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惑星マーズの戦い @yasuo310 様より

 

巨大なドラゴン

 ふっくらとしたソファー型椅子に身を沈めていたイスレアは、映し出されるモニター画面に目をやりながら

 

「モルぺス、モルぺスや」

 

 と声をかけた。

 いっときの間をおいて、その部屋(制御室)のドアーがあき、

 「イスレア様、お早うございます」

 

 とモルぺスがヨチ、ヨチとおぼつかない足どりでやってきた。

 モルぺスは、非常におおきなミケの猫であった。ヒョイと後足で立ち上がり二足歩行をするが足どりはおぼつかないヨチ、ヨチだ、柴犬くらいもある大きさだ、その上えらい太ったデブ猫であった。

 モルぺスは前足の肉球を軽やかに使い、デスプレイを操作する。端のデスプレイの下から茶器セットのテーブルが出てくる。テーブルの上でコーヒーセットが自動でコーヒーを点るティーカップに熱いコーヒーがなみなみと注がれた。テーブルは自動でイスレアとモルぺスの前まで進むと止まった。

 モルぺスが再度デスプレイにタッチすると、ソファー型椅子が床面10cmを浮き滑るように進みモルぺスの横で止まる。モルぺスは椅子に深々と、まるで人間の親父のように身を沈めた。

 

 この部屋は、大きなモニター画面が半円形に設置されていた。その下には畳一畳はあるであろうデスプレイが10台ほど設置されている。天井は、ハチの巣のようだ、六角形に縁どられた沢山のクリスタルで埋められ、乳白色の光を発していた。天井の中央部分には細い帯びたいが走り青、緑、紫、橙、黄色の帯が虹のように走っていた。

 

 

 イスレア様が、じっーと慈悲深い瞳をモルぺスに向けていたその小さな三角の目から流れ落ちた涙の跡が2~3本白くその頬に残されていた。

 モルぺスには、イスレア様の心情が痛いほどわかっていた。もう何年も、何十年も、永遠に続いたであるかのような長い年月をこうしてイスレア様と二人きりで向かい合い、コーヒーのお供をし、お話しの相手をしてきたのである。

 イスレア様のお仲間は、もう誰一人居ないのである。                                 最後のお仲間であったアントニオ卿は、もう既に100年も前に安住の地へ旅ただれていた。

 アントニオ卿が存命のときは、二人でよく議論し合い、見ているモルぺスが冷や冷やするくらいな大声で喧嘩をしていた。だがすぐに仲良くなり、グラス片手に二人でモルぺスをおちょくり大笑いするのであった、本当に二人はいつも楽しそうであった。

 アントニオ卿が安住の地へ旅立たれた(亡くなられた)時のイスレア様の落ち込みはそれはそれは酷かった。三日三晩、食も取ることなく臥せったままだった、見かねたモルぺスが声をかけると、


 

「お前に儂の心情がわかるか!このバカ猫が・・・」


 

 荒い口調であたられた。

 イスレア様は、本当に悲しそうな宙の果てをさまよっておられるようなお顔をすることが多くなられた。そして慈悲深い小さな瞳のまわりには、いく筋もの涙の跡が見られることが多くなっていた。

 

 

 モルぺスは、コーヒーのお供をするときはいつも今日イスレア様がモルぺスに最後のお話しを切り出すのではないかと・・・大変な不安と切なさでこの制御室のドアーの前に常に立つのであった。

 

 

 「モルぺス、また半島にドラゴンが入り込んできそうですね、凶暴な面相だけど彼らも必死でこの台地で生きているのに可哀想ですね、自然の節理だから仕方のないことですね、2頭ですね」


 

 イスレアがモルぺスをうながした。

 モルぺスは最後のお話しを切り出されなくて本当にほっとした。

 手前に写し出された画面に目をやると、大陸より突き出た半島が中央に大きな湖をたたえ映し出されていた。

 大陸から半島につながる平らな緑に覆われた台地の部分の上空に大きな2つの点が飛来してきていた。

 

 モニター画面が拡大される----2つの大きな点が鮮明に写しだされる。

 恐竜にコウモリの巨大な羽がついた緑色の巨大なドラゴンである。

 

 そのドラゴンが2匹、バタ、バタと半島の湖に向かい飛来しているところだ。

 ドラゴンが半島に侵入し、下方の緑の平原を飛び去ろうとしたときだ。

 

 下方の平原を覆う緑の葉の波間より黒い無数の黒点が舞い上がり・・・それは次第に大きくなり、竜巻のごとく、ながくながく渦を巻き伸びた。

 

 その先端が2匹の巨大なドラゴンに接しそうになったとき・・・いきなりその黒い渦巻きの先端はドラゴンに襲い掛かった。

 

 あの巨大なドラゴンの体に幾重にも幾重にも巻き付いたのである。

 画面が拡大された・・・

 大きな口を開け悶絶の表情で悶え苦しみ乱れ飛ぶドラゴン、その身体に幾重にも巻き付いている無数の黒い物体は・・・大スズメバチほどもあるミツバチの大群だ。

 

 そのミツバチが口、目、鼻、耳、尻と穴という穴に次から次へと潜りこむ、ドラゴンの硬い甲羅の上では、幾重にも固まり張り付いた無数の巨大ミツバチが数万回を超すかのようにその羽を羽ばたかせる。

 

 摩擦温で内部の温度は千度にも達した、ドラゴンは飛翔しながら焼けていった。

 

 ついに2匹は地上へと落下した・・・大きな土煙をモウ、モウと湧きあげて・・・モウ、モウと湧き上がる土煙の中巨大なミツバチの黒い竜巻はドラゴンを離れいずことなく飛び散った。

 

 地表に落下した2匹のドラゴンは、さらに悶え苦しみ悶絶する。

 

 落下した2匹のドラゴンに今度はカブトムシ程もあろうかの巨大なアリの大群が襲いかかったのである。

 

 2匹のドラゴンは巨大なアリの大群に幾重にも幾重にも巻き付かれてしまったのである。

 

 巨大なアリは強力な顎を持ち、鋼鉄さえもかみ砕く、またその体内に持つ蟻酸は鋼鉄さえも溶解してしまう。

 

 一時も経たない内に2匹の巨大なドラゴンは骨をも溶かされ跡形もなく消滅してしまうだろう。

 

 この半島、南の島(神の国)には何者であれ侵入出来ないのである、恐ろしい破壊神(巨大なミツバチと巨大なアリ)が生息しているのである。

 

 このモニター画面のスイッチは消された。