雑話209「現代アート-最高落札価格記録を更新」 | 絵画BLOG-フランス印象派 知得雑話

雑話209「現代アート-最高落札価格記録を更新」

この11月12日にニューヨークで開催されたクリスティーズのコンテンポラリーアートのセールにて、オークションにおける最高落札価格の記録が更新されました。


新たに最も高額な作品となったのは、フランシス・ベーコンの「ルシアン・フロイドの3つの習作」という作品で、落札価格は1億4240万5千ドル、約142億円でした。


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ベーコンの作品の前で入札するクリスティーズの社員

それまでの最高落札価格がつけられたのは、昨年5月に落札されたムンクの「叫び」で、その価格は1億1992万ドルでした。


世界で最も有名かもしれない作品よりも、どちらかというとマニアックなベーコンの作品が高く評価されたことには、正直驚かされました。


フランシス・ベーコンは、溶け出したような肉体が登場する磔刑図や、電気椅子に処刑されたような聖職者を描いたグロテスクな作品で有名です。


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フランシス・ベーコン「ベラスケスの法王イノセント10世の肖像に基づく習作」1953年

今回落札された「ルシアン・フロイドの3つの習作」に描かれた人物は、ベーコンのごく親しい友人で、彼と並んで20世紀のイギリス具象絵画を代表する画家です。


この作品が描かれた1969年は彼らの関係が頂点だった年で、ベーコンはこの最高の友人を彼特有の筆遣いで、生き生きと描いています。


ベーコンは肖像画を描く行為を、”怪我を負わす”と表現していました。


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「3連画-ジョージ・ダイアの想い出の中で 1972」のジョージ・ダイア

例えば、多くのベーコンの絵のモデルとなったジョージ・ダイアは、キャンバス上の激しい筆遣いの攻撃によって今にも倒れそうになっています。


しかし、この3連画の中のフロイドは、捻じ曲げられてはいるものの、自信に満ちており、表現的な猛攻撃の中でしっかりと顔を上げています。


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「ルシアン・フロイドの3つの習作」の中央パネルのアップ

同性愛の愛人であったダイアとは違い、ライバルでもあったフロイドに対してはその姿にも敬意を払ったのでしょうか?


この3連画という形式は、古くから宗教画に多く使われてきました。伝統的に聖なる形式で描かれた、「ルシアン・フロイドの3つの習作」は、偉大で、信仰的な資質を帯びています。


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フランシス・ベーコン「ルシアン・フロイドの3つの習作」1969年

それにしても、この決して一般受けしそうもない作品がなぜこれほどまでに高額になったのでしょうか?


1つには、ベーコンはピカソのような多産な作家ではなく、売りに出される作品の数が少ないことがあげられます。


さらに、ベーコンの作品の場合、その主題が重要なのですが、彼とフロイドの友情とライバル関係については、多くの記述が残されており、この作品を希少なものにしています。


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ベーコンとフロイド

別の大きな要因としては、この10年強に渡るコンテンポラリーアート市場における熱気です。2002年では8億5千万ドルほどだったこの市場の総額は、昨年には60億ドルにまで暴騰しました。


最後の、そしておそらく最も重要な要因が、桁違いの富裕層の出現です。景気が後退してから、中間層の賃金は停滞したままなのに、金持ちはさらに金持ちになったように見えます。


この傾向は芸術市場でも明らかで、超高額品ほど活発に取引されています。超資産家や新興の富裕層が芸術市場への参入に関心を高めているのです。


彼らにとって、コンテンポラリーアートは手に入れやすく、ステイタスシンボルとしても、見栄えがするそうです。