雑話256「チューリヒ美術館展」
現在、東京六本木の国立新美術館で開催中の「チューリヒ美術館展」に行ってきました。
本展は、スイスで最も重要な美術館のひとつであるチューリヒ美術館のコレクションの中でも、フランスの印象派からクラシック・モダンと呼ばれる時代に焦点をあてた作品で構成されています。
まず最初に出迎えてくれるのは、イタリア出身で、スイス・アルプスの光景を描いたことで知られるセガンティーニの作品です。
下の「虚栄(ヴァニタス)」はセガンティーニの晩年を代表する作品です。
ジョバンニ・セガンティーニ「虚栄(ヴァニタス)」1897年
より明るい光を求めて、アルプスに移住したセガンティーニは、短い線を描くように純色を配置する分割主義の手法によって、自然の中で生きる人々の生活に宗教的あるいは内省的な世界観を投影した画面を作り出しました。
ここには、泉の水面に映る自らの美しさに見入る女性を通して虚栄や欺瞞が描かれています。
泉は岩と岩の間にあって、深い泉の水面には黒い岩と青い空が映っています。
昼であるのと同時に夜でもあり、また人生の喜びと苦しみを描いたものでもあるのです。
一方、欺瞞は岩の黒い影の中に隠れている、ぬめぬめとした身体で目をぎらつかせている怪物として描かれています。
暗く静かな水の中から少女を欺くかのように見つめる怪物は、邪悪や罪に対する警告を表しています。
ここには、精緻に観察された自然と、作品を包括する象徴主義的内容がみごとに融和されたセガンティーニの世界観が実現されています。
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セガンティーニの作品に現われる神秘的な画面は、同じくスイス・アルプスの風景に象徴主義的世界観を投影したホドラーの作品にも通じています。
19世紀にスイスで活躍したホドラーは、輪郭線を太く力強く引くことで堅牢さを獲得したフォルムと装飾的な画面構成によって表された寓意的な人物画を数多く生み出しました。
「真実、第2ヴァージョン」の中央には、真実の寓意像である裸体の女性が、真実から顔を背ける悪としての男性を退けて堂々と立っています。
フェルディナンド・ホドラー「真実、第2ヴァージョン」1903年
身体を露わにして正面を見据える女性を軸に、類型的なポーズをとる男たちをリズミカルに配した画面は、見事な左右対称をなしています。
ホドラーは、類似した形態の反復によって秩序や統一性を生み出す「パラレリズム(並行主義)」を提唱しました。
この作品においても、パラレリズムが生む圧倒的な統一性と均衡が、世界を秩序づける原理の存在を暗示し、真実をめぐる寓意的内容の普遍性を強調しています。
ホドラーはまた、修業時代から最晩年まで、風景画を描き続けましたが、絵画の内容や形式に関する新たな試みや実験はまず風景画で行われました。
「日没のマッジア川とモンテ・ヴェリタ」はスイス南部のティチーノ州を旅したときに描かれた作品です。
フェルディナンド・ホドラー「日没のマッジア川とモンテ・ヴェリタ」1893年
正面中央の小さな三角形となったボーニャ山の頂が構成の軸をなし、その他の峰々とともに前景の川面に映り込んでいます。
また、背景と類似した質感を示す岩々は、同じく川面に影を落とし、彫刻のような存在感のある佇まいを見せています。
このような景観の水面への反映が、パラレリズムの重要な要素である左右対称の構図へとホドラーの眼を向けさせることになったのです。
今回はスイスで活躍した画家ばかりをご紹介しましたが、幅6メートルに及ぶモネの睡蓮の大作や、セザンヌ晩年の代表作など日本でも人気の画家たちの作品が多く出展されています。
また、東京で開催後は、神戸市立博物館でも来年1月に開催予定です。
チューリヒ美術館展
-印象派からシュルレアリスムまで-
・国立新美術館
2014年9月5日-12月15日
・神戸市立博物館
2015年1月31日-5月10日





