三編で構成された連作短編集。
奇憶
男は何をやっても上手くいかず、言い訳ばかりしてはその場をしのぎ、
順調に下り坂を下るような生活をしていた。
そんな折、ふと子供の頃の記憶を思い返すが、
その記憶には不可思議な点が多かった。
二つの月を見上げていたり、異形の存在を見ていたり、魔女と話していたり。
違法な手段で金を稼ごうと目論んだ男は、災難に見舞われて……
っていう、ひどくなるばかりの現実と幻想的な過去を照らし合わせ、
段々と現実が侵食されていく不気味さを醸した話。
最後の一言が秀逸で、ぞっとすると共に世界の広がりを感じた。
器憶
恋人との他愛の無い会話から腹話術を練習する羽目になった男は、
適当な人形を用意して練習を重ね、技術力を高めていく。
恋人に練習の成果を披露した男は、更なる向上を目指すこととなり、
新たな人形を手に入れるが……
っていう、自己と人形のやり取りが異質なものに変化していく話。
内容としてはよくあるものだけど、腹話術の技術力を高める方法やらが細かい等々、
作者っぽさを感じてにやにやしてしまった。
垝憶
男は諍いに巻き込まれて頭部に衝撃を受けたことから、
新たな記憶を積み重ねられなくなっていた。
それまでの記憶は自由に思い出すことは出来ても、
それ以降の記憶は失われるばかりで記憶に残すことは出来ない。
気付けば見知らぬ場所で何をしているのかも分からず、
その度に手元のノートに気付き、自身の現状を認識することから始まる。
ノートには自身の病状や記憶についてが簡潔に記されていたが、
それ以上に衝撃的なことが書かれていた。
その内容とは……っていう、記憶破断者の主人公が登場する話。
記憶破断者の方でも大変な目に遭っていた主人公だが、
今作の短篇でもある意味で大変な事態に陥っている。
何とか幸せになってもらいたいものだけど……。
個人的には一話目がベスト、終わり方が特に好みだった。