雑話212「モローとルオー展②」
先週に引き続き、「モローとルオー展」をご紹介いたします。
◆セクション3 聖なる表現
モローは熱心なカトリック教徒ではありませんでしたが、聖書や聖人伝を十分理解し、単なる物語の絵解きには留まらず、そこに込められた精神性に深く迫る宗教画を残しました。
ギュスターヴ・モロー「ピエタ」
上図の「ピエタ」のようなキリスト受難に関連する作品では、愛するものを失ったものたちの痛切な哀しみが、抑制された色彩と震えるようなマティエールを通して描き出されています。
モローが覚書の中で「芸術は、宗教に次いで、人間にとって、自らの内にある聖なるものを表現しうる唯一の手段である」としていましたが、師のこうした言葉を、ルオーほど真に感得することのできた弟子はいないでしょう。
ルオーは、カトリック者として明確な自覚を持ち、信仰に裏打ちされた内的ヴィジョンを作品にうつし出そうとしました。
ジョルジュ・ルオー「聖顔」1933年
※聖女ヴェロニカが十字架を背負ったキリストに顔を拭くための布を差し出したところ、その布にキリストの顔の跡が残ったとされています
上の「聖顔」に描かれているのは、地上の物質であるヴェロニカの布に刻印されたキリストです。
神秘的に顕現したキリストは、ルオーが内的ヴィジョンを表現する源としていたマティエールに溶け込むように描出されています。
画題の意味と絵画表現とが同期した本作は、ルオーの画業の中でも傑出した聖なものの表現といえるでしょう。
◆セクション4 マティエールと色彩
国立美術学校の教えで、モローが強調したのは「色彩の解放」と「美しい材質感(マティエール)」でした。
ギュスターヴ・モロー「パルクと死の天使」1890年頃
※パルクとはギリシャ神話の運命の女神です。
パレットナイフを用い、引っ掻き、非常に厚塗りで描かれた本作は、ほとんど表現主義の絵画のようです。そのフォルムと色彩において、ルオー作品と完全に繋げて考えることのできる唯一の作品だといわれています。
彼は、アカデミスムが推奨するデッサンの巧みさに対抗し、色彩の研究を行っており、下絵なしに絵具で直接キャンヴァスへ向かう描き方を認め、何よりも個性を尊重しました。
モローの教えを忠実に追求したルオーは、複雑な混合技法を用い、これまでにない光輝く絵画を探求します。
ジョルジュ・ルオー「我らがジャンヌ」1948-49年
色とりどりの絵具を重ね、削り、また重ねることで表出するルオー独特の色彩の万華鏡は、師匠ゆずりの手法です。
晩年ルオーは、ステンドグラスの輝きを油彩で表現することを試み、重ね塗りした複雑な絵の具層の最上部にオレンジや黄色、白を配し、眩いばかりの光るマティエールを生み出しました。
厚く塊のある豊かな色彩は、最後に塗られた黒い輪郭線から飛び出してきそうです。
「我らがジャンヌ」の一部
モローが色彩のトーンやコントラストの中に特別な表現的意味をもたせたように、ルオーも色彩のハーモニーの中に神々しく光り輝く世界を表現することを目指しました。
ルオーが画業の最後で見せた歓喜の色彩は、偉大なる師に対するオマージュであり、師とともに見た夢の世界なのです。
東京展は終了しましたが、コレクションがフランスのモロー美術館に戻る前に、松本市美術館で2014年3月23日(日)まで同展を開催しています。
ご興味のおありの方はフランスよりは近いですし、一度足をお運びになってはいかがでしょうか?




