愛知県の私立豊川高校の理科教師、宮本延春。
彼は、中学の成績がオール1で、英語はbookしか単語を知ら ず、数学は九九の2の段までしかできませんでした。原因は、いじめと勉強嫌い。小学校の時からのいじめで勉強が手につかず分からなくなり、そして、どんどん嫌いになっていきました。中学卒業と同時に就職、16歳で母と、18歳で父と死別し、頼れる人もこの世からいなくなってしまいました。しかし、23歳の時にNHKスペシャル「アインシュタイン・ロマン」をたまたま見て自然科学の美しさに感銘を受け、物理学を大学で学びたいとの想いが彼の心に沸き上がりました。そして、小学3年生の算数ドリルから勉強をスタートし、定時制豊川高校に入学し、高校でたくさんの先生方の協力を得て猛勉強の末、名古屋大学理学部に合格しました。
宮本さんが名古屋大学に合格できた理由は大きく2つあると思います。
1つ目は、「アインシュタイン・ロマン」を見て感銘を受けられる心があったことです。宮本さんはいじめにあっていても、何かを頑張る気持ちは捨ててはいませんでした。小学生の頃から始めた少林寺では武道館での大会に出場しています し、就職してから始めた音楽では日によっては16時間も楽器を練習したこともありまし た。勉強は嫌いでも何かを楽しいと思い、また、それについて努力ができる能力は持っていました。その上、アインシュタインの番組を見て自然科学の美しさに気づき、そして、物理学を学びたいと思えるような純粋な心を持っていました。勉強ができなくても、いじめにあっても、心は前向きだった。だから、人生の転機をつかみ取ることができたのだと思います。
2つ目は、周りの人に「こいつを助けてやろう!」と思わせたことです。宮本さんは本当に熱心に勉強しました。寝る間も惜しんで、受験勉強を続けました。人間誰しも、頑張っている人には手を差し伸べたくなるものですし、多少、無理な事を頼まれても断り切れません。現に、宮本さんの場合は、宮本さんが高校2年時に退職予定だった豊川高校の教師土田先生に「自分が卒業するまで学校に残って欲しい」と懇願し、土田先生はその頼みを聞き入れました。普通なら、こんなワガママ受け入れられるはずがありません。しかし、宮本さんの勉強に打ち込む姿勢や合格したいという強い想いが土田先生にも伝わり、土田先生は1年退職を伸ばしました。
今、勉強になかなか集中できない子もいるかも知れません。それは、もしかすると勉強したいと思えるタイミングが今じゃないからかも知れません。しかし、いつか訪れるであろうその時をベストコンディションで迎えるためにも、「前向きな心」と「何かに熱心に打ち込める姿勢」だけは大切にしてください。また、暇なときに「オール1の落ちこぼれ、教師になる」(宮本延春著、角川書店)を読んでみてください。きっと勇気がもらえると思います。