多様性の困難さ「ザ・ドクター」の衝撃 | Gwenhwyval(グウェンフウィファル)の舞台日記

Gwenhwyval(グウェンフウィファル)の舞台日記

鑑賞は生中心主義。自分の眼でライブで見たことを中心に、語ろうと思います。

2021年11月12日18時公演(PARCO劇場)

 

TBSかどこかでかなり以前放映していたTVドラマじゃなくて、2019年にロンドンで上演され、多くの演劇賞を獲得したという話題作の日本上演。演出は栗山民也氏。

そんな鳴り物入りの作品だから、やはり大竹しのぶさんのご登板というのもそりゃそうだろうなと。

(ご本人は現地でご覧になっていたとのこと)

 

なのですが、これは大竹さんの演技もさることながら、脚本が凄いなと。

あちこちの劇評に書かれてますが、ジェンダーやら人種差別やらSNSやら、現代の私たちに降りかかってくる問題がどんどん提出されて、ひとつも解決(当然するわけない)しないまま、幕が下りる。

その「問題満載」自体が現代そのものなんだろう。

たくさんの問題と、すれ違い。みんながそれぞれ「自分は正しい」と思ってるもんだから、そして部分的にはかなり的を得たりしてるから、結局混沌に拍車がかかるだけ。切り口が違うと(一見)問題への回答も違ってきて、それこそ順列組み合わせ。

そんな中で惹起される、ヒロインの、自らへの疑念の萌芽。

このへんは2幕の「ディベート」という場面でスリリングに描かれていて、このへんから一気に面白さが加速した。

(1幕はちょっとつまめたかもな…なーんて、自分で書けもしないのに文句言うのはやめよう)

 

終演後、11時まで営業しているお店で友人たちと語り合った。

これだけ課題満載なので当然「引っかかるところ」もそれぞれ違って、それは本人の問題意識のありかを示していて、おもしろかった。

ひとりは、「ポピュリズム」問題だとの意見。

きわめてわかりやすく描かれる「ネットの怖さ」はもはやデフォルト。

ジェンダー問題にしても「選んだ」という解釈と「そうじゃない」という主張がぶつかる。

 

私の意見はといえば、「かんたんに多様性とか口にしちゃいけない」ってことかなー。

いや、口にしてもいいんだけど、その実現はほんとに大変なことなんだよ、って。

違うことを理解するって難しい。認め合うことと「わかんないので放置する」ってのは違う。いや、それでも「否定する」よりいいのかな。

 

今企業って、とにかく世間から文句付けられないように「多様性」「環境」を二枚看板にしていて、制度やら社内セミナー(社員の意識を上げる)やらでカタチをつけようと必死。

「これはジェンダー的に×」とかダメ出しをしながら、隣の席の女性の生き方を理解できないで内心毒づいていたりする。

まぁそれでも、口に出さなくなっただけでも進歩したということなんだろうが…。

 

自分の心の狭さを自覚して「多様性」の困難さに敬意を払え、というのもひとつのテーマなのかな?と感じました。

これはあくまで私の感じ方で、感性や思考回路でいろいろな感想が持てると思う。これこそ多様性。

 

このお芝居、さいたまで始まって、東京から兵庫→豊橋→松本→北九州までツアーするらしいので、もしお近くで見られる機会があったらお勧めしたいです。