葬送のフリーレン

 少し完走してから時間が経ちましたが,2023年秋~2024年春アニメの葬送のフリーレンの感想を書いていきます.世間の評価としても最も注目を受けたアニメの一つだと思いますし,私としても粗探ししても見つからないような素晴らしい作品だったと思います.

 

本作のテーマ

 本作のテーマは人間と寿命,もとい時間の流れが大きく異なるエルフのフリーレンが人間とどう関わるのかといった物語.この物語はフリーレンが魔法使いとして参加する勇者一行が魔王を打ち倒すことから始まります.魔王を打ち倒し,凱旋パレード,その後勇者一行でパーティーを,その最中で50年に一度降るという流星群を見る一行.50年後流星群を見る約束をし,パーティーは解散する.

 さて,勇者ヒンメルがすっかり年老いた50年後フリーレンは現れる.勇者一行は再び集まり,流星群をみることになる.しかし,まもなく勇者ヒンメルは亡くなることになる.寿命の長いフリーレンにとっては50年は極めて短い時間.この間フリーレンがなにもしなかったことは仕方がないことではあるものの,ヒンメルの葬儀でフリーレンはなにも知ろうとしなかったことを後悔することになる.ここでフリーレンは人間を知るための旅にでる.

 この後フリーレンは勇者一行の戦士アイゼン,僧侶ハイターの2人にそれぞれシュタルク,フェルンという弟子を任され,旅をともにする.

 これがこの物語のプロローグである.

 

アニメならではの表現

 このアニメが素晴らしい点は第1話に現れる.ヒンメルの葬儀でフリーレンはなにも知ろうとしなかったことを後悔するシーンでのフリーレンの情動である.泣くまでの過程がきめ細かく描かれ,フリーレンに感情移入できるのである.エルフというのはゲームやアニメ,神話の世界にしか存在しないファンタジーな存在である.冒頭でエルフであるフリーレンに感情移入させることで一挙にこのアニメの世界観に引き込むことになり,かつファンタジーの中にしか存在しない大きな寿命,時の流れの差という本作のテーマに引き込むのである.

 

現代日本との類似点

 アニメを観て物語が進むにつれ,徐々に気づくことになる.フリーレン,シュタルク,フェルンの3人の旅の目的が異なることである.勇者一行がいた時代は,誰もが戦う目的があり,誰もが努力する目的があった.旅に明確な目的があったのである.一方で,魔王討伐後は魔族の残党の脅威はあるものの圧倒的脅威は取り除かれ,旅の目的は千差万別になっていく.

 対して現代日本は経済発展のピークを過ぎ,インフラや娯楽は一通りそろってしまった.以前は努力し,よりよい暮らしを手に入れるという皆に共通する努力する目的があったが,今はそれがない.価値観は多様化し,誰もがあるかもわからない夢のために自己実現を求められる.

 このアニメのキャラクターの中でフェルンのあまり感情を表に出さず,ある意味で脱力感ともとれる表情は現代社会における脱落感と似ているように見えた.旅の過程で努力する目的をみつけ,旅や人生の目的を探る.そういったアニメのように思えた.

 

まとめ

 なんというか手癖で生真面目に書いてしまいましたが,このアニメは単純にドラマというわけではなく,割とネタっぽい面白い描写も多いです.フリーレンは顔芸タイプのキャラクタですよね.

 1話から28話まで最高の出来でした.アニメ全てを語れるほど,アニメを観てきたわけではありませんが,現代のファンタジーアニメの最高傑作といっていいような感じがします.しかし,鬼滅の刃だの呪術廻戦だの社会現象化し誰もが知るアニメにはならなかったのは,このアニメの前提である「長命種エルフ」の存在が世間にとって当たり前ではなかったことにあるように思えます.アニメを観たり,ゲームをしなければ,相当に教養が高くゲルマン神話や北欧神話に明るくなければ知りえないことだろう.コンテキストの必要性だけがネックだったのではないだろうか.そういった意味で言えば,このジャンルにおける最高傑作といっていいはずだと思う.

 見ていないかたは是非,今からでも観てみることをお勧めします.