雑話243「バルテュス展」 | 絵画BLOG-フランス印象派 知得雑話

雑話243「バルテュス展」

現在、京都市美術館にて開催中の「バルテュス展」に行ってきました。


京都市美術館正面

エロティックな少女像のイメージばかりが強いバルテュスですが、今展は初期から晩年までの作品を通して画家の創造の軌跡をたどることのできる企画となっています。


それでは、今回も展覧会の注目作品をご紹介していきましょう。


「夢見るテレーズ」に描かれているのは、バルテュスの最初の少女モデルです。


バルテュス「夢見るテレーズ」1938年

バルテュスは少女というモティーフを「この上なく完璧な美の象徴」と表現していました。


パリで隣人の失業者の娘だったテレーズには、第2次世界大戦の足音が迫りくる暗い世相を反映したような憂鬱な雰囲気があり、それがバルテュスを惹きつけたといわれています。




作品では、薄暗い質素なアトリエで、両腕を頭上で組み、左ひざを立てて座り、スカートの下を無防備に鑑賞者の視線に曝しているポーズをとっています。


タイトル通り、目を閉じて夢の世界に没入しているような横顔のテレーズは、無垢から性の目覚めへの過渡期を表しているともいえます。


「美しい日々」は第2次世界で侵攻してきたドイツ軍を避けるために、バルテュスがスイスのフリブールに住んでいた時に描かれた作品です。


バルテュス「美しい日々」1944-46年

手鏡を見ている少女は、右胸を半分のぞかせ、左膝を立てて、すらりと長い脚を伸ばしています。テーブルに置かれた洗面器は、伝統的に純潔を象徴します。


鏡は伝統的に虚栄の象徴とされますが、バルテュスはそうした解釈を否定しています。




赤々と燃えさかる暖炉の前で、おそらく欲望もかき立てられている後ろ向きの男の存在が否応なしに場面の緊張と不安を高めており、傍らにはプリミティブな彫刻も置かれています。


「夢見るテレーズ」で暗い背景として描かれたアトリエは、「決して来ない時」で実際より大きめの窓から差し込む朝の光に照らし出されています。


バルテュス「決して来ない時」1949年

その光に満たされた空間に、至福の表情を浮かべながら椅子に座ってのけぞる白いガウンを羽織った少女、その少女に撫でられながら椅子の背もたれにつかまっている猫、彼らに無関心な様子で、窓を開けようとしている後ろ向きの女性が絵かれています。


少女のポーズは、ガウンから一直線に伸びる左脚に見られるように、幾何学的に構成されています。




全体的に白と茶系が基調の画面で、灰緑色に太い赤のストライプが入った椅子の背もたれがアクセントになっています。


本展には、このアトリエの開かれた窓から見える外の眺めと、アトリエ内部を描いた、バルテュスにしては珍しい作品も出展されています。


バルテュス「窓、クール・ド・ロアン」1951年

ここには少女も猫も他の人物もおらず、がらんとした室内のみです。


パリ特有の薄い日差しが、中庭の向かいにある18世紀の淡いバラ色の壁の建物と灰色がかったトタン屋根を照らし出し、窓の黒い長方形がアクセントをつける幾何学的な構造を浮かび上がらせています。


開かれた窓からアトリエ内部にも差し込んだ陽射しが、机上のガラス壜を通過して黄金色に輝かせ、灰色の水差しと緑色の器は逆光になっています。


アトリエ内部の壁や床を彩る光と影の戯れも、灰色がかった薄緑色、褐色、白などの色調の繊細な調和を生み出しています。


本展はバルテュスの回顧展としては過去最大規模のもので、世界各国の名だたるコレクションのみならず、公開されることの少ない個人蔵の作品も含め、国内ではほとんど見ることのできない貴重な作品が展示されています。


バルテュスにご興味のおありの方には、必ずや満足していただける展覧会だと思います。


バルテュス展

京都市美術館

2014年9月7日(日)まで開催