映画評論Vol.18 「メランコリック」  【これからの人生がメランコリック】 | ソフト&ウェットの全力シネマ!

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観た映画、本、マンガ、音楽を勝手に評論したり、お勧めしたりする個人的な備忘録も兼ね備えたブログ。全力で書き続けます。

あくまでももそこは個人の意見、感想ですのでお手柔らかに。

 
 
2018年 日本 114分
 
 
 
監督:田中征爾
出演:皆川暢二、磯崎義知、吉田芽吹
 
 
 

 ストーリー

 

30歳の鍋岡和彦は、東大卒業後はずっとフリーター(ほぼニート)で実家暮らし。近所の銭湯「松の湯」で高校時代の同級生・副島百合と出会ったことをきっかけに、その銭湯でバイトを始める。ところが、「松の湯」は閉店後に風呂場を「人を殺す場所」として貸し出しており、同僚の松本も実は殺し屋だった…。サスペンス・コメディ。

 

 

 


 

 

 

 

 

 

  評論・考察

 今回はVol.18にして初めての邦画をチョイスさせてもらいました。個人的に邦画はあまり見ないほうですね。特別嫌いというわけではないのですが、単に僕が観たいと思う映画が少ないのかもしれません。

 多分、これは食わず嫌いで、僕が知らないだけで邦画でも絶対に面白い作品って多々あると思うんですよ。ただ、それを見るよりもハリウッドの莫大な費用をかけて、いろんなとこ爆破してます感が現実逃避出来て好きなんです。(どれだけ実生活に不満があるんだ?w)

そんな中、久々に邦画で「見たい!」と思わせたのが今作品。

 

まず「メランコリック」という言葉の意味を捉えていきましょう。

 

メランコリック (melancholic)

 

物思いに沈むさま。憂鬱であるさま。

 

この映画がどうメランコリックなのかを勝手ながら考えさせてもらいました。

 

 

  好きなシーン

まずはじめに

今回は結構好きなシーンが多々ありました。

まずはこの主人公の鍋岡家の家族団らんのシーン。



これがね・・・・

 

「今日、ごはん炊きすぎたからいっぱい食べてよ」

とか、

「今日もお母さんの作った料理おいしいよ」

とか

お父さんとお母さんの会話がびっくりするぐらいクソつまんないんですよw

 

お父さんとお母さんを演じている役者さんの素人に毛が生えたぐらいの演技力の低さも垣間見えて、さらにつまんない。

これは批判しているのではなく、そこが面白いし、リアル。両親が面白いこと言う事って日常でもあまり無いじゃないですか。

「クソつまらないこと」が面白いという表裏一体というか何というか・・笑いって難しいですね。

 

その他にも主人公が報酬もらい翌日に松本と掛け合うシーン。



「機嫌いいっすね何かあったんすか?」

 

「うん、まぁ〜ちょっとね!」

 

「何すかww

教えてくださいよ!」

 

「何よーっ!

 

 普通だってww」

 

の件もオタク体質の鍋岡が調子乗ってる感が表現できててめちゃくちゃ面白かったです。

 

 

  ​役者さんみんな好き

基本的に役者さんも全員好きでしたね。

主人公の鍋岡を演じる皆川暢二さんの演技はもちろんですが、この松本役の磯崎義知さんの演技も最高ですね。

 

 

やっぱ松本がアホに見えましたもん。ガチで。この役者さんが本当にアホなんじゃないかと疑うくらいでした。またアホと純粋さと優しさを兼ね備えた演技・・・まぁ~純粋すぎて何も考えてない奴は大体アホなんですが、口では簡単に言えますがなかなか難しい演技だと思います。秀逸でした。

 

そして彼女。

 

 

好き!

元AKBの川栄李奈タイプといいますか・・・全世界の人々を川栄か?川栄じゃないか?に大きく分けると川栄側に分類される人だとは思います。

なんていうか銭湯シーンがメインなのですっぴんも多く、特別かわいい、美人ってわけでもないのに、何でしょうね?

仕草やストーリーを通じて思いっきり惚れちゃいましたww

銭湯で会って、向こうから急にアプローチしてきて、何回か会ってすぐ付き合える。

・・・男としては最高な展開じゃないですかっっ!!!!

ましてや劇中の鍋岡みたいにうだつの上がらない人生ならなおさら。僕みたいなモテない男子はゾッコンです。ご覧なってる男性諸君もどうぞご覧ください。劇中の彼女に惚れたらモテない男確定ですw

 

女優さんの名前、吉田芽吹さんっていうんですね。可愛いです。好きです。今後注目していきたいと思います。

 

 

 ヤクザの親分・田中役の矢田政伸さん。かなり個人的で一方的な好意ですが、僕の前の職場の仲良かったドクターに顔も声質とか喋り方も凄い似てて好きでしたw

 結局、役者さんが良いのかもしれませんね。

 

  ​違和感

 そして何といってもこの作品の一番の見どころは、我々視聴者に降りかかる日常の中にある違和感じゃないでしょうか。

 

殺人現場、死体処理現場を覗いてることがばれた時の鍋岡に対する番頭さんのセリフが個人的には衝撃でした。

 


「今までは小寺1人でやってたんだ。誘拐して、殺して、掃除して・・あと死体の始末もね。何か分かんないことがあったら小寺に聞いて」

 

「大丈夫とは思うけど、もしこの事を誰かに喋ったら申し訳ないけど・・・OK?」

 

と、結構重めのとんでもないセリフを

 

何事もない日常の一コマみたいな感じで、感情も込めずに淡々と話すんです。

 

本当に軽い感じで。

 

「ちょっと、そこの醤油とって!」

 

ぐらいの感覚で。

 

もうそんな日が続き慣れた頃には

 

「開店までに処理しといて!」

 

と何なら笑顔でお願いしている。

 

それに対し鍋岡達も毎度のことで慣れた手つきで違和感なく仕事をこなす。

 

この非日常の連続で、非日常がいつの間にか日常にすり替わってることを目の当たりにした時、この映画のドツボにはまっていることを実感しました。見せ方が上手いなぁ〜。

 

  やりがい

 

 

 

image

 

東大を卒業したものの、コミュ力がなく、いままで社会に認められず窮屈に過ごしてきた鍋岡。

 

最初は彼女に会いたいだけという不純な気持ちでのバイト選択だったかもしれません。

ただそんな彼が死体処理を通して仕事へのやりがいを見つけてしまったのは喜んでいいのか悪いのかむず痒い感情に苛まれました。

 

死体の処分の仕事で評価を得る、高い報酬をもらうことによってこの仕事の達成感や生きがいを感じてしまうのですね。

ここはあくまで自論ですが

 

最初からイケメンで・・とか、女の子と話すのが上手で・・みたいな人は除外しますが、自分は顔もイケメンじゃないし、コミュ力も無いし、モテないと思ってる諸君。

 

人って自信がつくと人生変わるんですよ、マジで。

モテたり、収入が増えたり。

 

もしかしたら外見には魅力を感じない鍋岡が、何であんな可愛い彼女と付き合えるんだ!と思った視聴者もおられるかもしれません。ただ僕的には実際に彼がこっから彼女と付き合えるのも考えられなくもない。

 

自信の前提には努力が必要ではありますが

 

顔はは変えられなくてもまずは体を鍛える!。

 

筋トレでも良いですし、もしくはランニング。

それか職場の仕事を完璧にこなす努力。

仕事をこなす自信。

資格試験に臨んだり・・・

何でもいいです。とにかく努力をして自信をもってください。

 

自分に自信を持てば、自ずと彼女もできます。

 

鍋岡の仕事はマネしちゃいけないのですが、モテない男のバイブルになっている気がしますね、この映画は。

 

あかん、もう鴨頭嘉人みたいな臭いこと言ってる〜!

 

そこらの変なグッズ買わせたり、怪しいリンク貼ってサブスク入会させそうなブログになってる!!!

 

でも結構マジだと思っているので実践してみてください(何も入会はしなくていいですw)

 

 

そして、自信がつくと、さらに認められたい欲求が湧いてくるのも人間の性。

どうして自分の特権である死体処理の仕事を松本にやらせるんだ、夜のリーダーが松本なんだ、と松本贔屓されてることに納得いかなくなるわけです。

ただ松本に対するこの妬みの感情が、もう彼が元の世界では生きていけないと悟った瞬間でもありました。

 

 

そして、この鍋岡の人生(恋愛)が上手くいっている様と、裏社会にどんどんハマっていくこの構図の対比で、ずっと心が晴れない変な感情でしたね、僕は。

 

 

  ​松本の本気

 

処理する死体が「どうして殺されなきゃいけなかったのか?」

を疑問に思う鍋岡に対し、

 

「そんなんじゃ身がもたんす。何も考えずにこつこつと処理しないと」

 

と、何も考えずに感情なくただただ殺人をこなす松本。

しかし小寺が死に、松本が次の殺し屋に任命されたことにより状況が一変。

 

死体処理を任されて うへー!!!

彼女の事考えて うへー!!!

と、目の前のことしか考えていない、この仕事もいつでも足を洗えると軽く考えてた鍋岡に腹立つわけですね。


そう、何も考えてないようで実は彼も普通の生活なんかできない。自分の人生を代償にこの仕事をこなしていたことを痛感させられます。

 

この今までのアホでやってきた松本が感情を露わにしたことが、この仕事の、これからやろうとしていることの危険さが

彼の本気度が十分伝わりました。

 

結局ここでキレてんのも鍋岡を思っての行動なんですよ、彼。鍋岡の家族、彼女に被害が及ばないための。

 

本当に優しい奴、松本!

 

 

男前やなあ~、松本!

 

 

  ​人生メランコリック

最後の呑みのシーン

 

人生には何度か一生これが続けばいいのにっていう瞬間が訪れる

何もかもが完璧で幸福で

この瞬間のために俺は生きてきたんだ

そう思える瞬間が本当に何度か

そして僕たちはまさしくその瞬間のためだけに生きているんだと思う

その何度か訪れる瞬間のためだけに

それで充分

うん、それで充分だと思う

 

という言葉が個人的には心に突き刺さりました。

何か分かるわぁーと。

 

僕にも同様な経験がありまして・・・

 

僕も鍋岡と一緒で友達が多いタイプの人間ではないです。広く浅くよりも狭く濃くというか・・

 

僕にも親友がいます。僕同様、お酒が大好きで独身時代には2週間に1回は呑みに行きました。

結婚して子供が出来てからは回数は減れど、月に1回は吞みに行ってたかな?

 

僕が転職、引っ越しすることが決まってから、残り数回のこの親友とのサシ飲みの時はまさにこの鍋岡の気持ち。

家族を食わせるために、家庭の大黒柱としてしっかりしなきゃいけないという気持ちの半面、そういうことを一切考えずにこの親友との楽しい時間、この時間がずっと続かないかなぁと思いました。

 でも人生って儚いもので、やっぱり終わりがくるわけです。

 

僕が引っ越してからはたまにリモート吞みしていますが、あの2人で吞んでる瞬間がやっぱ一番楽しかった。

まさしく人生で数回訪れるこの瞬間のために我々は生きてるのかもしれないですね。皆さんもこんな経験ありませんか?

 

話を戻しますが、これから先のことを考えると、鍋岡らは犯罪者で警察に追われるのではないでしょうか。

ましてやあのヤクザの親分さんの手下からも。

もしそれが無かったとしても、現代で銭湯経営だけで食っていけるかも不安。

そう、仲良く呑んでいましたが、この楽しい瞬間を経験しただけで充分だと思う鍋岡。この言葉こそがこれから先の彼の人生のメランコリックな様を表現しているのではないでしょうか。

 

 

そしてこの映画。撮影期間10日間、製作費300万円という低予算ながらいろんな映画祭で監督賞や観客賞などを受賞してるのも忘れてはなりません。

 

「カメラを止めるな」もそうですけど、今人気の若手俳優とかアイドルに頼らず、無名の俳優さんの素晴らしい演技力で圧倒されました。本当に面白い作品はネームバリューに頼らなくても評価されるのですね。

 

 

作り手側の目線で考えれば、興行収入の面で人気俳優やアイドルを起用するのは分からなくはないし、

人気漫画原作の実写化で安定した収入が得られるのも分からなくはない。

でもこういう作品を見ると邦画の勝負すべきところはここだなぁって思います。

 

よくよく考えると結局、僕が邦画をあまり見ない理由がこの人気取りの映画が多いということなんでしょうね。

 

ところで監督のインタビュー記事をどこかしらで読ませてもらいましたが、

どういう思いが込められてて、どういう意図があって撮影に臨んだのか?というインタビュアーの問いに

 

「何も意図はない」「何も考えていない」という発言に衝撃を受けました。。要は僕らがどれだけ考察しようが、いろんな角度からこの映画を掘り下げようが、全くの的外れ。長々と僕も述べてきましたが、こんな文章は何も意味ない。

 

だって、何も考えてないんですもんね、監督はww

 

でもこの映画が好きな理はが僕の嫌いな邦画の条件と全くの真逆であるかつ、映画には個人個人の解釈、個人個人の楽しみ方があるということを再認識させてもらえた作品だったことです。それこそが映画の最たる楽しみ方なのではないでしょうか。

 

だからこそこの作品に出会えたことに感謝したいと思います。

 

 

邦画も捨てたもんじゃないですね。

 

 

 TODAY'S
 
​採点

⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️☆☆  8点