さて、対象犯罪の更なる限定は可能だろうか | 早川忠孝の一念発起・日々新たなり 通称「早川学校」

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弁護士・元衆議院議員としてあらゆる社会事象について思いの丈を披歴しております。若い方々の羅針盤の一つにでもなればいいと思っておりましたが、もう一歩踏み出すことにしました。新しい世界を作るために、若い人たちとの競争に参加します。猪突猛進、暴走ゴメン。

「テロリズム集団その他の組織的犯罪集団による実行準備行為を伴う重大犯罪遂行の計画罪」の対象犯罪が277と大幅に限定されたのは水面下で公明党が相当頑張ったからだろうと思っているが、だからと言ってそれで十分か、というと必ずしもそうでもないようだ。

10年前の自民党法務部会・条約刑法検討に関する委員会では、対象犯罪を、現実にテロ組織等の組織的な犯罪集団が実行するおそれがあり、ひとたび実行されると重大な結果が生じてしまうため、その防止のために、実行前の「謀議」(現在の政府提案では「計画」)の段階で処罰することが真に必要であると考えられる犯罪に限定することとし、そのような犯罪の類型として、「テロ犯罪」、「薬物犯罪」、「銃器犯罪」、「密入国・人身取引等犯罪」、「その他、資金源犯罪など、暴力団等の犯罪組織によって職業的又は反復的に実行されるおそれの高い犯罪」の5つの類型を挙げた上、各類型に該当すると考えられる犯罪を具体的に列挙してみた。

手元にある資料によると、Aのケースで刑法の罰条+特別法の数が81(対象犯罪の該当罰条数の合計で128。以下、同じ。)、Bのケースで93(151)、一番多いCのケースで104(162)となっている。

政府提案の277はまだ多過ぎるのではなかろうか、もっと絞り込まなければいけないはずだというのが私の感想だが、残念ながら私には政府が提案してきた対象犯罪の一つ一つについて個別具体的に検証する力が不足している。
民進党や共産党の議員の皆さんが一つ一つの罰条についてきちんと検証作業をやってくれるとありがたいのだが、どうも野党の皆さんの指摘は網羅的でもなく、精緻でもない。

これは困ったな、公明党の皆さんがもう少し頑張ってくれて、問題になりそうなものを全部取り除いてくれるといいのだがな、と思っているところだ。

私が気になっているのは、一般の会社でも陥り易いような脱税や意匠権や実用新案権、商標権、特許権等の侵害、文書偽造、贈収賄、詐欺更生、詐欺破産、特定の債権者に対する担保の供与、会社財産を危うくする行為、虚偽有価証券届出書等の提出、インサイダー取引、営業秘密侵害や不正競争、不正の手段による補助金等の受交付、強制労働などの罪について計画(従前の用語でいえば、共謀)段階で処罰の対象とすることが一般的に必要になるのだろうか、ということである。

組織的犯罪集団は世界の各地でそういうことをやりながら組織の肥大化を図っているのだから、組織犯罪集団を防遏していくためには日本でも犯罪化しておかなければならない、という説明になるのだろうが、私にはどうも呑み難い規定である。

企業の倒産整理事件を手掛けていると、倒産企業の経営陣が倒産直前に苦し紛れにどんなことに手を出すか、ということがある程度分かってくる。
会社の役員だけでなく、経理担当者や時には税理士や怪しげな経理コンサルタントなどがグルになっていることがあるから、融資詐欺や補助金詐欺、脱税、横領なども対象犯罪になってくると捜査当局の認定次第で普通の企業や団体が捜査の対象になってしまうことがありそうだな、という印象である。

現時点では、相当縛りをかけておいた方がよさそうだぐらいのことは言っておいても、特に間違いだとか、致命的なミスだなどということにはならないだろう。