■ 小倉一哉 [2005] 「長期休暇が企業経営に与える影響 」『日本労働研究雑誌 』 No.540
○問題提起
長期休暇が企業経営にプラスの影響をもたらすならば、労働者のみならず企業に対しても休暇取得を促す論拠になるのではないだろうか。「長期休暇 」「働きやすさ 」「生産性 」「企業業績 」の相関関係と因果関係の有無を明らかにする。
○先行研究のサーベイ
・ Perry-Smith, J.E. and T.C. Blum [2000] "Work-family Human Resource Bundles and
Perceived ORgamizational Performance", Academy of Management Journal. Vol.43.
No.6
[ 内容 ]
アメリカ民間企業 527 社を対象に、ファミリー・フレンドリー施策と企業経営の関係を 分析。結論は、包括的に ファミリー・フレンドリー施策を実施している企業は、製品の 品質が高く、人材獲得力にも優れ、良好な労使関係である等の関係が見られた。
筆者はファミリー・フレンドリーを「休暇施策 ( 育児休暇など ) 」「伝統的ケア施策 ( 職場 のデイケア施設など ) 」「非伝統的ケア施策 ( 高齢者ケア補助など ) 」の 3 つに分けて考察 する。休暇施策の実施度だけが 高い企業よりも、休暇施策に加えてデイケア施設などの その他の施策が同時に実施されている企業のほうがパフォーマンスのレベルが高い。
・坂爪洋美 [2002] 「ファミリー・フレンドリー施策と組織のパフォーマンス 」『日本労働
研究雑誌 』 No.503
[ 内容 ]
社会経済生産本部が 2001 年に実施した調査データを使用し、日本企業におけるファミリ ー・フレンドリー施策が組織のパフォーマンスに与える影響を検証。
結論として
① ファミリー・フレンドリー施策は従業員の働きがいよりも働きやすさにより影響する。
② 企業のファミリー・フレンドリー施策と従業員の評価の関連性が低い。
③ 従来型ファミリー・フレンドリー ( 育児や介護による一時的な勤務形態の変更など ) と多様性ファミリー・フレンドリー ( 病気や事故などの個人の事情による勤務形態やキャリアコース変更の実施など ) を同時に実施している企業では女性の離職率が低い
④ 多様性ファミリー・フレンドリーは、働きがいや働きやすさ、経常利益の変化など複数のパフォーマンスに貢献している。
⑤ ファミリー・フレンドリー施策の組み合わせいかんでは、組織のパフォーマンスにプラスの影響を与えることもあり、また反対にマイナスの影響を与えることもある
[ 評価・課題設定について ]
上記 2 つの論文における分析では、企業経営に与える休暇施策単独の影響はほとんど検 証されなかった。しかし、彼らの意図する休暇は、育児休暇など比較的限定的な施策である。したがって、育児休暇なども含めたより概念の広い「長期休暇」が企業業績などに影響するかどうかを検証する余地は残されている。
○利用しているデータや資料
・労働政策研究・研修機構 (JILPT) 「労働者の働く意欲と雇用管理のあり方に関する調査 」 2004 年
○分析方法
・調査項目に関する相関係数を見る
⇒ 長期休暇と働きやすさの相関は比較的高い。生産性を構成する「 労働生産性」では 「従業員の意欲 」にのみ相関が高い。「従業員の意欲 」は働きやすさとの相関は比較的高いが、長期休暇と企業業績との相関関係はほとんど見当たらない。
・長期休暇・働きやすさ・生産性・企業業績の因果関係に関する考察 :
長期休暇・働きやすさ・生産性・企業業績 に関する共分散構造分析を行う
→ 長期休暇の充実は働きやすさを向上させ、働きやすさの向上は生産性の向上に貢献し、生産性の向上は企業業績の向上に貢献するという因果関係がある程度見られる
→ 「長期休暇 → 企業業績 」は弱い因果関係にある。
→ 同様に「企業業績 → 長期休暇」の方向で検証したが、特に因果関係は見られず
⇒ 統計的には有意ではないため双方向の因果関係は確認できず。
○結論
企業業績と長期休暇の間に直接的な因果関係は確認できなかったが、長期休暇→働きやすさ→生産性→企業業績という流れの中では、係数値は小さいが一応は統計的に有意な関係が見られた。