東京電力福島第一原子力発電所の事故をめぐり、福島県で暮らす住民らが東京電力と国に損害賠償を求めた訴訟の控訴審判決が仙台高等裁判所であった。(仙台高裁令和2.9.30)

 

判決は、東電と国に総額10億円余りの賠償を命じた。

この判決で注目すべきことは、国の損害賠償責任の範囲についてである。

 

一審被告国は、仮に一審被告らが損害賠償責任を負うとしても、本件において一次的かつ最終的な責任を負うのは福島第一原発の設置・運営に当たっていた一審被告東電であり、一審被告国の規制権限の不行使の責任は二次的かつ補完的なものにとどまるから、一審被告国の損害賠償責任は、一審被告東電の損害賠償責任よりも限定された範囲にとどまると主張する。

 

しかしながら、確かに、福島第一原発の安全基準について一次的に責任を負うのは、事業者である一審被告東電であり、一審被告国の責任は二次的・後見的なものであるということはできるものの、そのことは、一審被告らの間における内部的な責任負担割合を決める事情としては考慮されるとしても、一審原告らに対する損害賠償責任を限定する法律上の根拠に直ちになるわけではない。

 

むしろ、原子力発電所の設置・運営は、原子力の利用の一環として国家のエネルギー政策に深く関わる問題であり、我が国においては、一審被告国がその推進政策を採用し、原子力発電所に高い安全性を求めることを明示しつつ、自らの責任において、一審被告東電に福島第一原発の設置を許可し、その後も許可を維持してきたものであった。

 

このような原子力発電所に特有の事情を含む本件に現れた諸事情を総合考慮するならば、本件事故によって損害を被った者との対外的な関係において、一審被告国の立場が二次的・補完的であるということを根拠として、その責任の範囲を発生した損害の一部のみに限定することは、相当ではないというべきである。

 

したがって、「一審被告の上記主張を採用することはできず、一審被告東電及び一審被告国は一審原告らに係る損害全体についての損害賠償債務を負い、これは不真正連帯債務の関係に立つと解するのが相当である。」としている。

 

そこで、上記で判示された不真正連帯債務とは、各債務者が全額についての義務を負うが、債務者間に緊密な関係がなく、弁済及びこれと同視し得る事由を除いて、一債務者に生じた事由が他の債務者に影響しないものである。

 

つまり、債務者相互間の負担割合がないものである。

例えば、法人の不法行為における法人と理事個人が負う損害賠償債務(一般社団法人及び一般財団法人に関する法律(一般法人法78条))、

 

使用者責任における使用者と被用者の賠償債務(民法715条)、共同不法行為における各不法行為者が負う損害賠償債務(民法719条)である。

 

後に最高裁で行われた上告審判決では国の責任は否定されました。

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