雑話206「近代への眼差し 印象派と世紀末美術展」
現在、東京丸の内の三菱一号館美術館で開催中の「近代への眼差し 印象派と世紀末美術展」に行ってきました。
三菱一号館美術館正面入口
今展は、同館のコレクションの中から、印象派や象徴主義、ナビ派の画家たちを中心に19世紀の近代美術の巨匠たちの作品を公開しています。
入口を抜けると、最初の部屋には印象派の作品が並んでいました。まず目に留まったのは、ピサロの「窓から見たエラニーの通り、ナナカマドの木」です。
カミーユ・ピサロ「窓から見たエラニーの通り、ナナカマドの木」1887年
これは、まさに先日ご紹介した分割主義の様式をピサロが採用していたころ作品で、画面全体が小さなドットで描かれています。
またこの時期は、前景を強調しながら上から見下ろすような視点を取り、急速に奥まっていく遠近法を用いています。この極端な遠近法の強調は、浮世絵の影響とも言われています。
隣の部屋に移ると、展覧会の看板作品でもあるルノワールの美しい女性像が展示されていました。
ピエール=オーギュスト・ルノワール「長い髪をした若い娘(麦藁帽子の若い娘)」1884年
黄金色の豊かな髪が、補色となる青く沈んだ背景に浮かんでいるこの作品の随所には、色彩を併置した流れるような描線が見られます。
一方、顔や手には印象派時代のルノワールがほとんど使わなかった輪郭線が用いられています。これはアングルとラファエロから学びながら、新たな画風を模索していた転換期の重要な作風です。
次の部屋からは、しばらく版画の作品が続きます。最初の作品は幻想的な作風で知られるルドンの版画のシリーズです。
オディロン・ルドン「沼の花、悲しげな人間の顔」(シリーズ「ゴヤ頌」から)1885年
ルドンはアカデミスムと印象派のどちらとも距離を保ち、夢の領域を開拓しました。
その世界は、当時転換期だった植物学、地学、天文学、細菌学、そして進化論が席巻したのちの生物学に裏打ちされ、フロイトの登場以前に無意識にも足を踏み込んでいます。
ルドンの後には、当時ポスターとして制作されたロートレックの有名なリトグラフの作品が現われます。
トゥールズ=ロートレック「ムーラン・ルージュ、ラ・グーリュ」1891年
※縦193.8cm、横119.3cmという大きなもので、間近で見ると縦に3枚の紙が継いでありました。
また、この作品は、ロートレックのポスター第1作でした。
娼婦たちと生活をともにしながら、娼婦を題材にした傑作を多数描いたロートレックは、最初ポスター作家として名声を確立したのでした。
ポスターというだけあって、作品の中には想像していたよりもはるかに大きいものもあり、そのサイズに圧倒されました。
版画作品が続いた後、この美術館の看板作品の一つ、先ほども登場したルドンの巨大なパステル画である「グラン・ブーケ(大きな花束)」が、暗い展示室にそびえ立つように浮かび上がってきます。
オディロン・ルドン「グラン・ブーケ(大きな花束)」1901年
※なんと248.3cm×162.9cmという巨大さです!
この作品は、ルドンが描いた最大のパステル画で、長い間フランスの城館に秘蔵されていました。
印象的な青い花瓶にこぼれ落ちんばかりに投げ入れられた花々は、よく見ると現実の花束ではありません。
それらは花の姿を借りていますが、夢幻の世界に咲いているのであり、だからこそ、不安の鼓動をともなって私たちの感覚を揺らすのです。
展覧会には、この他にも、ルノワールやモネの油彩画、ユニークなヴァロットンの木版画などの貴重な版画群などがあり、この美術館の看板作品の総出演といった感じです。
最初の展示室の様子
※美術館としては珍しい木製の床は、歩くたびにコツコツと靴音が響きます。
明治時代に建てられた洋館を再現したという三菱一号館美術館には、他の美術館にはないレトロな雰囲気があり、そんな中で眺める名品の数々には格別の味わいがあります。
都会の中のオアシスともいえる空間に、日頃疲れた精神の骨休めに行かれてはいかがでしょうか?
三菱一号館美術館 名品展2013
近代への眼差し 印象派と世紀末美術
2014年1月5日(日)まで開催






