雑話152「秋のNYオークション 注目作品その②」
先週に引き続き、ニューヨークの秋のオークションの注目作品をご紹介します。
今週は、クリスティーズの全ての作品のうち、最も高額な落札予想価格がついた、モネの「睡蓮」を取り上げます。
クロード・モネ「睡蓮」1905年
この作品も、サザビーズのピカソとほぼ同額の3000万ドルから5000万ドルという落札予想価格がつけられました。現在のレートで日本円に換算すると、だいたい24億円から40億円です。
さて、この作品を含むモネの「睡蓮」のシリーズは、いうまでもなく彼の代表作です。
モネの「睡蓮」は、パリの北西60kmに位置するジヴェルニーにある自宅の庭に設けられた蓮池で描かれました。
自宅の庭に立つモネ
熱心なガーデニング愛好家だったモネは、ジヴェルニーの土地を購入すると、隣地を買い足して、所有地を広げていき、そこに素晴らしい庭を作りました。
モネの庭には、地元の行政から川の水を引く許可を得てまで作った、1000平方メートル近くもある池があり、静かで神秘的、瞑想的な水辺の庭は、家の周りの伝統的な庭と好対照をなしていました。
モネの蓮池のある庭
そうして情熱をこめて作り上げた池のある庭は、インスピレーションの源泉となっただけでなく、彼の芸術の新境地を開くきっかけとなりました。
蓮池を描き始めた当初は、構図や遠近法のために、水面の様子と一緒に日本の橋などが描かれていましたが、それらは次第に省かれていき、最後には池の水面自体がモチーフとなっていきました。
クロード・モネ「日本の橋」1899年
最後までキャンバスの上の端に残っていた、帯のような池の対岸が取り除かれると、多彩な変化をする表面と分解した形によって、目を眩ますような不安定な画面が生み出されました。
クロード・モネ「睡蓮」1904年
※この作品ではまだ上部に対岸が描かれています
いまや、池の外にある世界は、水面に映ったはかない影としてのみ存在するのです。
今回出品されている「睡蓮」は、1905年から1908年にかけて描かれた重要なシリーズの中の一つです。
この期間には、60を超える蓮池の作品が制作されましたが、それは3週間に1枚の割合で描かれたことになり、モネにとっても桁外れに多産な時期でした。
この絵を含む1905年から1907年に描かれた作品の特徴は、大きな横縞状に描かれた蓮の葉の島と、それに並置された木や空の波状の垂直の影です。
「睡蓮」右上部
※右側に柳のような木が映っています
花や蓮の葉が小さくなっていくことで示された、従来の奥行き表現は、のびのびとした力強い筆づかいで強調された、平面的キャンバスと好対照を成しています。
「睡蓮」中央上部
花はもっとも厚く塗り重ねられており、池の水面に浮かんでいる様子を強調するように、彫刻的な存在感が与えられています。
「睡蓮」左手前に描かれた花の部分
一方、水の部分では、薄く塗られた色が何層にも重ねられ、光の反射と池の深さの応じた色合いの変化をほのめかしています。
「睡蓮」中央の水の部分
これらの作品を一堂に集めた”睡蓮”の展覧会は、大成功を収め、モネはかつてないほどの収入を手にします。
今回の作品も落札予想価格の上限に達すれば、モネの作品としては歴代2番目に高額で落札されることになり、クリスティーズにとっても、出品者にとっても大成功となるでしょう。
注目のオークションは11月7日、アメリカ東部時間の19時に開始します。
オークションの様子は帰国後お知らせする予定です。
どうぞ、お楽しみに。








