チャンフィ☆ファッショニスタ その10 | ゆかりんsoku☆チャン・グンソク

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韓国人俳優チャン・グンソク君のファンのブログ。
現在、記事の更新は不定期です。

「チャンフィ☆ファッショニスタ」記事の最終回です。

やっと王様の衣装に追いつきました。ぜーはー。

王の服2着、一気に行きまーす。  相変わらず長い文章ですみません…。


⑰九章服(クジャンポク)と冕旒冠(ミョルリュガン)

『快刀ホン・ギルドン』は
歴史に忠実な「正統派時代劇」ではなく、
現代的な感覚を取り入れた
いわゆる「フュージョン時代劇」である。


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 ドラマ冒頭の
伎芸団を装った活貧党が
両班の宴に乗り込むシーンからして、

ドレッドヘアーの踊り子や
ブレークダンスに、
ロック調のBGMがかかるキテレツさには、
一瞬ドラマを見続ける気力を失ったくらいだった。

(しかもこのシーンは、
ミュージカルや宝塚歌劇の
プロローグのショーのようなもので、
内容とはまったく無関係だった…)


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義賊ホン・ギルドンの物語自体が
日本人にはなじみが薄いために、

原作の英雄的なイメージを覆す
ギルドンの傾奇ぶりの意外さは理解できなくても、

ならず者のような風体の王子様が、
どういう仕掛けか
クラブまがいの照明が回る娼館に
世情視察と称して入っていくのを観た時は
顎が下がりそうなほど呆れた。

いい性格してんな、この道楽王子。 



        その頃は中の人がよもやクラブ好きだとは全然知らなかったのです。清国の上海のクラブは楽しかったようだの、え? 

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キャラクターの見かけも演出も
まるきり漫画、

それも日本の少女マンガの歴史ものや
アニメ「彩雲国物語」を実写化したかのような
荒唐無稽なドラマなのだが、

キル・ヨンウやメン・ホリムなどの
韓国時代劇の常連俳優が出演しているため、
ついつい普通に
「時代劇ドラマ」として見てしまうので、

時代劇のお約束を裏切られるたびに
仰天するはめに陥ってしまった。

たとえば、第23話で
チャンフィが強引に執り行う
真夜中の即位式などは、

儀礼上まったくありえない事なので、
ノ尚宮やチス、臣僚が
驚き慌てふためくのも無理はない。


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玉璽の引き継ぎを行う即位式で
チャンフィが着用した儀礼服は、
きちんと時代考証に則った
「九冕旒冠九章服」と呼ばれる大礼服である。

冕旒冠(ミョルリュガン)は、
九旒(リュ)と呼ばれる
五色の玉を連ねた紐を、
前後に9本ずつ
簾のようにあしらった飾りのある、
王の大礼・祭礼用の冠である。


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王の最高級の礼服である
九章服(クジャンポク)は、

上衣の両肩には金龍、
背中の中央に山、
袖先に火と雉と杯が、

下衣には水草、穀物(米)、
斧、弓というように

王の威厳や役割を表す
九種類の章紋(模様)が
九種類の色で刺繍されていることに
その名の由来を持つ服装だ。

この九章服に合わせて、
手には「圭」(キュ)と呼ばれる
玉や木で作られた笏を持ち、
吉色の赤い足袋と赤い履き物を履く。


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ただし、チャンフィの大礼服は
ちゃんと歴史的に合っているのに、

玉座の背後に常に置かれているはずの
「日月五峯図」と呼ばれる図柄の
屏風がないのはひどく奇妙に映る。 
背中側がスッカスカでは、グンちゃんも寒かろうて。

そういうふうに、
「快刀ホン・ギルドン」は
時代劇の常識を
ちょっと外しているところが面白く、
時にワナにかかることになる。


⑱袞龍袍(コルリョンポ)と翼善冠(イクソングァン)

『快刀ホン・ギルドン』の
時代劇のお約束を破った例で、
私が一番驚いたのは
予言が外れたことである。

韓国時代劇ドラマにおいては、
法師や占い師が主人公の運命を予言するシーンは
絶対に欠かせない。

   KBSのロゴが冠の柄みたいにピッタリはまっちゃったよ…。

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たとえば、グンちゃんが
子役で出演していた『女人天下』でも、

のちに文定王后になるユン氏を
娘時代の頃に見かけた法師が
「あなたは高貴な位にのぼります」と平伏するし、

『王と妃』など他の歴史ドラマにも
同じようなシーンがある。

そして必ず!彼女たちは王妃の座に就くのである。(ココ最も重要!)

『快刀ホン・ギルドン』では、
イノクを見たヘミョン和尚が
「あの子は王妃の相を持っている」と予言する。

ホ老人は和尚をインチキ坊主とあざけるが、

預言者が未来を必ず当てることは
時代劇のお約束なので、
私は最終回まで、
イノクが王妃になるとばかり信じ切っていた。


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それなのに、
イノクがチャンフィの懇願を振り切って
ギルドンの元に戻ったのを観たときは、
それこそ口がポカンと開いたままに。

時代劇で予言を曲げるだなんて!

友人には「ギルドンが主役なんだから
イノクとくっつくのは当たり前だろが。」と言われたが、

予言の成就は時代劇のセオリーなんじゃ!

せっかくチャンフィが幸せになれると思ったのに!(涙) ←ギルドンが主役だろうと知ったこっちゃないわ。

裏切られた予言、いや、
脚本のホン姉妹のワナに
自分がズンドコに落とされて、
どんなに最終回の悲しさが増したかは
言うまでもありません。

そのように時代劇の定石を
巧みに外すドラマでありながら、

チャンフィが着用する王の衣装は、
きっちりと古式ゆかしい「袞龍袍(コルリョンポ)」。


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袞龍袍は王の常服(普段着)で、
執務時にも使用する服である。

白い内衣の上に着る
広い丸襟のある表着で、
夏には紗(薄く透き通る絹織物)、
冬には緞(厚手で光沢のある絹織物)を使用し、
主に宮中の針房で作られていた。

王の袞龍袍というと、
他の時代劇ドラマでは
高位色である「大紅色(テホンセク)」の
赤い生地に金の龍の模様が入った
「紅龍袍(ホンリョンポ)」が多いが、

チャンフィは紺藍色のものを
1着しか着用していない。
赤いお衣装の方が似合いそうなのに~。

下の写真を見ると、
袞龍袍の裏地は紅赤、
パジ(ズボンタイプの下衣)は鴇色、
靴は鹿などの皮で作られたブーツのような形の「木靴(モッカ)」だと分かる。

                やっぱ、この写真がチャンフィのスチール写真の中で1番好き。

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『快刀ホン・ギルドン』の特別番組で
グンちゃんが「顔が龍というより猿みたい」と
ケケケ笑っていた、
袞龍袍の両肩と胸にある
大きな丸い“龍のワッペン”のようなものは、

「補(ポ)」という、王族のみに許された、
黄金色の糸で刺繍された龍の模様の身分章である。



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袞龍袍の上には玉帯を巻き、
頭には王や世子、世孫しか着用できない
「翼善冠(イクソングァン)」と呼ばれる冠を
被るのが決まり。

臣下が被っている、
ミッキーマウスの耳のような
羽がついている冠(紗帽=サモ)とは違って、

翼善冠は2つの小さな羽が
上向きに付いている形状の冠で、
王が天に属することを意味している。

袞龍袍は、
日本の男性用の着物と同じように
細いと貧相に見え、
貫禄がある方が見栄えが良い。

チャンフィの腹回りが立派に見えるのは
さぞかし下着とカイロを巻いているからでしょうな。

                    光源氏のように麗しき外見の下は、今や寒がりオヤジ腹があるのか。とほほ。

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慌ただしく即位式を終えて、
国王の袞竜袍を身につけたチャンフィは、
しかし失意の底にあった。

正統な王位継承者だという証明のはずの
四寅剣の密命は、
亡き母大妃とリュ兵曹判書の
謀略によって作られた
忌まわしい偽物であったからだ。

その事実をリュ大監に突きつけられた
チャンフィは政治上の妥協を余儀なくされる。


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理想に一身を賭けるギルドンたちとは
違う道を歩まざるをえなくなった
チャンフィの袞龍袍の下には、

権力をめぐる大人たちの策謀に
踊らされた深い無力感、
どうしようもない孤独、
そして怒りがある。

なおかつ、
権力争いの狭間で
揺り動かされた自分の人生に、
今度こそ自ら関わろうとする
強い意志も潜んでいる。


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袞龍袍を身にまとったチャンフィは、
だからこそ人が変わったようになる。

若君の時代にはあれほどいとおしんでいた
イノクの純真さや、
打算も計算もない天衣無縫の資質に対して
むしろ苛立ちを覚え、

「若君(コンジャ)」の呼称を禁じて
不機嫌に接するようになる。


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ギルドンと会う時も
「自分たちの関係をはっきり見えるようにするため」に
彼に官服を強いる。

このギルドンの官服は「団領(ダルリョン)」と呼ばれる
重臣や官史たちの着る執務服で、
品階によって色が異なる。

団領の色は時代によって変化があるが、
ギルドンが王から最初に着せられた
青色の団領は正三品~従六品の
堂下官(タンハガン)の官服だ。

ベルトのような帯は「品帯(プムデ)」と呼ばれるもので、
やはり品階によって帯飾りの素材が異なっていた。


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ギルドンが王から兵曹判書に任命されると、
団領は正一品~正三品の堂上官(タンサンガン)が
着用する赤色の官服へと変化する。

結局、両班からの抗議により
兵曹判書を解任させられたギルドンは
元の山賊風の衣装に戻る。

そのように史実に沿った官服から
またフィクションの衣装に戻るギルドンとは対照的に、
チャンフィは王の服、ひいては王の座に執着する。

彼らの立場の違いや
理想と現実の差が
衣服を通して明確に示されているのだ。

 

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袞龍袍に囚われたチャンフィは、

王の服を着続けるための代償として
四寅剣とホン・ギルドンという刀をへし折り、

この世で一番大切に守りたいと思っていたひとと、
理想を抱いた若君―
かつての自分に向かって火矢を放つ。

王に揺らぐものは何ひとつなかった。

王の瞳には、揺らぐ光でなく
揺るぎない力があった。

閃いて消えるものではなく、
そこに強く宿るものが。


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至福と絶望、
信頼と疑心、
理想を叶えようとする希望と
現実の残酷さが対立する
『快刀ホン・ギルドン』のリアルな凄味は、

古典を現代風に仕立て直すことにのみならず、

理想を貫いて自分を曲げることなく生きたギルドンが
最後は活貧党ごと全滅するという
原作とは違う姿を見せて、

若者の夢や理想が容赦なく砕かれていく
現代社会を描いた点にあるのだ。


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数年の後。

王妃の寝殿に向かう道すがら、
先導の内持の持つ燈籠の
心細げにまたたく灯りを
王はなんとはなしに見やった。

すると突然、

「ねぇコンジャ。これとこれが結婚して、
この子が生まれたんだね」

と、くすくす笑いながら言う
懐かしい声が
王の耳の奥に聞こえた。

遠い昔、市場の軒に連なる
飾り提灯を指さしながら
「コンジャ!」と明るい声音で
自分を呼んだその姿さえ

燈籠の灯りの中に見えたような気がして、
王は小さく微笑んだ。


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そして同時に、

その命の灯りを消したのも
ほかならぬ自分であることが、

冬の夜の冷気とともに
王の胸の奥を
鈍い悲しみで痺れさせた。


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記憶の中の風景は
次第に薄らいでいっても、
悲しみは根雪のように
心の奥底に残っている。
 
この悲しみを、
最初からなかったもののように
消し去ることはできない。

最も大事にしていたひとの命を
結果的に奪う行動に出た
人生の苦い選択の痛みに耐えながら、

ただ、すべてを忘れないと心に決めて
生きていくことしかない。

どんな絶望の中でも、
彼女と過ごした時間の記憶が
闇の中の星のように
輝く一瞬があれば、

生きていける。

きっと。


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王は内持に合図をして立ち止まり、
しばし眼を虚空に上げた。

夜空にはあの清からの帰国船で見た時と
同じかたちの満月が浮かんでいた。



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〈完〉