高架門で 30 | むらたま SUPER JUNIOR キュヒョンブログ

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※私のどっぷり妄想のウォンキュ小説です。ここからは優しい目で見れる方のみお進みください。ウォンキュの意味が分からない方や苦手な方はUターンしてくださいね。尚、お話は全てフィクションです。登場人物の個人名、団体名は、実存する方々とは関係ございません。




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あの時、ドンヘに会わなかったら今度こそ挫折して絵を辞めていたかもしれない。本当に、人の運命を左右するのは何がきっかけになるのかつくづく分からない。
今日のドンヘの写真展もこの時撮った写真がシウォンの会社の目に留まり、依頼されたモノクロ写真が脚光を浴びて名が知れ渡ることになった。イ・ドンヘはみるみる才能を開花し、期待の若手フォトグラファーとなってシウォンの会社もこれを機に世に広がることになった。

あれからキュヒョンとドンヘはカトクを通じて話すようになり、時々シウォンの話題は出たが、仕事のこと以外触れることはなかった。

「先生は今日はこれからどちらに行かれるんですか?」

「んー。少し足りなくなった画材を買ってからアトリエに寄ろうかと思ってる」

「休みの日も何かと忙しそうですね。今度個展の日にちが決まったら教えてください。ヒョクチェと一緒にお祝いに行きますから」

「うん。決まったら案内送るよ。ヒョクチェにもよろしく伝えておいて。また会えるのを楽しみにしてるって」

「はい。今日はありがとうございました」

ギャラリーを出ると店の前にはお祝いの花が所狭しと飾られており、その中にデジタルアートレンタル『CREA』の名前があった。シウォンの会社だ。
僕も頑張らなきゃ…
冬の空の太陽がドンヘのようで、まだ寒い季節なのに陽だまりのように感じた。


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久しぶりの太陽の日差しに誘われて、キュヒョンは画材を買った後、高架門の橋を歩いて帰ることにした。
レンガ造りの古い橋の上は行きかう人もまばらで、日が差していても川から上がってくる風は肌に冷たく刺さる。
まだまだ寒いな。
キュヒョンはこの二年、来る日も来る日もキャンバスに向かい、没頭して絵を描いた。行き詰った時は高架門の下に来てシウォンを想った。降る雨に濡れながら、決して来ないと分かっていても、暑い日も寒い日も自分の気が済むまで待っていた。移り行く季節をいくつか迎え、今も変わらず高架門のあの場所に立ってみる。
もう、ここに来るの何度目だっけ…
太陽が出ていても高架下は寒い。
あと五分。あと五分だけ待ってから帰ろう。
流れる川の音がいつもより静かに聞こえるのは昼間ドンヘに会ったからだろうか。今日は気持ちが穏やかだ。目を閉じて息を吐きながら壁に背中をもたれた。
冷た…
ひんやりした感触が頭の後ろに伝わる。
ああ、ここでシウォンとキスしたんだ。
シウォンの唇の柔らかい感触が触れた瞬間、身体中の血液が熱くなっていくのが分かった。呼吸を塞ぎ、激しく何度も唇を求めあい恍惚感を味わった。
あの頃は二人とも無我夢中で抑えることが出来なかった。彼の腕から逃れようと必死で抵抗をしても、あの目には逆らえなかった。ずっと捕らわれていたんだ。それはきっと今も変わらない。
一緒に堕ちていくのを覚悟したあの日、本当に幸せだった。
エクボが出来る笑顔はあの頃のまま、僕の中で止まったままだ。

二年前、ここでシウォンが何を言おうとしていたのか、今ではもう昔の話だ。あの時は会社を立ち上げたばかりのシウォンの足手まといになりたくなくて別れを切り出した。これ以上シウォンに甘えたくない、自分の足で立ちたい、対等になってから会いたいと思って頑張ってきた。
シウォンとは雲泥の差だが、今はアトリエを構えて地道に仕事をしている。
僕にはこれくらいがちょうどいい。
結局チャンミンにも連絡をしていないままだ。チャンミンとシウォンが仕事で繋がりがあると思うと、連絡を取るのを躊躇してしまった。
怒っているかもしれない。呆れているかもしれない。もしかしたらまだ待っていてくれてるかもしれない。チャンミンなら『何やってんだよ。連絡遅いんだよ』って笑って言ってくれるような気もする。
なんて、自分に都合のいい考えだけど。
今はただ、チャンミンやシウォンが元気でいてくれたらそれでいい。
それぞれの未来がずっと笑顔であって欲しい。幸せであってほしい。そう願ってる。

そんなことをぼんやり考えていると、すっかり暗くなった河川敷は高架門の橋の上の灯りがかろうじてぼんやりと見えるだけになっていた。
何度ここからの景色を眺めただろう。
春も、夏も、秋も、冬も、ここに来てシウォンを想った。
冬の空は空気が澄んで星が綺麗に見える。ふと、星座のオリオンの神話を思い出した。

オリオンは月と狩りの女神アルテミスと恋に落ちた。二人の仲を快く思わないアルテミスの兄アポロンが仲を引き裂くためアルテミスにけしかけて矢を放たせ、それに射抜かれたオリオンは死んでしまう。悲しみに暮れるアルテミスを不憫に思った大神ゼウスはオリオンを天に上げ星座にし、アルテミスはオリオンに会うためすぐ近くに月が通り過ぎるように夜空を巡っている…と、誰かに聞いた覚えが。
なんだかまるで僕たちみたいだ。
そういえばシウォンは僕の事を月みたいだと言ってことがあった。
やっと言いたかったことを伝えてこれからだと思ったのに、また自分から隠れてしまった。
本当に月のようだ。
僕がシウォンに恋をしなかったら、シウォンの愛を受け入れなかったら、怒りを買うことも引き裂かれることもなかったのに。
はぁ…こんなこと考えるなんて、さっきまですごく穏やかな気持ちだったのに。
もう二年。二年経ったんだ。
いい加減忘れようと思っても、忘れることなんて出来ない。

『またいつか高架門で会えたら、そこから始めよう』

そう言ったシウォンの曖昧な約束を信じて今日もここに来ている。
あの日のままの君に会いたくて待っている。
シウォンの声も温もりも全てが昨日の事のように思い出せるのに。
冬の綺麗な星空を見て神話を自分達に重ねるなんて、少し感傷的になったみたいだ。

どうしてかな。冷たい空気に混じって階段を降りて来る足音、草木を掻き分けながら歩く音、砂利を踏む音さえもシウォンの音に聞こえる。

え?

パキッと小枝を踏む音に目を凝らした。立っている男は一瞬驚いたが、次の瞬間顔がクシャッと笑顔になった。上がった口角の横には見覚えのあるエクボがあった。
前髪を上げ、二年前と同じチェスターコートにベージュのセーターとジーンズ。大人っぽいなんてものじゃない。
ドクンドクンと早鐘を打つ心臓は今にも飛び出しそうで、身体は硬直したまま動かない。
一歩一歩照れくさそうに近付いてくる彼の姿は幻想なんじゃないか、夢でも見てるんじゃないか、そう思わずにはいられなかった。
なんでここにいるんだよ。
なんでこんなとこに来てんだよ。
来たら駄目だろ。
今度こそ戻れなくなる。
目の前にいる男は眉を八の字にしながら下唇を噛んで申し訳なさそうに微笑んだ。
僕は今、どんな顔をして彼を見てるのかな。
ちゃんと笑えてるのかな。
泣きそうな震える唇で必死に笑顔を作った。

「キュヒョナ」

シウォンの甘くて低く優しい声が僕の名前を呼ぶ。
抱き寄せられたと同時にその口が唇に触れてすぐに離れた。夢じゃない。シウォンの冷たい指先が頬に触れてピクリとなった。目が合った瞬間、今度はもっと深くなって返ってきた。触れ合わせるだけじゃ足りない。すがりつくようにシウォンの背中に両腕を回すと、それに応えるかのように下唇も上唇も食むようにキスが激しくなった。伸びてきた熱い舌に誘われ脳が溶け出すような感覚に背中がぞくりとする。崩れ落ちそうになる身体をシウォンの腕が受け止め、その身を委ねた。

「キュヒョナ、もう離さない」

シウォンの体温と匂いに目眩がする。
力強く抱きしめられた背中が痛い。愛しい痛みだ。
またここで会えた。
高架門で。
僕たちはここから始まったんだ。




END