控え室と名付けられた図書室で、僕は頭を抱え面接を待つ。中学時代には数えられるほどしか話したことのない加藤明盛がまるで自分は緊張していないとアピールしてくるように話しかける。
「練習してきた?」
話しかけるな。
練習してきていないわけがない。
一方で無口ではあるものの図書室の本を眺めている清楚な雰囲気の女の子もいた。
彼女もまた、面接待ちである。
百合丘莉里。
中学では様々な大会で好成績を収めていたそうだが、当時自分のことしか頭になかった僕はそんなことは知らなかった。
3人しか受験しないこの竹辺高校のスポーツ推薦に落ちるわけもないのだが、ただ、そんなことはわかっていても、やはり緊張はするものだ。
スポーツの推薦。
専門は、体操競技。
鉄棒やら、つり輪やらの、あれである。
中学では、私立の奴らが表彰台を占め、僕はその次であったが、賞状やらメダルやらを総取りしていたそいつら、中高一貫の学校だったため高校はほぼ決まっていたようなものだった。
正直、あんまりこの推薦の重要性がわかっていなかった。
もっともっと正直に言うと、筆記試験を受けなくて済む、みたいな変な気持ちもどこかに持っていた。
まあ、面接ではそんなことは言えるはずもなく、(自称)進学校である貴校で文武両道を目指したい、みたいなことを言った。
面接が終わった。
制服のホックが外れていたことに気づき慌ててしめるがもう遅い。
落胆とまではいかないがしかしショックは大きい。
実家から車で3時間かかるほど離れたこの学校の設備でただただ体操がしたかった。
帰りの母親の操作する車中で、不安から解消された僕は、新たな不安を持ちつつ静かに目を閉じ、意識は遠のいていった。
その日は金曜日である。
金曜ロードショー「ゲド戦記」は記憶に鮮明である。その日初めて見たそれは、衝撃だった上に新たな不安と消すことのできなかった緊張が肩に乗っていたため体にかなりの大ダメージを食らった。
次の日は風邪気味だったが、家でゆっくりした。
中学校の理科室。
これも鮮明である。
スポーツに限らず、推薦で高校受験を受けた連中が集まる。
「今から名前を呼ばれた人は、合格です」
校長が嬉しそうに言うが、この中に、今まで面接練習をしていた友人が何人かいない。
ははあ。そういうことか。
合格した連中だけを集めたわけか。
そりゃそうだよな、不合格の連中が可哀想になる。
無論、全員が名前を呼ばれた。
その中学校から距離が近い順に。
竹辺高校は遠いからしばらくしてから呼ばれるだろう。
「以上が合格者です。みんな、よく頑張りました」
いや呼ばれてねぇ。
なんで俺だけ。
目の前に座ってた友人もどういう表情をすればいいかわからない表情をしていた。
理科室にはまあまあの数の教員が壁側に背を向けて立っていたのだが、その中に僕の担任もいた。
僕が戸惑っていると、
「大丈夫、けんちゃんは合格しとるけん、遠いけん合格通知が学校に届いとらんだけだけん。」
いや、なんじゃそりゃ、じゃ言えよ。
まあいいでしょう、何はともあれこれで僕も晴れて高校生だ。
なんや高校教師をしている父親や事務仕事をしている母親、担任もみんな三年後のインターハイのことを言ってるけどなんのこっちゃあまり理解できていない。
寮生活。
携帯電話。
専用体操場。
文化祭。
想像すればするほどワクワクしてきた。
色々と入学準備を進めていると、もう入学まで2週間を切っていた。
これは、波瀾万丈、壮絶で驚愕の物語ではないが、ただ、それなりの苦労やドラマがあった、僕の3年間という「一瞬」の物語。