雑話96「デルヴォー・・・裸婦のいる静物画」
今週はポール・デルヴォーの静かで不思議な世界を覗いてみましょう。
ポール・デルヴォー「とらわれの女」1942年
デルヴォーの絵といえば、裸の女性が都市風景の中で静かにたたずんでいるもので有名ですが、それらは人物画や風景画というよりはむしろ静物画のような印象を与えます。
彼の作品が感じさせるのは、生きた情景といったものではなく、つくられた空間と人形の組み合わせによる風景とでもいえるものです。
デルヴォー自身もかつて、彼の作品の女性は教会の中の彫像と同様に官能的ではないと語ったように、彼女たちは彫像と同じレベルでしか考えられていなかったようです。
女性が裸で街中を歩いているだけでも不思議な光景ですが、そんな画面を一層奇妙なものにしているのが誇張された遠近感です。
画面手前を後方に比べて極端に大きく描いた結果、個々のモチーフの大きさは非現実的なほどバランスの悪いものとなっています。
ポール・デルヴォー「こだま」1943年
例えば、上図の「こだま」という作品では、同一人物とみられる女性が同じポーズで繰り返し描かれていますが、風景の遠近法に比べて女性の遠近法が極端になっており、遠方では左横の石塀より小さかった女性は手前では石塀の倍の大きさになっています。
彼の作品に登場する人物や背景は同じものがなんども登場しますが、それらはデルヴォーがかつて強く印象づけられたものばかりです。
ほとんどの作品に登場する女性の多くはデルヴォーが高校生の時に愛読したホメロスの”オデュッセイア”に出てくるシレーヌ(人魚)です。
ポール・デルヴォー「月の位相Ⅲ」1942年
※左にいるのがオットー・リーデンブロック博士
また、当時のもう一つの愛読書であったジュール・ヴェルヌの著書の一つ”地球の中心への旅”の登場人物であるオットー・リーデンブロック博士も度々登場しますが、その姿は愛読書に掲載されていた挿絵そのものです。
ポール・デルヴォー「事務室の骸骨」1944年
他にも骸骨や汽車は子供の頃の記憶の中で特に印象深かったものであり、古代建築は1937・8年のイタリア旅行の後からよく描かれるようになりました。
ポール・デルヴォー「村道」1959年
デルヴォーは日本でも人気の高い画家の一人です。彼をシュールレアリストとする見方もありますが、彼の作品には他のシュールレアリストの絵画に登場するような非現実的な存在はいません。
保守的な見方が根強い日本人にとっては、受け入れやすい彼特有のキャラクターが織りなす静かで不思議な空間が、ダリやエルンストなど他のシュールレアリストの作品よりもずっとその趣味に合っているのかもしれませんね。




