前回に続き、債権者代位権が行使できないパターンについてです。

できないパターン その5】
被保全債権の弁済期が到来していなかったらバツブルー

 

 

ざっくり言うと、「弁済期」というのは、「期日」のことです。
「べんさいき」と読みます。

弁済」というのは、「債務を履行して債権を消滅させることです。

では、どういうことなのかを確認しましょう。

例えば、

Aは、Bから借りていた500万円の全額をBに返しました。

この場合、

「Aが債務を履行した。」……と言い表すことができます。

また、
AがBにお金を返したことによって、BがAに「金返せ!」と請求する権利はなくなりました

この、なくなったことは、「Bの債権は消滅した。」……と言い表すことができます。

債務を履行して債権を消滅させること」を「弁済」といいます。


AがBから借りていた500万円の全額をBに返したのであれば、「Aは、Bに弁済した。」と言えます。

Aが債務を履行してBの債権を消滅させたからです。

弁済は、債務を履行して債権を消滅させることです。


また、
弁済期」というのは、「弁済する期日」のことです。

例えば、AがBと「2018年の11月11日にお金を返すね」って約束をしたら2018年の11月11日が「弁済期になります。

なお、2018年の11月11日は、行政書士試験の試験日です。

また、「Aの債務」と「Bの債権」は、お金を借りた瞬間に発生します。

BがAに「金返せ!」と請求する権利は、BがAにお金を貸した瞬間に発生するのですが、Bは、弁済期まで待ってあげることになります

例えば、

Aは、2017年の12月20日にBからお金を借りました。

Aは、Bに2018年の11月11日にお金を返すことを約束しました。

「Aの債務」と「Bの債権」は、お金を借りた瞬間に発生しますので、Aの債務」と「Bの債権」は、2017年の12月20日に発生しました。

Bは、2018年11月10日の23時59分まで待つことになりました。

2018年11月11日の午前0時になった時に、BはAに対して「金返せ!」と請求することができるようになります。

同時(2018年11月11日の午前0時)に、Aには義務が生じます。債務を履行する義務がです。

Aは、2018年11月10日の23時59分までならBに待ってもらえます。

Aは、2018年11月11日の午前0時になったら、お金を返さなきゃいけなくなります。


このような期日を「弁済期」と呼びます。

仮に、弁済期が到来し、Aが債務を履行しなかったことによってBに損害が発生した場合、Aに対するBの手段としては「損害賠償請求」をすることが考えられます。
「そんがいばいしょうせいきゅう」と読みます。

では、債権者代位権の話に戻ります。

被保全債権の弁済期が到来していなければ、債権者が債権者代位権を行使することはできません

これが原則ですので、しっかり押さえましょう。

原則、被保全債権の弁済期が到来して、他の要件も満たした場合に、債権者は、債権者代位権を行使することができます

しかし、弁済期が到来していなくても債権者代位権を行使できる場合はあります。

それがどのような場合かというと、2つのキーワードが挙げられます。


裁判上」と「保存行為」です。

裁判上の場合と保存行為の場合は、弁済期が到来することを待つ必要がありません


【1つ目のキーワード】


裁判上

裁判上で債権者代位権を行使する場合、弁済期が到来している必要はありませんこれは、裁判所に許可してもらえばの話です。

念のため、条文を載せておきます。

【非訟事件手続法 第85条】
債権者は、自己の債権の期限前に債務者の権利を行使しなければ、その債権を保全することができないとき、又はその債権を保全するのに困難を生ずるおそれがあるときは、民法第423条第2項の規定による裁判上の代位の許可を申し立てることができる。

【民法 第423条 第2項】
債権者は、その債権の期限が到来しない間は、裁判上の代位によらなければ、前項の権利を行使することができない。

【前項】
債権者は、自己の債権を保全するため、債務者に属する権利を行使することができる。ただし、債務者の一身に専属する権利については、この限りでない。(民法 第423条 第1項)


例えば、

債務者が弁済期まで待っていたら主たる債務者からお金を返してもらえないかもしれない……という場合、債権者は、裁判所に対して弁済期前なんですけど、債権者代位権の行使を許可してもらえませんか?」って申し立てることができます

「申し立てる」っていうのは、ざっくり言うと、「言う」って意味です。

このように申し立てた場合、裁判所は、「非訟手続と呼ばれる簡易な手続をします。
「ひしょうてつづき」と読みます。なお、非訟手続きは、通常の訴訟手続ではありません。

そして、無事に許可してもらえたら債権者が弁済期を待つ必要はなくなります

 

ざっくり言うと、

 

弁済期前は、

 

裁判外×

 

裁判上○

 

って感じです。

裁判外だったら、被保全債権の弁済期が到来しない場合、債権者代位権を行使することはできません

裁判上だったら、被保全債権の弁済期が到来しない場合であっても、債権者代位権を行使することができます


【2つ目のキーワード】


保存行為

債権者が債務者に代位して保存行為をする場合弁済期が到来している必要はありません

保存行為」というのは、「財産の価値を維持する行為という意味です。

物の修理は、保存行為です。

例えば、

 

債権者が債務者に代位して家屋の修理をする場合、弁済期が到来している必要はありません

また、

時効の中断」は、保存行為です。

例えば、

 

内容証明郵便で「金返せ!」と請求し、6ヶ月以内に訴訟を起こせば、時効は中断します。

内容証明郵便は、「ないようしょうめいゆうびん」と読みます。大きな郵便局に依頼すると、どのような内容の文書をいつ誰が誰に宛てたか証明してくれます。

後1ヶ月で時効が成立するところだったとしても、「時効の中断」をすると、それまでの時効期間の計算は、リセットされます

後1ヶ月だったのが「時効の中断」によって後10年になったりします。

時効が成立していると、債権は、消滅することがあるのですが、「時効の中断」は、それを阻止する手段になります。

債権者が債務者に代位して時効を中断させたい場合、債権者は、被保全債権の弁済期が到来することを待つ必要がありません

 

 

また、「未登記の権利について登記の申請をすること」は、保存行為です。

未登記」というのは、「まだ登記されていない」という意味です。

「みとうき」と読みます。

 

権利は、登記することがあります

登記」は、公開された帳簿に誰の権利なのかを記載することです。

なお、物権分野で学習します。

債権者が債務者に代位して未登記の権利について登記の申請をする場合債権者が被保全債権の弁済期の到来を待つ必要はありません

保存行為だったら、弁済期が到来している必要はありません

なお、裁判上で行う必要はありません

債権者が債務者に代位して保存行為をする場合、債権者は、裁判所の許可を得ている必要がありません。

 

 

ざっくりまとめ

裁判外
弁済期前×

裁判上
弁済期前○

保存行為
弁済期前○



今回は、以上です。

お疲れ様でした。