雑話175「ルーベンス展」
現在、東京・渋谷のBunkamuraザ・ミュージアムで開催中の「ルーベンス展」に行ってきました。
ルーベンスは17世紀のフランドル(現在のベルギー・オランダ・フランスにまたがる地域)で活躍した画家で、バロック美術の第一人者です。
バロック様式とは、動き、色彩、官能性を強調し、ほとばしるような大胆さを特徴としています。
さて、展覧会の第1章では、若きルーベンスが古代彫刻やルネサンスの巨匠や当時の一流の画家たちの作品を積極的に研究したイタリア時代の作品が展示されています。
この章の最後にある「ロムルスとレムスの発見」の題材は、ローマの建国伝説にまつわる有名な出来事です。
ペーテル・パウル・ルーベンス「ロムルスとレムスの発見」1612-13年頃
古代の都市国家アルバ・ロンガの王ヌミトルは弟アムリウスに王位を簒奪され、娘の双子の子供は川に捨てられてしまいます。
しかし、双子の兄弟は雌狼とキツツキに育てられて生き延び、祖父と協力してアムリウスを倒します。ここでは、まさに彼らが羊飼いに発見される場面を描いています。
この絵の構図の中心となる、雌狼と2人の子供たちは、当時ヴァティカンのベルヴェデーレの中庭に置かれていた古代彫刻を参考にしています。
古代ローマ彫刻 「テヴェレ川」の雌狼と双子の部分
しかし、石でできた彫刻という素材を利用しているにもかかわらず、子供たちの肉体は自然で、生気が溢れており、雌狼の毛並の描写には、ルーベンスの見事な筆致が際立っています。
「ロムルスとレムスの発見」の狼と双子の部分
8年のイタリア滞在の後、アントワープに戻って人気作家となったルーベンスは、大量の注文を捌くために、多くの助手たちが働く工房を持っていました。
第2章では、祖国で描いた自らの作品や、工房を使って制作した作品が展示されています。
「眠る二人の子供」は注文作品ではなく、彼の工房で働く助手たちの手本として描かれた油彩スケッチだと思われます。
ペーテル・パウル・ルーベンス「眠る二人の子供」1612-13年頃
薄い布と毛布を被って並んで眠る2人の幼い子供の様子がとても可愛らしい、愛すべき作品です。
ふくよかな頬の描写には、ルーベンスが幼子の顔の表現にしばしば用いた強い赤色が見られ、画中で印象的な色彩のアクセントになっています。
「眠る二人の子供」の顔のアップ
※この子供の顔は、左右反転され、目を開けた状態で、下図のキリスト(中央の子供)の頭部に利用されています
「聖母子と聖エリサベツ、幼い洗礼者ヨハネ」は、ルーベンスと工房による同名の作品の、工房による質の高い模写だと思われます。
ペーテル・パウル・ルーベンス「聖母子と、聖エリサベツ、幼い洗礼者ヨハネ」1615-18年頃
工房の助手がルーベンスの水準で描くことは不可能だったため、ルーベンスは多くの作品に加筆することで一定の水準を維持しようとしましたが、顧客によっては、自らが全く手を加えていない、質的に劣る作品も販売したようです。
この絵には他にも数点のヴァージョンがあり、かつ構図を忠実に再現した版画と部分的に改変を加えた版画も知られており、このルーベンスの構図が大変な人気を博したことが窺えます。
第3章では、ルーベンスと共同で制作した静物画や動物画専門の画家たちの作品、第4章では助手や外注先としてルーベンスの制作を助けた画家たちの作品が展示されています。
最も有名なルーベンスの弟子は、アンソニー・ヴァン・ダイクです。のちに彼はイギリスの宮廷画家となり、優れた肖像画を多数制作しました。
「悔悛のマグダラのマリア」はヴァン・ダイクがルーベンス工房と密接な関係があった1618-20年頃に制作したと考えられます。
アンソニー・ヴァン・ダイク「悔悛のマグダラのマリア」1618-20年頃
若くて美しい官能的なマグダラのマリアが、荒野で悔悛の涙を流しています。聖女のやや右方に向けられた身体と、左方に傾けられた頭部が、優雅な逆S字形を形成しています。
彼女は眼を赤くして、大粒の涙を流してはいますが、その口元には笑みを浮かべ、喜びの視線を天上へと向けています。
こうして、その表情、視線、動感に満ちた身体の身振りによって、ヴァン・ダイクはまさに聖女の幸福なる悔悛の瞬間を見事に描き出しています。
最後の第5章では、ルーベンスの国際的な名声の拡大に大きく貢献した質の高い版画が展示されています。
「ライオン狩り」はルーベンスの同名の油彩画に基づく版画です。
スヘルテ・アダムスゾーン・ボルスウェルト「ライオン狩り」(ルーベンス原画)
この作品の原画について、彼は自筆作品でも最良の作品の1つであると述べていますが、実際画中の人物や動物が渾然一体となった版画作品でも、動感溢れる激しい暴力的な狩猟のドラマが、見事に描き出されています。
「ライオン狩り」の馬に噛みつくライオン
版画化された作品は、元の油彩画の構図を上方、左方、右方で少し拡大している以外、左右反転の状態でほぼ忠実に再現しています。
「ライオン狩り」の襲われる家来
「ルーベンス展」はBunkamuraザ・ミュージアムにて、今週末の21日まで開催ですので、ご興味のおありの方はお急ぎください。
なお、その後は北九州美術館(2013・4・28~6・16)、新潟県近代美術館(2013・6・29~8・11)に巡回予定です。










