落語のマクラから少し。




「身投げ」





大きな橋のたもとにいる見張り番が、上役に怒られた。




上役


 「お前が毎日見張っているはずなのに、全然、身投げが減らないじゃないか。昨日もあったそうじゃないか。きちんと仕事をしろ。」




見張り番


 「へい、すいません。・・・・怒られちゃった。


   ・・・あっ、また、身投げしようとしてる奴がいる。」





と、見張り番、身投げをしようとしている者に走りより、





見張り番


 「待て待て!このやろう!

  お前だな、毎晩、毎晩、ここから身投げする奴は!」








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さて、話は変わりまして。


先日、下記のような記事がありました。


『自宅の駐車場で「臨時収入」 広がるシェアサービス 2015年11月28日21時03分 朝日新聞
  
http://www.asahi.com/articles/ASHCL30RMHCLUTIL003.html


 自宅の駐車場を1日単位で貸し出すシェアサービスが、首都圏を中心に広がりを見せている。都心や観光地では駐車場が見つからないことも多いが、事前に駐車場が確保できるとあって利用者も増加。新しいサービスだけに、思わぬトラブルへの心構えも必要だ。


 東京ディズニーランドまで歩ける場所にある千葉県浦安市の住宅街。数年前に車を手放した60代の女性はこの秋、自宅の駐車場を貸し始めた。1カ月で利用が3件あり、計数千円の収入になった。「思ったより利用者がいて驚いた。臨時収入になりました」


 一方、ディズニーランドを訪れるために使った男性(38)は「渋滞に巻き込まれないし、料金も安かった」。園内にも駐車場があるが、閉園時間には周辺の道路が大渋滞する。


 仲介したのは、今年10月にシェアサービスに参入したばかりの「トメレタ」(東京都新宿区)。運営する松橋淳人社長は「眠っている駐車場は多い。貸す側と借りる側、双方にメリットがある仕組みだ」と話す。


 家や店で使っていない駐車場を貸すこうしたシェアサービスの特徴は、インターネットでの簡単な手続きと、使っていない時だけ貸せる気楽さだ。


 貸す側は運営会社のサイトを通じて場所や料金、日付を入力。車の不在時や店の定休日だけ貸すことも可能だ。利用者側は希望の場所や日付で検索。気に入ったものが見つかれば、氏名や連絡先などを入力し、クレジットカードで料金を前払いする。運営会社は手数料を取り、残りは貸し手の収入になる。


 2012年に他社に先駆けて始めたのが「軒先パーキング」(東京都目黒区)。野球場やコンサート会場周辺などを中心に、全国約700カ所に拡大した。西浦明子社長は「コインパーキングと違い事前予約できるのが好評」という。コイン式に比べて料金が安い点も人気の理由という。』





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自宅の空き駐車場を短期的に貸すサービスのようです。




税務の取り扱いについて私見を書いてみます。


(実際の適用については個別事情によって異なるので、税理士又は税務署に相談してくださいね。)



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【結論】



記事のような、ごくごく小規模、かつ、臨時(お小遣い稼ぎレベル)の自宅敷地の貸駐車場収入については、さほど気にするような問題は起きないと思います。


① 所得税
 サラリーマンであれば、駐車場利益が年間20万円以下であれば確定申告不要


② 消費税

 一般的には何も影響なし。

  (もしも駐車場売上が1,000万円超えるようなことがあれば影響。でも、記事のようなケースでは普通はないと思います。)


③ 相続税

  駐車場部分は通常の自用地評価です。

  貸宅地評価は受けられません。でも、小規模宅地特例は受けられると思います。


④ 固定資産税

  住宅用地は1/6特例の恩典があります。

  軽微な駐車場貸付をしていても、通常はこの恩典に影響はないと思います。





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下記は、解説(私見)です。ややこしいので、ご興味のある方のみお読みください。


【1】 所得税関連


これは所得税法上、どのような扱いになるでしょうか。


① 所得の種類は?


  所得税基本通達27-2にはこのように定められています。


  『所得税基本通達27-2(有料駐車場等の所得)
   いわゆる有料駐車場、有料自転車置場等の所得については、自己の責任において他人の物を保管する場合の所得は事業所得又は雑所得に該当し、そうでない場合の所得は不動産所得に該当する。』


ですから、「ちゃんと見張ってるよ」的な場合は事業所得(規模が大きい)又は雑所得(規模が小さい)となり、「場所を貸すだけだよ。何があっても自己責任ね」という場合は不動産所得となります。


記事のケースでは不動産所得になるケースが多いでしょう。



② 所得税上の特典は?


  また、不動産所得には「事業的規模である不動産所得」と「事業的規模ではない不動産所得」がありますが(どちらかと言えば事業的規模の方が税務上有利)、記事のような「自宅前の駐車場」というケースでは「事業的規模ではない不動産所得」に該当します。


  No.1373 事業としての不動産貸付けとそれ以外の区分」   https://www.nta.go.jp/taxanswer/shotoku/1373.htm

  


  青色申告は適用できますが、青色申告を適用するには簡易な帳簿等の備え付けの義務があります。


  No.2070 青色申告制度

   https://www.nta.go.jp/taxanswer/shotoku/2070.htm



  事業的規模でない不動産所得でも青色申告特別控除10万円が受けられます。


  No.2072 青色申告特別控除

   https://www.nta.go.jp/taxanswer/shotoku/2072.htm


③ 確定申告しないとダメ?


   No.2020 確定申告

   https://www.nta.go.jp/taxanswer/shotoku/2020.htm


  例えば、給与所得者の場合、給与の収入金額が2,000万円以下で、かつ、1か所から給与等の支払を受けており、その給与の全部について源泉徴収される人で給与所得及び退職所得以外の所得金額が20万円以下である人等、一定の場合には確定申告をしなくてもよいことになっています。


  つまり、一般的なサラリーマンの場合、貸付収入にかかる所得(利益のことです)が年間20万円以下であれば確定申告をする必要はありません。


④ 不動産所得の金額の計算は?


   No.1370 不動産収入を受け取ったとき(不動産所得)

   https://www.nta.go.jp/taxanswer/shotoku/1370.htm


  不動産所得の金額は、次のように計算します。


    総収入金額-必要経費=不動産所得の金額


   (1) 総収入金額

      総収入金額には、貸付けによる賃貸料収入のほかに、次のようなものも含まれます。
      イ 名義書換料、承諾料、更新料又は頭金などの名目で受領するもの
      ロ 敷金や保証金などのうち、返還を要しないもの
      ハ 共益費などの名目で受け取る電気代、水道代や掃除代など


   (2) 必要経費

     必要経費とすることができるものは、不動産収入を得るために直接必要な費用のうち家事上の経費と明確に区分できるものであり、主なものとして貸付資産に係る次に掲げるものがあります。
     イ 固定資産税
     ロ 損害保険料
     ハ 減価償却費
     ニ 修繕費






【2】 消費税関連

   消費税については3つの論点があると思います。


  ① そもそも消費税の課税対象取引に該当するか?
      [消費税] 課税対象取引・課税対象外取引(不課税取引)
2014年05月04日の記事にも書きましたが、記事のケースが消費税の課税対象取引に該当するためには、


     ・ 日本国内で (これは該当)


     ・ 個人事業者が事業として (これは微妙。臨時であれば該当しない可能性が高い)


     ・ 対価を得て行う (これは該当)


     ・ 資産の貸付け (これは街灯)


    の4要件を満たす必要があります。(消費税法 第4条)



    消費税基本通達5-1-1 では「事業として」の定義として『対価を得て行われる資産の譲渡及び貸付け並びに役務の提供が反復、継続、独立して行われることをいう』とあります。


     この通達の趣旨からいえば、記事のケースでは臨時っぽいケース(つまり、反復・継続でない)が多そうなので、「個人事業者が事業として」には該当しない可能性が高いので、課税対象取引になる可能性が高いと思います。


     しかし、本格的に看板を設置したり、駐車場精算機などを設置し、継続的に収入を得ようとするならば、「反復・継続」となりますから「個人事業者が事業として」に該当する可能性が高いと思います。



  ② 「課税取引」か「非課税取引」か。


    仮に「課税対象取引」に該当したとする場合、次に「課税取引」か「非課税取引」か、の判定が必要になります。(課税対象取引ならばこの判定は不要です。)



    (「課税対象取引」と「課税取引」は異なります。

     
       
     課税対象取引のうち、非課税取引以外の取引が課税取引となります。)



     土地の貸付は原則非課税です。



      No.6201 非課税となる取引

      https://www.nta.go.jp/taxanswer/shohi/6201.htm



     ただし、1か月未満の土地の貸付け及び駐車場などの施設の利用に伴って土地が使用される場合は、非課税取引には当たりません。 したがって、記事のような短期利用の場合は消費税の課税取引となります。(あくまでも①の判定で課税対象取引をされた場合の話です。)


 

  ③ 消費税の免税事業者制度


    なお、消費税の課税対象取引に該当するから、と行って、「即、納税義務がある」ということではありません。

    消費税の免税事業者に該当すれば消費税の納税&申告義務はありません。(消費税法 第9条)(自ら課税事業者を選択した場合は別ですが)

    記事のケースでは課税売上となると判定されたとしても、1千万円を超えることはないでしょうから、免税事業者となるでしょう。(くどいですが、これが論点となるのはあくまでも貸付収入が「課税対象取引」に該当する場合の話です。)




  

【3】 相続税関連


   この臨時貸駐車場の用に供している土地部分の評価はどうなるでしょうか。


   結論としてはいわゆる「自用地評価 」になります。


   土地を貸駐車場として利用している場合には、その土地の自用地としての価額により評価することになっています。


   したがって、いわゆる貸宅地 としての評価はできません。



   No.4627 貸駐車場として利用している土地の評価

   https://www.nta.go.jp/taxanswer/hyoka/4627.htm



   (そもそも貸宅地 が評価減額されるのは立退料等の経済的制限があることを考慮してのことです。臨時的な貸駐車場にはそのような制限はありませんので評価減額をする必要もない、ということです。)



   そして、私個人的な見解ですが、記事にあるような「たまに人に貸している程度」であれば、日常的には自宅部分と一緒の利用、つまり、「一画地 」としての評価となるとともに、要件に該当すれば「小規模宅地等の課税価格計算の特例 」も適用できる可能性が高いと考えます。


 (あくまでも私見です。個別事情により異なりますので、税理士又は税務署にご相談ください。)






【4】 固定資産税関連

  

   通常の土地を1とした時に、住宅用の土地は課税標準が1/6となる恩典を受けています。

   つまり、税額が、通常の土地の1/6なのです。


   しかし、事業の用に供する土地にはこの1/6の恩典特例が受けられません。


   記事のようなケースではこの恩典特例が受けられなくなることはないと思います。


   

   要するに程度の問題でしょう。


   実務上、どのような判定が下るかは自治体によって多少の温度差はあるようです。


   しかし、近年、自治体も財政が逼迫するなか、「何か課税できないか」と課税財源を探していますから、一応、気に留めておいてください。


  東京都主税局HP

   『【固定資産税・都市計画税】住宅用地とは何ですか。また、住宅用地に対する特例措置とは何ですか





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上記は冒頭記事に関しての個人的な私見です。

実際の適用については個別事情によって異なるので、税理士又は税務署に相談してくださいね。