雑話262「デ・キリコ展」 | 絵画BLOG-フランス印象派 知得雑話

雑話262「デ・キリコ展」

現在、パナソニック汐留ミュージアムで開催中の「ジョルジョ・デ・キリコ展」に行ってきました。




デ・キリコの名前を知らなくても、どこか郷愁漂うノスタルジックな街角で輪を転がす少女の絵といえば、思い当たる人も多いのではないでしょうか?


写実的でありながら、現実離れした神秘的な雰囲気の作品で知られるデ・キリコは、後のシュルレアリストたちに大きな影響を与えました。


ジョルジョ・デ・キリコ「街の神秘と憂愁」1914年(一部)

※本展には出品されていません

本展は、そんなデ・キリコの各時代の作品100余点を展示して、彼の画業を紹介するものです。


デ・キリコは、1927年に初めて「谷間の家具」というタイトルの作品を描きましたが、その後何度も同タイトルの作品を描きました。


ジョルジョ・デ・キリコ「谷間の家具」1966年

彼は家具について自らのエッセイの中で、次のように述べています。


”人気のない風景の中に配置された家具もまた、私たちに深い印象をかきたたせ得るものである。

ギリシャの人影のない廃墟でおおわれた平野や遠いアメリカの名もない牧草地に寄せ集められた椅子を想像してみよう。

対照的に、その周囲の自然環境は今まで見たこともないような形相をとるのである。”


つまり、デ・キリコは、この作品で事物を非現実的な環境に再構成することによって、受け手を驚かせ、途方にくれさせようとしているのです。


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第1次世界大戦のもたらした深刻な被害と社会不安を受け、秩序・安定・統一性の回復を願う精神風土が生まれると、それまでの前衛美術からの反動を示すかのように、多くの芸術家たちが伝統的な美術に目を向け始めました。


デ・キリコも、過去の巨匠たちの技法と行為を深く探求し、1940年代初頭には、ルーベンスの寓意画を通じて、デ・キリコのネオ・バロックの時代が始まりました。


ジョルジョ・デ・キリコ「赤と黄色の布をつけた座る裸婦」制作年不詳

上図の浜辺で椅子に腰掛け背中を向ける女性は、妻イザベッラ・ファーです。彼女は幾度となくデ・キリコのモデルとなりました。


彼女の量感あるふくよかな裸体表現や、雲や布に施されたハイライトの生き生きとした描線に、ティツィアーノやルーベンスの影響が見てとれます。


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1940年代以降、デ・キリコは過去に描いた自分の作品を数多く複製しました。


これはひとりの画家の発展や、類を見ない代表作という思想に対しての認められた考え方に異議を唱えようとしているように見えます。


「古代的な純愛の詩」では、デ・キリコ作品に幾度となく登場してきた塔と回廊のある建物を遠景に、手前には古代彫像の足や玩具、色鮮やかな物差しのような物体が描かれています。


ジョルジョ・デ・キリコ「古代的な純愛の詩」1970年頃

本作は、デ・キリコの最初期に見られるコンポジションが原型となっており、自らの過去の作品を引用した作例の一つです。


作品に、実際の制作年でなく1942年という年記を入れたデ・キリコは、もはや「古典」としての価値を帯びた自らの作品を再発見し、下り明確で豊かな想像力をもってこれを再生させたのです。


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本展には普段あまりお目にかかることの少ない晩年の作品も数多く出品されています。


ジョルジョ・デ・キリコ「燃え尽きた太陽のあるイタリア広場、神秘的な広場」1971年

写実性が薄れ、少々漫画チックになっていますが、良く知られたデ・キリコの作品とは違った一面を垣間見ることができる貴重な機会となっています。


「ジョルジョ・デ・キリコ展」

パナソニック 汐留ミュージアムにて12月26日まで開催