雑話121「リュベンスとフランダースの犬」 | 絵画BLOG-フランス印象派 知得雑話

雑話121「リュベンスとフランダースの犬」

テレビアニメにもなった「フランダースの犬」。不幸な結末を迎えた主人公の姿に涙された方も多かったのではないでしょうか?


物語の最後になって、主人公のネロはずっと見たいと憧れ続けていた教会の絵を見ることのできたのですが、それがバロックの巨匠であるリュベンスの絵であったことは知る人ぞ知るところです。


舞台となったベルギーのアントワープにあるノートルダム大聖堂には、物語が書かれた当時のまま、リュベンスの祭壇画がかけられています。


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ノートルダム大聖堂、アントワープ

中でも「キリスト昇架」と「キリスト降架」はリュベンスの初期の代表作であり、これらによって彼の名声は確立され、北ヨーロッパ随一の画家として見られるようになりました。


宗教画を目にする機会の少ない日本人にとって、この種の絵画を理解することは難しく思われますが、この絵のもつ緊張感と迫力には理屈抜きに驚かされることでしょう。


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ペーテル・パウル・リュベンス「キリスト昇架」1610-11年

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キリストを含めた男たちはギリシャ彫刻さながらに、筋肉隆々に描かれて迫力満点ですが、この絵の力強さはキリストの体を対角線上におき、短縮法で表すという構図によって、いっそう高められているのです。


さらにリュベンスは光と影の強い対比を用いて、この英雄的イメージを強調しています。光が人体の上に戯れる様子は、典型的なバロックの特色であり、私たちの情念に強く訴えてくるのです。


また、これほどの大画面(462x341cm)にもかかわらず、すべての人物を一つにまとめ上げ、荘厳な中にも浮き立つような雰囲気を全体に行き渡らせている雄渾な筆勢は見事としか言いようがありません。


リュベンスはこの並外れた才能のおかげで、画家として空前の名声と成功を手に入れました。行く先々で、すべての仕事を独占するような状態だったそうですが、おそらく彼は史上最も成功した画家の一人でしょう。


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ネロとパトラッシュの銅像

ちなみに「フランダースの犬」の舞台となったベルギーでは、この物語はほとんど知られていなかったそうです。近年になって大聖堂の絵画の前で涙を流す日本人観光客の姿を不審に思った現地の人々によって有名になり、今ではネロとパトラッシュの銅像まで立てられたそうです。