2021年 アメリカ/イギリス 119分
監督:ガイ・リッチー
出演:ジェイソン・ステイサム、ホルト・マキャラニー、ジェフリー・ドノヴァン
ストーリー
アメリカのフォーティコ・セキュリティ社では、屈強な警備員が現金輸送車(キャッシュトラック)を運転していた。 転職してきたばかりの英国人パトリック・ヒル(通称“H”)は、襲って来た強盗を皆殺しにして一躍ヒーローとなる。 一方、全米で最も現金が動く日とも称される“ブラック・フライデー”に向けて、水面下で緻密な強奪計画が進行していた…。 クライム・サスペンス。 ≪英雄(ヒーロー)か 悪党(ヒール)か≫
評論・考察・解説・感想
何かね、前回の「プロミシング・ヤング・ウーマン」が非常に考えさせられて、男としての精神的疲労が凄かったので、もう男が全力でドンぱちやってアホやってまーすみたいな映画を見たいと思って探してたら行きついた先がジェイソン・ステイサム。今回の「キャッシュトラック」になりました。それに加え、貴重な映画を楽しむ時間を面白くない映画を見て無駄にしたくない、という一心。ガイ・リッチー×ジェイソン・ステイサムで「スナッチ」を知ってる人間ならハズレはないだろうと思っちゃったのが映画ファンの性。
それではさっそく評論に入りましょう。
構成
この作品は4部構成になっていましたね。オープニングに現金輸送車襲撃事件があり、いきなりステイサムの輸送員採用シーンから始まります。
第1部「こいつ誰やねん!」
この序盤は主人公ステイサムのキャラ紹介と奇妙さを演出していると思います。愛想がなく、どのシーンにおいても今回のステイサムが決して笑わない姿がより際立って印象的でした。
ステイサムのただならぬ想いと、採用テストでわざと手を抜いてる、こいつヤバいぞ感はひしひしと伝わってきましたね。
監督が意図したであろう「何でこいつはここに就職しにきたのだろう!?」を視聴者に思わせたんじゃないでしょうか。
そして実際に現金輸送車を襲撃されてからもびっくり。
正当防衛ならまだしも逃げてる強盗を追いかけてまで頭部に銃弾をぶち込むステイサム!
狂気の沙汰w
俺も現金輸送車襲って、中からステイサム出てきたら諦めよw
ジョシュ・ハートネット
そういや、久々にジョシュ・ハートネットを見かけました。「パラサイト」や「ブラックホーク・ダウン」など2000年代初期は何本もの主役作品に恵まれ、目まぐるしい活躍をされてたジョシュですが、最近はめったにお目にかかることがありませんでしたね。
何で消えたのかな?薬物等に手を出して干されたのかなぁ・・・・なんて、勝手に失礼なことを想像していましたが実際はググってみると
有名になったことで常に追い回され、どこにも行けなくなった。気持ちが休まらず、心が休まらなかった。
そこで地元のミネソタに戻り、長年の友人や家族との関係を大切にし、その関係を失わないように努めていたそうです。
最前線から姿を消したことにより、以前ほど注目を浴びない現在の生活にも満足しているそう。
最近は大型作品に限らず、自分が演じたいと思った作品に出演してるそうです。
僕ら一般人がハリウッドスターの生活に共感することは難しいでしょうが、有名人にも有名人ならではの悩みが尽きないんでしょうね。
スターをやめるという大きな決断。
本編でも何も鍵を握っていない、居なくてもストーリーが成立する明らかなチョイ役でしたが
それでも元気なジョシュが見れて僕も嬉しくなりました。
何より・・・薬物使用を疑っててごめん、ジョシュw
もう何なら良い奴じゃん。僕の好きな俳優の1人に加わりました。これからも応援するよ!
無理な設定
第2部は「ステイサムの過去」
要はステイサムがここに来た理由が述べられていたと思います。
どういう想いでこの輸送員になったのか?、どんな決意があったのかが詳細に語られるフェーズだったと思います。
ただここが無理な設定というか詰めが甘い設定が多かった気がしますね。
まずステイサム自身も「ギャングのボス」という設定。
そして実はステイサムギャング団も現金輸送車襲撃を狙っていたという・・・あの現場にステイサムを無理やり送り込むために考えた脚本なのかもしれませんが萎える。
そしてありえない戦闘能力。やっぱりリアルに考えてもボスが強すぎるってなんか変。この強さは金持ちのボスが傭兵として雇うぐらいの強さ設定だと思います。雇われる側の強さでなんですよね、ステイサムが。
ただ、こんなに強くて残虐さも桁違いなのに部下たちにちょっと舐められてるのがちょっと面白かったけどね。
「ちょっと今、手が離せないからボス、トラック見てきて~!」言われるんですよ。
しかも大事な一人息子との面会の日に。
舐められてるし、舐め切ってるでしょう、部下たちも。そしてステイサムも優しいから「しょうがない」みたいな感じで結局行っちゃう。こんな強さを持ちながらボスとしての威厳が全くないんです。
で、そのステイサムの強さも「元軍人でした」とか何も説明ない。
と言いつつ、でもそれは「映画だから」で最近は納得いくようになりました。
というのも最近はやっぱりこういうステイサム強さの理由とかストーリー上にリアリズムを視聴者が皆追求してくるんですって。で、そういう映画が評価高くて面白いみたいな傾向になっているそうです。
それなのに僕がこういう何の説明もなしにステイサムが強いというこの状況を受け入れたかというと・・・
例えば皆さんも普段街を歩いてて、おっさんと肩と肩がぶつかりあって喧嘩になったとしましょう。
で、そのおっさんがめっちゃ強かったとしましょう。そしたら何でこのおっさんが強いかなんて理由聞きませんよね?むしろそのおっさんが強い理由知りたいですか?
そう、考えれば考えるほど、何の説明もなしに「出会った奴が強かった」の方が究極のリアリズムなような気がしてきたんですよね、僕は。
第3部
第3部は「犯人たちの家庭生活」。
そう、彼ら(犯人)にも守るべきものがあるよ、というフェーズ。別に悪人のプライベートなんか描かなくても本編は成立するのでその表現もリアリズムの追求かなぁなんて思っています。ステイサムの強さは何も説明しないのに、ここは説明したがるんですよね。
でもその理由が自分の稼ぎが少ないのを棚に上げて金を盗もうという動機なのはお粗末すぎたかな。
リアリズムを追求するならまだ子供の心臓の手術代で何億もいるとか、どうしても大金を稼がないといけない状況設定がほしかった。別にこの大金を稼がなくても生活できるレベルの所帯で、しかもこう・・父親として”家族を大切にしてる”みたいなことが描かれてる割にはそれで命を落とすリスクまで犯して大金が欲しいという発想が疑問符。よくこれで襲撃が成功したとしてバレずに生きていけると思ったよな。よく家族を巻き込まずに平和に暮らせると思ったよな、って感じです。
なんかアホなんですよね。犯人たちが。
人の命を躊躇せずに殺せる奴って、たいていヤバい奴だから本当にヤバい奴らなんだよな。彼ら。
決戦
最後は現金保管庫襲撃でのステイサムとの決戦。
個人的にステイサムアクションがなぜ好きなのかなぁ~?と考えていましたが、強いわりには泥臭いのが良いんでしょうね。
前回の「プロミシング・ヤングウーマン」に影響され今回は「リアリズム」を意識して語っていますが、
強すぎて、かすり傷ひとつ付かないみたいなセガールタイプのアクションはやはり受け入れがたい。やっぱり血ダラダラ流れてるけど、頑張ってますよ感が男心に共感する部分があるんでしょう・・・人生と一緒じゃん!
思い出しましたが「ダイ・ハード」のジョン・マクレーン(ブルース・ウィリス)なんかは素足でガラスの破片の上を歩いて血ダラダラ流してますからね、めっちゃ好きですね~!
また、もっと子供への愛を表現しても良かったんじゃないかな。基本的にステイサムは息子を殺された復讐心のみで闘っています。なのに子供と2人でいるときも特別笑顔を見せるわけでもなく、ずっとムスッとした寡黙な親父が・・・息子が殺されたからお前ら全員殺すって言ってるわけです。いきなり。
んなわけない。
そう考えると、結局僕もリアリズムを求めちゃってるなぁ~!!!
今回はいろいろな目線からストーリーが描かれていて、それが交錯するパターンの映画でした。
「パルプ・フィクション」をはじめ、このパターン自体はガイ・リッチー自身も「スナッチ」でやられてる今ではそんな珍しくない手法ですが、
こういう映画はグラディエーション的に徐々に徐々に交錯していき、ピン!と合わさって素晴らしい色を出すはずなんです。しかしこの映画はグラディエーションで徐々に交錯してずっと何か濁っていた気がします。
そのもやもやが結局、ステイサムが良い奴か悪い奴なのかわからん!というスッキリしない感覚、
ステイサムが正義なのか悪なのかをはっきり描いていない中途半端さがそうさせたのかもしれません。またこういう交錯映画ではちょっと笑いが入っても良かったのかな?特にそこらへんはガイ・リッチーが得意とする部分だと思ってましたので。今回はシリアスにいった結果があまり吉とでなかった印象でした。
採点
⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️☆☆☆☆☆ 5点 (10点満点中)