これは恐ろしい本である。
三島由紀夫という人は、秀才でエリートで、おまけに割腹自殺などしてしまったものだから、非常にナイーヴな反面、硬くて剛いイメージがあるかもしれない。
しかし、実際はけっこうひょうきんで目立ちたがり屋のスター気取りだったりもするのだ。
どちらが仮面にせよ。
この本の反道徳的な目次を読んでいるだけでも、ニヤリと笑える。
知らない男とでも酒場へ行くべし
教師を内心バカにすべし
大いにウソをつくべし
人に迷惑をかけて死ぬべし
処女・非処女を問題にすべからず
童貞は一刻も早く捨てよ
女から金を搾取すべし
うんとお節介を焼くべし
醜聞を利用すべし
友人を裏切るべし
弱い者をいぢめるべし
できるだけ己惚れよ
昭和40年代の高度成長期真っ最中に書かれた本書は、ハイティーンだのイカしてるだの処★膜だのと、死語の宝庫でもある。(苦笑)
そして、差別用語、禁止用語も使い放題。古きめでたき時代の産物。
しかし。。。
笑った後に恐怖がくる。
「人に迷惑をかけて死ぬべし」という章の最後にこんな文章がある。
<だから、どうせ死ぬことを考えるなら威勢のいい死に方を考えなさい。できるだけ人に迷惑をかけて派手にやるつもりになりなさい。これが私の自殺防止法であります。>
本書では、逆説的な人生論として、三島自身の考えを若者対象に語っているのだが、奇しくも、こう述べた当人が、人に迷惑をかけて派手に自決してしまった。
「事実は小説より奇なり」を身をもって体現してしまった。
白々しい逆説のレトリック。
そして実は、これは非常にイタイ本でもある。
若者を意識して描かれた上っ調子な文体と内容は、哀しいくらいに痛々しい。
ここまで読者に、いや若者に媚びる必要があったのだろうか。
ここで被っている三島由紀夫の仮面の下に、やはり三島自身の本質が逆に露呈している。
彼はそこに気づいていなかった。
エッセイストは小説を書けないが、一流の作家は、一流のエッセイをも書くものだ。
この一文は却下しなければならない。(泣)
三島由紀夫は、本物の作家すぎて、エッセイなぞは書けないのだ。
参考記事
- 三島 由紀夫
- 不道徳教育講座














