自治体「児童相談所(児相)の虐待相談対応件数。」 各地で数え方バラバラ | 児童虐待を機器で検知!児童虐待防止システム機器普及裏話

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なぜ盛った?「児童相談所の成果」 自治体「今後も最高記録を出し続けるしか」 各地で数え方バラバラ

児童虐待の現状を測るバロメーターだったはずの児童相談所(児相)の虐待相談対応件数。この統計のあり方が揺らいでいる。虐待でないと判明した「非該当」ケースを含めたり、カウントの仕方が自治体ごとに違ったりする事例も。独自の解釈が横行していた実態は、関東以外でも見つかっている。なぜ長年にわたってまかり通ってきたのか。背景を探った。(木原育子)

「忠実に報告を上げた方が割に合わない」
「そうだろうなと思ってました。相当ばらつきがあるんじゃないかって」
 2022年度の児相の虐待相談対応件数(速報値)で、全国最少の148件だった鳥取県の担当者が胸の内を明かす。人口規模が近いお隣の島根県の332件と比較しても、倍以上の開きがある。
 「忠実に報告を上げた方が割に合わないのは事実。あまりに件数が少ないので、統計の取り方を全国のトレンドに合わせた方が…と指摘されることもあった」と声を落とす。
◆「相談対応件数」が増えることが「成果」
 虐待の相談件数が増えることは虐待防止への社会の意識が高まった証左とされ、相談対応件数が増えることは「児相の成果」とされてきた。神奈川県の担当者は、虐待ではなかった「非該当」ケースの扱いについて、「含めるべきではないとは思うが、その時点で虐待の事実を確認できなくても、その家庭に絶対にないとは言い切れない」と話す。
 だが、別の自治体の担当者は「ここまで来ると、件数が下がる方が逆に怖い。オリンピック選手じゃないが、今後も自己最高新記録を出し続けるしかないと思っている」と打ち明ける。
 なかった事実も計上する「水増し」が意識的に行われていたとすれば、行政の公正性に背く。北関東のある自治体の担当者は「水増しと言われても仕方がない」と本音を語る。
◆こども家庭庁「自治体の報告を信じるしかない」
 こども家庭庁は、自治体ごとに独自の解釈で計上されていた現状をどうみているのか。担当者に尋ねたが、「国としては自治体が報告する数字を信じるしかない。統計の取り方について、質問があった自治体には説明するが、質問がない自治体は疑問がないということなので…」と歯切れが悪い。
 問題は、「非該当」を件数に含んでいたか否かだけにとどまらない。措置変更時の数え方も違っていた。例えば、当初は家庭で在宅措置したものの、家庭から子どもを引き離す必要が生じ、施設入所の措置に切り替えたといった場合だ。

  こども家庭庁の担当者は「措置変更のたびに1件ずつカウントしてほしい」とする。「相談対応件数は、言うならば児相がどれだけ仕事をしたかの数字。その数字の増減で、虐待がどれだけ起きているかのものさしにしてきた」からだという。
 実際、埼玉県の担当者は「措置を変更するたびに1件ずつカウントする。同じ子どもでも乳児院に措置したら1件、その後に児童養護施設に措置したら1件。どんどん増えた」と説明。同様に、神奈川県は「措置を切り替えるたびに1件ずつ増えていく」、横浜市は「相談を受けた通告件数と相談対応件数はほぼイコールと考えている。児相は必ず何らかの対応はしますから」と話す。
 だが、同じ県内でも相模原市は「支援を継続している段階なので、1人1件とカウントする」と回答。千葉県も「支援は終結していないと捉え、1件としかカウントしない」と説明した。やはり数え方のものさしは、自治体ごとにバラバラだ。
◆端緒をつかんだある自治体職員
 この問題が発覚したきっかけは、ある自治体職員からの「統計のあり方がおかしい」という「通報」だった。滋賀県の児童虐待を扱う部署に2002?10年度まで所属し、相談対応件数の統計を担ってきた郷間彰さん(58)だ。その後も関心を持ち続け、21年に立命館大大学院に社会人入学。児相を持つ全国の70自治体にアンケートし(回答率74.3%)、自治体ごとに異なる統計のあり方の端緒をつかんだ。

「国の記入要領には記入例が何も書かれておらず、自治体の裁量になっていた。児相の虐待相談対応件数は本当に実態を表しているのか。パンドラの箱を開けるようなものだと感じた。何人の子どもが虐待を受けているのか、市町村の相談件数も含めて実数を正確に把握する必要がある」
 事実が統一して反映された統計でなければ、真の施策は打てない。「今のままでは正直に報告した方が不利。良いとこ取りの自治体と、もらい損の自治体がある。国は考え直すべきではないか」と続ける。
◆児童福祉司の増員計画の根拠が相談対応件数
 「もらい損」になるのは何か。例えば、児相の職員配置基準だ。国は昨年末、「新児童虐待防止対策体制総合強化プラン」を策定。児相で子どもの保護や親の指導に当たる児童福祉司を24年度までに約1000人増やし、約6850人とする方針を決めた。そのプランの根拠になったのが相談対応件数だ。

政府は深刻化する虐待への対応を掲げ、「量」だけでなく「質」も強化。24年度からは「こども家庭ソーシャルワーカー(仮称)」の認定資格を導入。児童福祉司や市区町村の虐待対応担当職員のほか、社会福祉士や精神保健福祉士の資格を持つ人らが対象になる。26年をめどに国家資格化も視野に再検討される。
 だが、名古屋市立大の樋澤吉彦教授(社会福祉学)は「認定資格ができたからといって劇的に環境が変わるわけではない。社会福祉士や精神保健福祉士とはあえて別建ての資格を創設した以上、どう質を担保するかも含め、今後も議論が必要だろう」と指摘する。
◆現場では「あまりのしんどさにバタバタと人が辞めていく」
 あいまいな数字に基づく施策の裏で、虐待の現場は待ったなしだ。
 今年、児童福祉司になった女性は「虐待があったか否かを確認するため、両親の仕事の帰宅を待つことも多い。午後11時前に帰れたことはない。あまりのしんどさにバタバタと人が辞めていく。一時的に1000人増えても、その分現場を去る人が多くなるだけ」と力なく語る。
 もう一人のベテランの児童福祉司は、抱える家庭が多い時で100件を超えた。「次から次へと案件が増える中で、どの時点で虐待家庭への支援を終結させるか、ある程度の見極めが必要になる。年度末や、被虐待児が中学を卒業するタイミングなど、不安はあっても支援をひとまず終結させることはあった」
◆「事実を明らかにする観点で抜本的に見直すべきだ」
 今後どうしていくべきか。山梨県立大の西沢哲・特任教授(臨床福祉学)は「研究者の間でも自治体ごとに数え方が違うのではとの認識はうすうすあったが、データの連続性が失われる損失を考慮し、声を上げてこなかった反省がある」と話す。「こども家庭庁も発足し、節目になる。『官庁まんなか』の対応が続き、泣かされるのは子どもたちだ。事実を明らかにする観点で抜本的に見直すべきだ」と指摘する。
 「これまでは地方自治の観点から各自治体が数字を報告するやり方だったが、米英のように国や州政府がデータベースで一元管理するやり方を導入していくべきではないか。どの自治体からも閲覧できるようになれば、対象が引っ越しても追跡でき、多くが関わり合える利点もある」
◆デスクメモ
 右肩上がりで急増している虐待相談対応件数のグラフ。少子化時代にこうなっているのは、いろいろな要因があるのだろうが、そもそも数え方が異なるのでは印象が変わってしまう。自治体の仕事量の指標作りは「こどもまんなか」なのか。役所目線を続けているようにしか見えない。(本)