請求書をいう。第九項において同じ。)又は適格簡易請求書(第五十七条の四第二項に規定する適格簡易請求書をいう。第九項において同じ。)の記載事項を基礎として計算した金額その他の政令で定めるところにより計算した金額をいう。以下この章において同じ。)、当該課税期間中に国内において行つた特定課税仕入れに係る消費税額(当該特定課税仕入れに係る支払対価の額に百分の七・八を乗じて算出した金額をいう。以下この章において同じ。)及び当該課税期間における保税地域からの引取りに係る課税貨物(他の法律又は条約の規定により消費税が免除されるものを除く。以下この章において同じ。)につき課された又は課されるべき消費税額(附帯税の額に相当する額を除く。次項において同じ。)の合計額を控除する。
一 国内において課税仕入れを行つた場合 当該課税仕入れを行つた日
二 国内において特定課税仕入れを行つた場合 当該特定課税仕入れを行つた日
三 保税地域から引き取る課税貨物につき第四十七条第一項の規定による申告書(同条第三項の場合を除く。)又は同条第二項の規定による申告書を提出した場合 当該申告に係る課税貨物(第六項において「一般申告課税貨物」という。)を引き取つた日
四 保税地域から引き取る課税貨物につき特例申告書を提出した場合(当該特例申告書に記載すべき第四十七条第一項第一号又は第二号に掲げる金額につき決定(国税通則法第二十五条(決定)の規定による決定をいう。以下この号において同じ。)があつた場合を含む。以下同じ。) 当該特例申告書を提出した日又は当該申告に係る決定(以下「特例申告に関する決定」という。)の通知を受けた日

(適格請求書発行事業者の登録等)
第五十七条の二 国内において課税資産の譲渡等を行い、又は行おうとする事業者であつて、第五十七条の四第一項に規定する適格請求書の交付をしようとする事業者(第九条第一項本文の規定により消費税を納める義務が免除される事業者を除く。)は、税務署長の登録を受けることができる。