発明「ヘアーアイロン」に係る特許権が無断で第三者に譲渡されたことから、特許を受ける権利を有する者が特許権の移転登録手続を求めた訴訟の判決が東京地方裁判所であった。(東京地裁令和6.4.17)

 

この判決で注目すべきことは、特許法74条1項(特許権の移転の特例)に基づく移転登録手続がされた場合について民法94条2項(通謀虚偽表示)が類推適用されるかである。

 

まず、特許法は、同法123条1項6号等の要件に該当するときには、特許に係る発明について特許を受ける権利を有する者は、その特許権者に対し、当該特許権の移転を請求することができると定めつつも(特許法74条1項)、

 

その特許権の移転の登録前に、同号等に規定する要件に該当することを知らないで、日本国内において当該発明の実施である事業をしているものまたはその事業の準備をしているものは、

 

その実施または準備をしている発明について通常実施権を有するものと定めている(同法79条の2第1項)。

 

他方、民法94条2項の類推適用は、権利外観法理を根拠として、虚偽の外観が作出され、その作出について真の権利者の積極的な関与または承認があった場合のほか、当該権利者にこれらと同視し得るほど重い帰責性が認められる場合に、

 

当該権利者は、その外観が虚偽であることについて善意または善意無重過失である第三者に対し、当該第三者が権利を取得していないことを主張することができないとする理論構成である。

 

このように、特許法74条1項及び79条の2第1項は、真の権利者の帰責性にかかわらず、一定の要件を満たす善意の第三者に通常実施権を認めるものであり、

 

他方、民法94条2項の類推適用は、虚偽の外観作出に係る真の権利者の帰責性と第三者の善意または善意無重過失を要件として、

 

当該権利者が権利を失ってもやむを得ないと判断できる場合に、当該権利者から当該第三者への権利主張を許さないものであって、両者の要件及び効果は異なっている。

 

そして、特許法79条の2第1項は、善意の第三者が通常実施権を有すると規定するもののみであり、民法の第三者保護規定を上書きするような性格であることはうかがわれず、

 

また、特許法全体をみても、同法79条の2第1項が民法の第三者保護規定に対して優先する関係に立つことを示す規定は見当たらない。

 

以上によれば、「特許法74条1項に基づく移転登録手続請求がされた場合において、冒認者から譲受人等との関係で民法94条2項を類推適用することは可能であると解される。」とした。

 

そのうえで、このような事情に加え、本件譲渡契約2が締結された令和4年2月1日時点で、本件譲渡契約1の締結から既に6年5か月以上が経過していたにもかかわらず、同時点で同契約の有効性が明示的に争われていなかったことも併せ考慮すると、

 

被告らは、本件譲渡契約2の締結時点で、Bが本件発明について特許を受ける権利の譲渡を受けておらず、本件特許権を有していなかったことについて、善意無重過失であったと認めるのが相当であることなどから、

 

「本件においては、民法94条2項が類推適用され、それによって、原告は、原告が本件発明について特許を受ける権利を有していることを被告に主張することができないものと解するのが相当である。」としている。

 

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