雑話258「ホイッスラー展」 | 絵画BLOG-フランス印象派 知得雑話

雑話258「ホイッスラー展」

昨日の11月16日まで、京都国立近代美術館で開催していた「ホイッスラー展」に行ってきました。




アメリカのボストン近郊に生まれたホイッスラーは、ロンドンとパリを主な拠点として活躍した19世紀後半を代表する画家です。


ホイッスラーは「美」を唯一絶対の目的として追求する唯美主義を主導し、「シンフォニー」や「ノクターン」などの音楽用語を作品に用いて、絵画の主題性や物語性を否定し、色と形の調和を追求しました。


人物画のセクションからは19世紀のイギリスを代表する歴史家、思想家のトーマス・カーライルを描いた作品をご紹介しましょう。


ジェームズ・マクニール・ホイッスラー「灰色と黒のアレンジメントNo.2 :トーマス・カーライルの肖像」1872-73年

作品全体を眺めると、壁に掛けれた絵や腰板など、統制された幾何学的なデザインがうまく調和され、これらの要素が作品に安定感と落ち着きを与えていることが判ります。


また、簡素化された画面は、抑えたトーンの色彩に広く支配されています。


一方で、人物像は、むらのある輪郭線、今にもずり落ちそうな膝の上の帽子、上着のふくらみ、傾げた首によって、安定を失っています。




こうして一心に物思いに耽る姿は、見る者の心を惹きつけ、揺さぶります。


この肖像画は調和のとれた配色から、また人間心理の深い考察としても、鑑賞者の知性と感情、理性と真情に訴えかけているのです。


次の風景画のセクションからは、ホイッスラーの高いエッチング技術を存分に発揮した作品をご紹介しましょう。


「16点のテムズ川の風景エッチング集」は、彼が大英帝国の産業の発達と近代化を象徴するテムズ川で、黒煙を上げる煙突や、船のマスト、絡み合うロープなどの索具などに視覚的な面白さを見出して描いたものです。


ジェームズ・マクニール・ホイッスラー「ライムハウス」1859年

「ライムハウス」は、ロザーハイズの向かい、ロンドンのイースト・エンドの湾岸地区です。


ワッピング側から東を眺めており、左手から大きな3本の係船柱を追うと、その向こうに”CURTIS GIN”の文字が見えます。


※中央少し下の建物の左端に社名の入った四角いのサインが見えます。

カーティス・ジン蒸留酒製造会社は、マイル・エンド・ロードに店舗を構えていました。


船のマストやロープが、エッチングの繊細な描線を使って見事に表現されており、とても魅力的な作品に仕上がっています。


最後の「ジャポニスム」のセクションからは、ホイッスラーの最も有名な作品をご紹介しましょう。


ジェームズ・マクニール・ホイッスラー「ノクターン:青と金色-オールド・バターシー・ブリッジ」1872-75年頃

ホイッスラーは、独自のスタイルを確立するために、構図や画面空間、色彩の調和など、日本美術からインスピレーションを得ていました。


「ノクターン:青と金色-オールド・バターシー・ブリッジ」は、彼の「ノクターン」の中でも、日本の浮世絵の影響が顕著に表れている作品です。


この作品では、テムズ川を背景として、いくらかデフォルメされた橋が大きく伸びやかに表現されています。


このように、メイン・モティーフである橋がクローズ・アップされた構図には、明らかに広重の浮世絵との類似が見られ、広重の「名所江戸百景」の《京橋竹がし》からの影響が指摘されてきました。


歌川広重「名所江戸百景」のうち《京橋竹がし》1857年

色彩に注目すると、ホイッスラーは橋を背景の色彩のアレンジメントの一部であるかのようにも描きました。


彼の作品では、橋のカーブが一筆で描かれたように見え、花火を背景として、かすかに浮かび上がるシルエットのように描かれています。


このように、ホイッスラーのノクターンは、構図だけでなく、繊細な色彩のグラデーションなどにも、広重の作品との共通点が見られます。


ホイッスラーの作品の中でも最も名高い、喚起力に優れているといわれる、この作品には、日没直後の薄暮のなかで、物影があると分っても、正確な姿を見分けることができない様子が描かれています。


橋の輪郭は、薄い絵具を塗り重ねてやわらかにぼかされ、カンヴァスには一部、地のままに残された部分もあります。


「ホイッスラー展」


〔京都展〕

2014年9月13日-11月16日

京都国立近代美術館


〔横浜展〕

2014年12月6日-2015年3月1日

横浜美術館