雑話223「ラファエル前派展②」
先週に引き続き、「ラファエル前派展」をご紹介していきます。
今週、最初にご紹介するのは、フォード・マドックス・ブラウンの「あなたの息子をお抱きになってくださいな」です。
フォード・マドックス・ブラウン「あなたの息子をお抱きになってくださいな」1851-52年
ラファエル前派は風俗画に生真面目な倫理性を添え、近代生活に取材した挑発的な主題を取り上げて、作品に鋭い批評性を与えようと試みました。
この作品も、若い女性が乳飲み子を’鑑賞者の側にいる子供の父親に差し出す’という異様な聖母像であり、鏡に映る父親の表情には、喜びではなく苦渋が表れています。
この複雑な構図は、ラファエル前派の画家たちが称賛したファン・エイクの「アルノルフィニ夫妻」での鏡のしかけを想起させます。
この絵は結婚と家族を祝福するものというよりは、私生児の告発するものでしょう。実際、画面からは鑑賞者である父親を非難する気配が伝わってきます。
全体に漂う不快感や、未完成に終わったという事実が、この解釈の信憑性を増し、19世紀の生んだ最も混乱した母子像になりました。
次の作品はラファエル前派の3人のリーダーの1人、ダンテ・ゲイブリエル・ロセッティの「モンナ・ヴァンナ」です。
ダンテ・ゲイブリエル・ロセッティ「モンナ・ヴァンナ」1866年
初期のラファエル前派の目的は、芸術の力によって社会に覚醒を目指そうとしていましたが、次第に絵画制作の純粋に美的な可能性を探ることに変化していきました。
ロセッティは斬新かつ独自の美を追求し、女性の上半身に官能的な肉付けを添え、宝飾品と花で美しく飾った姿をクローズアップした多数の作品を制作しました。
「モンナ・ヴァンナ」もそのうちの1点で、ロセッティ自身のよると「ヴェネツィア派の理想とする女性美」を表現しようとしたものです。
生気に満ち、自らの肉感性を十分に意識したこの女性は、贅沢に金糸の刺繍をあしらった白地のドレスに身を包み、雷鳥の羽根製の扇を気だるげに片手に持ち、もう一方の手で太い首にかけたインド産の産後のネックレスをもてあそびながら、冷ややかな眼差しを画面の外に送っています。
タイトルの「モンナ・ヴァンナ」とは「虚栄の女」という意味で、物質的な富の引き立て役に甘んじている無表情の女性の人となりをうかがわせます。
次の「プロセルピナ」もロセッティの作品で、ラファエル前派を代表するものといえるでしょう。
ダンテ・ゲイブリエル・ロセッティ「プロセルピナ」1874年
プロセルピナはローマ神話に登場する女神で、ロセッティが魅了された神話上の人物のひとりです。
ロセッティはこの主題を晩年の10年間に8度も取り組みましたが、それらのすべてには彼と親密な関係を結んでいたジェイン・モリスの面影を偲ぶことができます。
近年、ジェインの生涯は、この古代の女神に例えられています。
プロセルピナはザクロの種を一粒食べた後、地下世界と地上世界の両方で交互に生きなければならなくなり、地下では冥府の神プルートーに愛され、地上に戻れば春に迎えられました。
ロセッティに崇拝されていたジェインは、同じラファエル前派のウィリアム・モリスの妻だったのです。
ロセッティはパトロンの1人に”人物の背後の壁を照らす光は、プロセルピナが追放されてきた地上の世界から射すもので、壁を這いのぼる蔦はしがみつく記憶を象徴する”と語っています。
今回は特に有名な作品を中心にご紹介させていただきましたが、この他にも多くの代表的な作品があり、非常に充実したコレクションです。
特に、小品ながらもラファエル前派らしい緻密で美しい風景画がいくつもありました。
チャールズ・オールストン・コリンズ「5月、リーフェンツ・パークにて」1851年
これだけの作品が日本で見られるのは非常に貴重な機会ですので、お時間の許される方は、是非一度お立ち寄りください。
テート美術館の至宝 ラファエル前派展
-英国ヴィクトリア朝絵画の夢-
2014年4月6日まで森アーツセンターギャラリーにて開催






