今回扱いたいのは《「名詞A」+「の」+「名詞B」》 という表現です。「名詞B」とは特に抽象名詞であり、「の」は国文法的な説明を施すなら「連体修飾語としての格助詞『の』」ということになるんですけど、具体的に例を挙げてみましょう。
(例1) 日本の歴史
この例では、「名詞A」=日本 「名詞B」=歴史 ということですね。要するに「日本史」というワードに集約されるわけですが、これを英訳することを考えます。
️⭕️ the history of Japan
歴史という抽象名詞が、of Japan が付くことで他のどの歴史でもない「日本の歴史」と具体化・特定化されますから、定冠詞 the が必ず伴います。恐らくいかなる文脈で用いたとしても
the history of Japan
は普遍的だと言っていいでしょう。
余談ですが「日本の歴史」は要するに日本史なのだから
️⭕️ Japanese history
でも構わないわけですが、この場合は the は付きません。ただし文脈によっては、
the Japanese history となることも起こり得ます。
では、次の例はどうでしょうか?
(例2) 目の働き
ここでは「働き」を function で表すとして、この場合 function が可算名詞であることをまず押さえる必要があります。この段階で function が無冠詞単数になる可能性が消えます。ですから
a function of the eyes
the function of the eyes
functions of the eyes
を文脈に応じて使い分けることになるんですけど、目の機能に関して概括的な説明を加える場合は
the function of the eyes
が最も適当です。
目の或る一つの機能に触れるのであれば
a function of the eyes
様々ある中の二つ、三つの機能に触れるのなら
functions of the eyes
ということです。尚、一般に身体の主要な部位には定冠詞が付くことを忘れないようにしてください。
(例1)&(例2)から《「名詞A」+「の」+「名詞B」》を英訳することが厄介なのは、必ずしも決まったステレオタイプがあるのではなくて、文脈に応じた選択をしなきゃいけないからだとわかりますね。その意味では、まだ(例1)はその型しかない点で扱い易いかもしれません。ただしその場合でも、世間一般広く知られた歴史とは違う「日本史外伝」みたいなストーリーを叙述しようとすれば
another history of Japan
という体裁をとらざるを得なくなります。
(例3) 友達の重要性
the importance of friends
この例は 「名詞A」= friends (友達) 「名詞B」= importance (重要性) であることは明らかですが、この(例3)を読み替えて
《「友達」+「が」+「重要であること」》
のような分解が可能だと思うんですけど、この例に該当するような「名詞A」&「名詞B」の選び方はそれこそ無数にあるわけなんですが、あと二つ、三つ例を挙げてみましょう。
(例4) 自然の厳しさ
⇒「自然(名詞A)」+「が」+「厳しいこと」
⇒ the severeness of nature
(例5) 我慢の限界
⇒「我慢(名詞A)」+「が」+「限界であること」
⇒ the end of patience
(例6)この問題を解くことの難しさ
⇒「この問題を解くこと(名詞A)」+「が」+「難しいこと」
⇒ the difficulty of solving this problem
(例4)~(例6)の英訳については、どの例でも先頭の〝the〟を外して用いることはできません。実はですね
「名詞A」+「の」+「名詞B」
⇒「名詞A」+「が」+「名詞Bであること」
⇒ the B of A
のような読み替え(或いは組み換え)が可能な場合、書き換えた英訳の先頭の「名詞B」には必ず the が伴います。尚、「名詞B」が抽象名詞であることには繰り返し注意してください。また(例6)が示すように、「名詞A」の部分は動名詞句でも構いません。
ではなぜこのような帰結が導かれるのかについては、また別の機会に改めてお話しできたらと思います。