雑話103「今秋の最高落札価格はナチス押収品」 | 絵画BLOG-フランス印象派 知得雑話

雑話103「今秋の最高落札価格はナチス押収品」

今年もニューヨークでサザビーズとクリスティーズの印象派と近代アートの秋のオークションが開催されました。


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サザビーズの下見会場にて

今回は100億円を超えるような、最高落札価格の記録を更新する作品はありませんでしたが、ピカソの「泣く女、Ⅰ」という版画作品が1枚の版画についた価格としては過去最高の5,122,500ドル、日本円にして約4億円で落札されました。


今秋の2つのオークションの中で、最も高い落札価格をつけたのはクリムトの「アッター湖畔のリッツベルク」という作品で、落札金額は4,040万ドル、日本円にして約31億5千万円でした。


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パブロ・ピカソ「泣く女、Ⅰ」1937年

※$5,122,500で版画の最高落札価格記録を更新

この作品、実は第2次世界大戦中ナチス・ドイツによって押収されたもので、この春に正当な所有者の遺族に返還されることが決まった作品なのでした。


クリムトのパトロンだった収集家の夫妻がクリムトから直接入手したこの作品は、彼らの死後アマーリエ・レートリッヒさんに相続されました。


その後、ナチスによってオーストリアがドイツ帝国に合併されると、ユダヤ人だったアマーリエさんとその娘はポーランドに国外追放され、そこで亡くなりました。


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グスタフ・クリムト「アッター湖畔のリッツベルク」1914-15年

※$40,402,500で今秋の最高落札価格を記録

その時、押収されたこのクリムトの作品は、ザルツブルク州の所有となり、州内の美術館を転々とした後、最終的にザルツブルク近代美術館の所蔵となったのです。


ナチス・ドイツが戦争中に不当に押収した作品はこれまでも正当な所有者の遺族に返還されており、その中でもっとも有名なものは、やはりクリムトの作品で「アデーレ・ブロッホ=バウアーの肖像Ⅰ」でしょう。


これはクリムトの黄金時代の代表作で、返還された作品が2006年に当時のエスティー・ローダーの社長であったロナルド・ローダー氏に売却されましたが、その値段はなんと13500万ドル、156億円(※当時の為替レート)にもなり、それまでの美術品の最高価格記録を更新して話題になりました。


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グスタフ・クリムト「アデーレ・ブロッホ=バウアーの肖像Ⅰ」1907年

オーストリアはこれからも返還法に基づいてナチスが不当に押収した作品を返還していくとのことですから、悲しい過去を背負った超高額作品が今後も市場を賑わせていくかもしれませんね。