雑話220「ターナー展①」 | 絵画BLOG-フランス印象派 知得雑話

雑話220「ターナー展①」

現在、神戸市立博物館で開催中の「ターナー展」にいってきました。




英国最高の画家と讃えられている、ジョセフ・マロード・ウィリアム・ターナーは、19世紀に活躍したロマン主義を代表する風景画家です。


ターナーは生涯にわたって風景表現の可能性を探求し続け、「崇高」な自然を描き出そうとした作品や、光と色彩にあふれる幻想的で詩情にみちた作風で有名です。


それでは、早速展覧会の注目作品を見ていきましょう。


「月光、ミルバンクより眺めた習作」は、ロイヤルアカデミー展に出品された最初期の油彩画のひとつです。


J.M.W.ターナー「月光、ミルバンクより眺めた習作」1797年

月明かりの照らす光景は18世紀に流行した伝統で、ターナーの多くの初期作品にその影響が認められます。


水面に映る月明かりのハイライトは、情景を照らす唯一の光源であり、揺るぎない筆捌きで描かれた満月の白い円盤の下に、このうえなく繊細な白の絵具のタッチで表現されています。




ターナーが若い日々を送った頃のミルバンクは、ロンドンのなかでも静かな地域でした。この辺りの川の穏やかさは、明るい夜空にくっきりシルエットを残して佇む船に姿によって表現されています。


風景に対するターナーのアプローチに重要な影響を及ぼしたのが、当時世に広まっていた”見る者の心に畏怖をいだかせる自然の「崇高」さを美しい”とみなす価値観でした。


アルプスの雪崩を描いた「グリゾン州の雪崩」は、ターナーの山岳風景の中でも特に大胆かつ劇的なもので、「崇高」の美学をめぐる彼の解釈を最もよく表現したものといえます。


J.M.W.ターナー「グリゾン州の雪崩」1810年

この作品は崇高な芸術作品に求められるすべての要素、すなわち大きさ、危機感、目を見張るような自然現象の描写が備わっています。


しかしここでは絵具の物質的な特性を活かした描き方が、見る者の感覚を襲い、スリルを感じさせるほどの現実感を絵に与える要因となっています。




ターナーはパレット・ナイフを多用して、彼の油彩画の技法の最大の特徴をなす厚塗りの層と薄く不透明な層を作り出し、絵具の実在性を強く感じさせる、ほとんど抽象的な画面を得ました。


顔料をあくまで濃く、質感豊かに塗布しているため、崩れ落ちる雪のなにもかも圧し潰そうとする重量と鉛色の空から吹き下ろす風の、身を切る鋭さが感じられるほどです。


「レグルス」は、ターナーの画家人生の中でも大きな転機となったイタリア旅行から9年後に、再度訪れたローマで描かれました。


J.M.W.ターナー「レグルス」1828年

本作の主題は、カルタゴの捕虜となった古代ローマの将軍マルクス・アティリウス・レグルスです。伝説によると、暗い地下牢に閉じ込められ、瞼を切り取られたレグルスは、牢獄から引きずり出され、陽光に当たり、失明します。


ターナーは、瞬きできないレグルスの目が眩いばかりの陽光に晒される悲惨な瞬間を絵画化して不朽のものとしました。鑑賞者は命尽きたこのローマ人同様、絵の中心で燃え盛る白熱の太陽を見つめるよう強いられるのです。




それまで光をこのように烈しく、人の心をかき乱すように描こうとした者はありませんでした。ターナーはこの絵をローマで展覧会を開いて発表し、作品を見にやってきたローマ市民を大いに面食らわせました。


ロンドンでも同様の賛否両論が巻き起こりましたが、評論家のひとりは「このような絵を、ターナーのほかに誰が描けようか?」といったそうです。


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