不動産の管理業務を目的とした業務委託契約解除後もウェブ上などで登録商標を使用することが商標権侵害にあたるとして、損害賠償を求めた訴訟の判決が東京地方裁判所であった。(東京地裁令和4.10.25)
判決は、権利の濫用にあたるとして、原告の請求を棄却した。
判決内容は以下のとおりである。
まず、「商標権の行使も、商標の取得の経過やその意図、標章の利用の態様、その行使の態様等の事情を考慮し、権利の濫用にあたり許されない場合がある。」とした。
本件においては、原告各商標は、被告が被告の事業者名または被告が所有する本件各物件の名称として決定したものであり、周辺住民に対して本件各物件の名称として周知されているものである上、
本件各物件の貸与業務については、これまで、被告を事業主として、または原告と被告の名称が併記された上で、広告が出され、宣伝されていたと認められることからすると、
原告各商標によって表示される本件各物件の貸与業務の主体、すなわち、当該役務の出所は被告であるかまたは被告及び原告であるといえる。
他方で、原告は、被告との関係において、本件各物件を利用した事業及び本件各物件の管理の委託を受けた受託者にすぎないものであり、原告が原告各商標の周知に貢献したことがあるとしても、それは受託業務の一環として位置付けられるものにすぎない。
このような立場にあるにすぎない原告が業務の委託者である被告に対して原告各商標に係る排他的かつ独占的な権利を主張できるとする正当な理由は認め難い。
また、原告が被告に対して原告各商標権を行使するに至った経緯は、前記1(5)アないしエのとおりであるところ、かかる経緯に加え、同オの他の訴訟の状況も併せ考慮すれば、
原告の被告に対する原告各商標権の行使は、原告の代表取締役であるAが被告の取締役を解任され、それに伴って被告の口座名義が変更されたことにより、本件各業務委託契約に基づく管理報酬が支払われなくなったことに対する対抗手段としてされたものであって、
今後も原告及びその関連会社が本件物件の事業及び管理業務を続けることを被告に承諾させる目的に基づくものと推認することができる。
他方で、被告による被告ウェブサイトの開設及びウェブサイト上での被告標章4ないし6の使用は、被告にとって必要かつ正当なものであること、
原告各商標は、本件各物件の名称として周辺住民に周知されている上、一部地方自治体の施設として利用されていることなどを考慮すると、
原告商標権を侵害することのないよう、被告に本件物件の名称を変更し、または同名称を表示せずに、被告ウェブサイトにおいて被告標章4ないし6を使用することは、正当な理由があると認められる。
以上のような事情を考慮すると、「原告の被告に対する不法行為に基づく損害賠償請求を認めることは、公正な競争秩序を害するといえ、権利の濫用として許されないものと解するのが相当である。」とした。
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