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雑話178「オークション注目作品② スーチン」

先週に引き続き、今春のニューヨークのオークションの注目作品をご紹介しましょう。今週は、クリスティーズで最も高額な落札予想価格をつけたスーチンの作品です。


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シャイム・スーチン「若い菓子職人」1927年頃

「若い菓子職人」と名づけられた、この肖像画の落札予想価格は、1,600万ドルから2,200万ドル、日本円にして16億円から22億円という高額なものです。


さて、スーチンと聞いても、ピンと来ない方も少なくないでしょう。シャイム・スーチンはベラルーシ出身で、20世紀初頭に芸術の都パリに惹かれてやってきた、多くの外国人芸術家の1人でした。


彼の絵は、荒々しいタッチで描かれ、そのモティーフの形は著しく歪められており、誰でも一目でわかるほど個性的です。


今回の出品作は、6つの菓子職人の肖像画からなる、一連の作品のうちの最後に描かれたもので、このシリーズは彼の作品の中で最も有名なものの1つです。


パリに来ても絵がまったく売れずに、惨めな貧困生活を送っていたスーチンでしたが、アメリカから来た裕福なコレクターであるアルバート・C・バーンズに見いだされたことで、一夜にしてその運命が劇的に好転します。


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シャイム・スーチン「菓子職人」1919年頃

※バーンズが購入した作品

そのきっかけとなったのが、菓子職人シリーズの一作品でした。これらの菓子職人の肖像画には、6人の無名ですが、顔つきや表情が個性的なモデルたちが描かれています。


このシリーズ最後の作品では、スーチンはメランコリーの姿を最大限に表現しています。無遠慮な仕草にもかかわらず、唇はふっくらして、頬は赤く、輪郭がなだらかな彼の顔は、可愛らしさすら感じさせます。


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「若い菓子職人」の顔のアップ

彼は血色のよい腕を細い腰におき、口元が下がり、イライラした様子で、片方の骨っぽい肩をすくめるように上げていて、自信があるかのようなポーズを取っています。


しかし、彼の目は懇願しているようで、人の視線を避けようと、彼は顔を微かに観者から背けようとしています。


このシリーズは、スーチンが威厳を与えたり、また自分に尊厳があると思っていたりする、卑下されている人々の生き生きとした肖像です。


長い間、貧困の苦しみを味わったスーチンは、ボーイやウェイター、菓子職人などの制服を着るような、みすぼらしい職業の人々の記念碑を作ろうとしたのです。


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シャイム・スーチン「赤いハンカチを持つ菓子職人」1922-23年頃

制服は、モデルを職業や社会的地位のカテゴリーに分類し、非個性化する効果があります。そこで、スーチンはカテゴリーの典型の後ろに潜む個性を捉えるために、それぞれのモデルの差異を強調する必要がありました。


彼はモデルに選んだ人々の持つ、特質や性癖に惹かれていました。スーチンは激しい視線や、目立つ耳、大きな手などのモデルの特異な外観を選び、力強い絵具で覆うように要約した身体とともにそれらを描きました。


そうして描かれた菓子職人は、いつまでも記憶に残るほど印象的な作品となったのです。


スーチンの「若い菓子職人」を含むクリスティーズのナイトセールは、今週の8日水曜日19時から始まります。果たして、実際にクリスティーズが予想した16億円から22億円というような金額で落札されるのでしょうか?


この結果は、ゴールデンウイーク明けにお知らせいたします。お楽しみに。