雑話88「ワシントン・ナショナル・ギャラリー展」
東京出張の際に、新国立美術館で開催中の「ワシントン・ナショナル・ギャラリー展」に行ってきました。
国立新美術館正面
この展覧会はナショナル・ギャラリー所蔵作品のなかから、印象派とポスト印象派の作品ばかりが集められていて、印象派のファンにとってはとても見応えのあるものになっています。
特に油彩画の多くはその画家の代表作といってもいいものばかりですが、ブログでは個人的に目についた作品を取り上げてみたいと思います。
会場に入ってしばらく進むと、一連のエドゥアール・マネの作品が登場します。そのなかでも一際目立っているのが「鉄道」という作品です。
エドゥアール・マネ「鉄道」1873年
マネの代表作のひとつですが、これほど大きいとは思いませんでした。資料によるとこの絵の大きさは93.5×114.5cmとなっています。
これは鉄柵のところに佇んでいる女性と女の子を描いただけの平凡なモチーフの作品ですが、人物の肌や白いドレス、その背景など画面全体の色調が繊細な明るさに満ちていて、とても美しい絵に仕上がっています。
しかし、目を引くのはその明るい画面だけではなく、むしろ謎めいた画題にあります。
「鉄道」の女性
黒いドレスを着た女性はこちらを真っ直ぐに見つめ、その意味ありげな視線に観るものは奇妙な違和感をおぼえます。そもそも、タイトルの「鉄道」の姿は描かれておらず、鉄柵の向こうに見える蒸気だけがその存在を暗示しているに過ぎません。
「鉄道」の女性の手元
柵の向こうを見ている少女や、女性の手にしている開いた本、彼女の膝で眠る小さな子犬、子供の横におかれた一房のブドウなどさまざまな小道具が用意されていますが、この絵を説明する決定的なものは何一つなく、見れば見るほど想像が膨らんでいきます。
「鉄道」の子供の横のブドウ
さらに進んでいくと、有名なクロード・モネの「日傘の女性、モネ夫人と息子」が姿をあらわします。
クロード・モネ「日傘の女性、モネ夫人と息子」1875年
青い空を背にこちらを見る二人の姿は、白い衣装、白い日傘、そして輝きながら流れる雲などの効果で、とてもさわやかな印象を与えます。
モネの作品の中で主たるモチーフとして人物が描かれた作品は少ないのですが、ここでも印象主義の特徴である”つかの間の瞬間”を捉えるための手法が存分に使われています。
「日傘の女性、モネ夫人と息子」のモネ夫人
流れる雲、風になびく白いヴェールやドレス、足元の草花。一瞬たりとも同じ姿をしていることがないこれらのモチーフをモネは乱暴とも言える筆遣いで一気に描き上げています。
「日傘の女性、モネ夫人と息子」の空
それらは間近で見ると、単なる描き殴りのようにしか見えませんが、少し離れたところから見ると、ほんとうに風になびいているように見えるのです。
最後は日本人には少し馴染みのない作家の作品をご紹介しましょう。
この展覧会のカタログの表紙絵にもなっているメアリー・カサットの「青いひじ掛け椅子の少女」です。
メアリー・カサット「青いひじ掛け椅子の少女」1878年
アメリカ人であるカサットは、母国アメリカでは非常に人気のある作家で、ベルト・モリゾやエヴァ・ゴンザレスとともに数少ない印象派の女流画家のひとりです。
この絵には快適そうな居間でふかふかの椅子に座り、手足を伸ばした幼い少女の人目をはばからないくつろいだ様子が描かれています。
少女の疲れたような表情や向かいのソファーで丸くなっている子犬の様子が自由な筆づかいで描かれており、モチーフの雰囲気がよく伝わってきます。
「青いひじ掛け椅子の少女」の少女
しかし、この絵の大部分を占めるソファーとなると、かなり大味に処理され、まるで青い抽象画のようです。
「青いひじ掛け椅子の少女」の子犬
この自由奔放な筆づかいや意図的に傾けた空間の使用により、遠近感や視点などがあいまいになっていますが、青いグラデーションと多様な筆づかいが画面に活き活きとした印象を与えています。
「青いひじ掛け椅子の少女」のソファ
このほかにも、セザンヌの父親を描いた初期の大きな作品や、ゴッホの鬼気迫る自画像など、印象派・ポスト印象派の名品が数多く展示されています。
画集でしか見たことがなかった作品は実物を見るとかなり印象が変わることが多いものです。この機会に是非本物をご覧になってください。
また、関西の方はこの後、京都市美術館に巡回予定ですので、そちらでもご覧になれます。
印象派・ポスト印象派 奇跡のコレクション
ワシントン・ナショナル・ギャラリー展
【東京展】
2011年6月8日(水)-9月5日(月)
国立新美術館
【京都展】
2011年9月13日(火)-11月27日(日)
京都市美術館


