雑話131「セザンヌ-パリとプロヴァンス展」 | 絵画BLOG-フランス印象派 知得雑話

雑話131「セザンヌ-パリとプロヴァンス展」

東京、六本木の国立新美術館に「セザンヌ-パリとプロヴァンス展」を見に行ってきました。


絵画BLOG-フランス印象派 知得雑話-国立新美術館

国立新美術館正面

この展覧会は、パリとプロバンスという2つの地で制作に励んだセザンヌの偉業を振り返るというテーマで企画されています。


初期の作品から晩年のものまでが、モチーフ別に数多く展示されており、かなり充実した展覧会になっています。


今回は、そのなかで個人的に気になった作品を中心にご紹介していきます。


まず、初期の厚塗りで暗い作品群の展示会場を抜けると、4つの背の高い作品が現れます。


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ポール・セザンヌ「四季」1860-61年

※左から夏・冬・春・秋

「四季」と名付けられたそれらは、セザンヌの父が購入したプロヴァンスの領主の館だったといわれる邸宅「ジャス・ド・ブッファン」の大広間の装飾画として制作されました。


明るい色調でほっそりと描かれた女性たちは、セザンヌらしさが感じられないどころか、どこかぎこちない印象さえありますが、314cmもある高さの与える迫力が見るものを圧倒します。


風景画のセクションに入るとすぐ、第1回印象派展の出品作として有名な「首吊りの家、オーヴェール=シュル=オワーズ」が目に入ります。


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ポール・セザンヌ「首吊りの家、オーヴェール=シュル=オワーズ」1873年

ピサロと一緒に戸外制作していた頃の作品で、印象派らしい色鮮やかな風景画ですが、55.5×66.3cmと展覧会の出品作としては小さめだったのが意外でした。


しかし、光の効果を捉えようとした印象派の手法に頼りなさを感じたセザンヌは、印象派絵画を古典芸術のような堅固で永続的なものにするために、厳格な画面を構築しようとしました。


そこで、同じ方向に斜めの短いストロークを連ねて、画面を緊密に結びつけるセザンヌの絵画に特徴的な「構造的筆触」を発展させていきます。


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ポール・セザンヌ「レスタックの陸橋」1883年頃

独自の絵画表現を追求していく中で、セザンヌの風景画には抽象的な筆触が表れるようになります。


構築的筆触よりやや幅広の抽象的な筆触で覆われる画面は、もう厳格な画面構成による堅固で永続的なものというよりも、むしろイリュージョニスティックなものに感じられます。


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ポール・セザンヌ「大きな松の木と赤い大地」1895-97年

セザンヌの絵画がイリュージョニスティックなのは風景画に限らず、他の分野の作品にも数多く見られる特徴です。


自らの妻を描いた「赤いひじ掛け椅子のセザンヌ夫人」では背景の黄色の壁とひじ掛け椅子が、奥行きを欠いた平坦な画面に仕上げられ、まるですべてが壁紙のように感じられます。


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ポール・セザンヌ「赤いひじ掛け椅子のセザンヌ夫人」1877年頃

イリュージョニスティックな効果は、有名なりんごの絵をはじめとする静物画でさらに顕著になります。


平面的な画面はもちろん、モチーフの水平面や床面、机面は手前に傾けられています。静物は今にも崩れ落ちそうに見えますが、全体は熟考を経て構築され不安定な感じはありません。


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ポール・セザンヌ「りんごとオレンジ」1899年頃

ある意味、三次元のモチーフを二次元の画面に表現しようとする絵画はすべてイリュージョニスティックといえます。


できるだけイリュージョンであることを隠そうとした伝統的な絵画とは対照的に、あえてそのことを強調したセザンヌの絵画だからこそ、彼がモダンアートの父と呼ばれる所以なのでしょう。


これだけ多くのセザンヌの作品をまとめて見る機会は滅多になく、大変貴重な経験ができました。開催が今日までですので、もしお時間がおありでしたら、急いでご覧になることをお薦めします。