東日本大震災の津波による東京電力福島第1原子力発電所の事故で避難した住民らが国に損害賠償を求めた集団訴訟の上告審判決が最高裁判所であった。(最判令和4.6.17)

 

判決は、控訴審判決を覆し、国の責任を否定した。

判決内容は以下のとおりである。

 

まず、国または公共団体の公務員による規制権限の不行使は、その権限を定めた法令の趣旨、目的や、その権限の性質等に照らし、具体的事情の下において、

 

その不行使が許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠くと認められるときは、その不行使により被害を受けた者との関係において、国家賠償法1条1項の適用上違法となるものと解するのが相当である。

 

そして、「国または公共団体が、上記公務員が規制権限を行使しなかったことを理由として同項に基づく損害賠償責任を負うというためには、上記公務員が規制権限を行使していれば上記の者が被害を受けることはなかったであろうという関係が認められなかればならない。」とした。

 

そのうえで、本件試算は、本件長期評価が今後同様の地震が発生する可能性があるとする明治三陸地震の断層モデルを福島県沖等の日本海溝寄りの領域に設定した上、

 

平成14年津波評価技術が示す設計津波水位の評価方法に従って、上記断層モデルの諸条件を合理的に考えられる範囲内で変化させた数値計算を多数実施し、本件敷地の海に面した東側及び南東側の前面における波の高さが最も高くなる津波を試算したものであり、

 

安全性に十分配慮して余裕を持たせ、当時考えられる最悪の事態に対応したものとして、合理性を有する試算であったといえる。

 

そうすると、経済産業大臣が上記の規制権限を行使していた場合には、本件試算津波と同じ規模の津波による本件敷地の浸水を防ぐことができるように設計された防潮堤等を設置するという措置が講じられていた蓋然性が高いということができる。

 

これらの事情に照らすと、本件試算津波と同じ規模の津波による本件敷地の浸水を防ぐことができるものとして設計される防潮堤等は、本件敷地の南東側からの海水の浸入を防ぐことに主眼を置いたものとなる可能性が高く、

 

一定の裕度を有するように設計されるであろうことを考慮しても、本年津波の到来に伴って大量の海水が本件敷地に浸入することを防ぐことができるものにはならなかった可能性が高いといわざるを得ない。

 

以上によれば、仮に、経済産業大臣が、本件長期評価を前提に、電気事業法40条に基づく規制権限を行使して、津波による本件発電所の事故を防ぐための適切な措置を講ずることを東京電力に義務付け、東京電力がその義務を履行していたとしても、

 

本件津波の到来に伴って大量の海水が本件敷地に浸水することは避けられなかった可能性が高く、その大量の海水が主要建屋の中に浸入し、本件非常用電源設備が浸水によりその機能を失うなどして本件各原子炉施設が電源喪失の事態に陥り、本件事故と同様の事故が発生するに至っていた可能性が相当にあるといわざるを得ない。

 

そうすると、「本件の事実関係の下においては、経済産業大臣が上記の規制権限を行使していれば本件事故またはこれと同様の事故が発生しなかったであろうという関係を認めることはできない。」として、国の損害賠償責任を否定した。

 

控訴審判決についてはこちらで

 

 

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