『父の日』 | キャラパニッ!

『父の日』

 死んだ親父に何かを伝えたかったんだ。だから俺はここに戻ってきたはずだった。

「親父…」
 
 死んだんだ。勝手に、くたばって、誰をお前は幸せにできた?ずっと、あんたは孤独だって聞いたんだよ。だからなんだよ。だから、なんなんだよ!
「俺は…、俺は!」
 墓石の硬さは、鉄板以上だった。

 神様なんてこの世界に一人として存在しない。仏もまた、いない。それを人間は心のどこかで知っているはずなのに、仏教があり、信教が広がる世界。
「救われたか?悟りを誰か開いたか?はは…。くだらねぇ」
 墓場には、俺だけだ。それなのに、どこかで誰かに見られている感じはいい気分じゃない。だから叫ぶんだぜ。知ってほしい。俺は、ここにいるんだ、と。誰にでもいい。ただ、知らせたいと思うから。

 空は、青い。それだけに、俺は心が曇る。気持ちが悪いんだ。もやもやするんだ。タスケテほしいんだ。
「親父…」
 勝手に流れる涙が、制服を汚してゆく。辛いか?でも、誰がそれを認めた?俺か?他人か?
「誰でもないんだよ…」
 ただ、涙が勝手に流れるだけだ。

 親父が家から出ていったのは、3年前。浮気が原因で、出ていった。俺は、中学に入学したてで、なんか嫌な気持だったんだと、思い出す。でもさ、たったそれだけなんだぜ。
「俺は、あんたを恨んでいるんじゃない。俺は、俺は…」
 もう、すぐそこまでの言葉がまた、喉の奥に引き下がる。この、嫌な視線がその言葉を吐いていいものかと、ためらわせている気がした。そう感じた時、別の何かが口から無意識に吐き出された。異臭に立ち込める、はっきりとした意識は、もう一度繰り返す。

 誰もいないんじゃないのか?墓地(ここ)には俺だけだぜ。

 感じれば感じるほどに視線が体中を射抜いている気がして、また。

「はは…。なんなんだ…。なんなんだ…」
 目の前には、親父の墓石。冷たい、ただの石だ。そんなのが、死者を祭るのか。
「それでいいのかよ…。あんたは、何を頑張って、何してきたんだよ…。こんな冷たい石に入るために生まれてきて、俺を生んだのかよ!あんたは!…なんなんだよ…。なんで、なんで」

 自殺なんかしたんだよ!

 言葉として吐き出したのか、気持ちが叫んだのか。頭の中で、そう叫んだのか。俺は、その言葉を吐き出していたんだ。

「俺は、あんたを恨みもしない。軽蔑だってしてないぜ!俺は、俺は…息子であることが、一番の…、一番の誇りだ!だから、なんで自殺なんてしたんだ!馬鹿親父!!俺、あんたの志を貰えて嬉しかったし、自分に子供できてさ、名前、つけてさ…。あんたと…。あんたと…、つけたかった…。名前…、志を…」
 墓石に刻まれた俺と同じ一文字は、胸を締め付け、苦しめる。涙はもう止まらない。どれだけ流したって、親父はいないと知らされた。誰が神様か。誰が仏か。だれが聖人か。くだらない。くだらなすぎるんだよ!

「親父…。俺、俺は」

 あんたに出会えたことを、人生で最高の宝物にするよ。

 6月15日。父の日に、最高の告白を。

2014年 6月16日 父の日 終  大空寺 絆