
汚れつちまつた悲しみに
今日も小雪の降りかかる
汚れつちまつた悲しみに
今日も風さへ吹きすぎる
中原中也の詩の魅力は、
なんといっても解かりやすさである。
心の叫びをそのまま自分の言葉に変換できる才能。
飾りはいらない、素直なありのままの心。
そしてあまりにも無防備な悲しみ。
それがあまりにも痛々しくて、読む人の心を捉える。
中原中也は、愛児を亡くしてから毀れてしまった。
その悲しみ、その苦しみ、その脆さ。
その狂気は、夢の中を漂うような幻想の世界では決してない。
愛し児を失くした悲しみは、狂気の中の彼をもっと深く抉る。
また来ん春と人は云ふ
しかし私は辛いのだ
春が来たつて何になろ
あの子が返つて来るぢやない
おもへば今年の五月には
おまへを抱いて動物園
象を見せても猫(にやあ)といひ
鳥を見せても猫(にやあ)だつた
最後に見せた鹿だけは
角によつぽど惹かれてか
何とも云はず 眺めてた
ほんにおまへもあの時は
此の世の光のたゞ中に
立つて眺めてゐたつけが……
享年30歳。
まだあどけない面差しのままで、現実の世界に戻れないまま、
天才は逝った。
著者: 中原 中也, 河上 徹太郎
タイトル: 中原中也詩集


