雑話176「リヒテンシュタイン 華麗なる侯爵家の秘宝」 | 絵画BLOG-フランス印象派 知得雑話

雑話176「リヒテンシュタイン 華麗なる侯爵家の秘宝」

現在、京都市美術館で開催中の「リヒテンシュタイン 華麗なる侯爵家の秘宝」に行ってきました。


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京都市美術館正面

リヒテンシュタイン公国は、スイスとオーストリアに囲まれた、日本の小豆島と同程度の面積の小さな国です。


この展覧会を構成するのは、その元首であるリヒテンシュタイン侯爵家が約5世紀に渡って収集した美術品コレクションです。


会場では、同コレクションを特徴づけるバロック美術を中心に、ルーベンスの数々の傑作や、ラファエロ、レンブラント、ヴァン・ダイクらの名画に加え、彫刻、タペストリー、美術工芸品、陶磁器などを織り交ぜて展示しています。


最初の部屋には、リヒテンシュタイン侯爵の夏の離宮を装飾するために注文された、幅が2mを超える大きな作品が4点飾られています。


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マルカントニオ・フランチェスキーニ「アポロンとディアナの誕生」1692/98年

これらはすべて、当時ボローニャで最も人気のあった、古典主義の代表的な画家フランチェスキーニの作品で、題材はローマ神話から選ばれています。これらの作品を見れば、当時のヨーロッパ貴族の趣味が分りますね。


次の部屋では、ルネサンスの絵画とバロックの絵画が向かい合うように掛けられています。ルネサンスの作品の中で注目度が高いのは、やはり巨匠ラファエロの作品です。


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ラファエロ・サンティ「男の肖像」1502/04年頃

この不愛想な男を描いたラファエロの作品は、初期のものです。色数は少ないものの、澄み切った、それでいて力強い色彩は、ラファエロに特有のものです。


その色彩は、一貫してフォルムに関わり、画面の明快な構造を強調しています。こうした調和と均衡こそ、イタリア盛期ルネサンスの特徴の一つです。


反対側の壁面で最もバロックらしいのは、フランチェスコ・ソリメーナの「モーセの発見」でしょう。


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フランチェスコ・ソリメーナ「モーセの発見」1690年頃

ソリメーナは17、18世紀にナポリで活躍した最も重要なバロック画家のひとりです。この作品の複雑な構図や、光と影を効果的に使ったドラマチックな画面は、調和を求めたルネサンス美術とは対照的です。


17世紀のフランドル・オランダ美術の巨匠たちの部屋では、アンソニー・ヴァン・ダイクの「マリア・デ・タシスの肖像」が魅力的です。


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アンソニー・ヴァン・ダイク「マリア・デ・タシスの肖像」1629/30年頃

ヴァン・ダイクはルーベンスの助手として彼の工房で働いた後、イギリスにわたり、当地随一の宮廷画家となりました。


豪華な絹のドレスや繊細なレースでできた幅の広い襟の質感は素晴らしく、ほのかな笑みを浮かべてこちらを見つめる若々しい女性の自然な魅力と美しさは、彼女の堂々としたポーズに生き生きとした感覚を与えています。


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マリア・デ・タシスのアップ

展覧会のクライマックスは、最後の部屋で訪れます。リヒテンシュタイン・コレクションが誇る世界屈指のルーベンス・コレクションです。


最初に現れるのは、展覧会の広告にも使われている「クララ・セレーナ・ルーベンスの肖像」です。


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ペーテル・パウル・ルーベンス「クララ・セレーナ・ルーベンスの肖像」1616年頃

これは、ヨーロッパ美術の歴史において最も感動的な子供の肖像画の一つといわれています。


クララ・セレーナのまなざしはまっすぐにこちらを見つめています。当時の肖像画には類を見ないこの直接性は、父と娘との親密さをよく表しています。


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クララ・セレーナ・ルーベンスのアップ

背景と衣服の灰緑色の色合いに、肌色の暖かい色調がよく映えています。そして、赤みが強調された頬と鼻や額に施されたハイライトによって、はち切れんばかりの生命感が伝わってきます。


もう一つ、ルーベンスらしい作品をご紹介しましょう。「マルスとレア・シルヴィア」です。


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ペーテル・パウル・ルーベンス「マルスとレア・シルヴィア」1616/17年頃

古代神話から取られた題材で、軍神マルスとかまどの女神ヴェスタに仕える女祭司レア・シルヴィアの物語です。


ここでも、ルーベンスの特徴である、動きを感じさせたり、情感を漂わせたりする、大きくて肉付きの良い人体、明暗の強いコントラスト、暖かく輝かしい色彩が見られます。


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マルスとレア・シルヴィアのアップ

このスリリングな視覚的言語によって、ルーベンスは北ヨーロッパにおいて最も有名で最も成功した画家となったのです。


これら以外にも、美術工芸品や家具、タペストリーが宮殿を特徴づけるバロック様式の室内装飾と調和するように並べられ、空間全体が一つの芸術として提示された「バロック・サロン」やリヒテンシュタイン侯爵家の肖像画などもあり、見どころ満載です。


ヨーロッパ美術や、貴族の館のインテリアにご興味のおありの方は、一度ご覧になってはいかがでしょうか?


「リヒテンシュタイン 華麗なる侯爵家の秘宝」は6月9日まで開催されています。