Again to sky 2

 

 

5月の連休中の昼過ぎ、ジュリアはジェニファーに会うため工場を訪れる。 上空から見た健の工場と家の敷地は広かった。
スカートを押さえて降下すると庭先で李李が一人で砂遊びをしている。


「こんにちわ、 ジュリ。」 李李はジュリアを見るなりシャベルを放ると彼女に走り寄って来た。

「李李、 今日はママは居る?」
「ううん。 ジェニーママは今お買い物なの。 パパは工場でぷらんとの作業中よ。 だから私、今一人なの。」

「そう・・・寂しいね。」
「もうすぐジェニーママ帰ってくるよ。 もう出かけてからずいぶん経つから。」

「そっか、 じゃあ待たせてもらうね。 今日は動物の本持って来たよ、だから一緒に読もうね。 李李はライオンって知ってる?」


「ううん知らない・・・夢の動物でしょ?」

ジュリアは李李を抱き上げると膝に載せ、玄関前のベンチに座り土産に買ってきた本を開く。 旧人類の動物図鑑だった。


「ライオンねえ・・・私も知らないなあ。 昔の地球に居たんだって。 きっとサファイアとママは知ってるよ。ライオンは動物や人間を食べちゃうんだって。」

 

「わあ、こわーい。」

李李はジュリアの膝の上から彼女の顔を凝視する。


<ジュリア、いつ来たの?>

その時ジェニファーは両手に買い物袋を下げて庭に降下してくる。

<いま来たばかり。 健は元気?>

<うん、元気。 でも休みなしね。 6月までに再生プラントを稼働させるんだって。 休日くらい休むように言ってるんだけど・・・私の話を聞いてくれないの。>

 

<熱心なのは良いけど過労に気をつけるように言ってね。 だって夜遅くまででしょ。 まだ若いけど怪我とか有ったら大変だから。>


「ジェニーママ、ジュリから本を貰ったの。」

李李は本を高く挙げてジェニファーに見せる。「これ、動物の本だって。」

 

「ありがとうはしたの?」

「あ・・・忘れちゃった・・・ジュリおねえちゃん。 本、ありがとう。」

 

「はい、またね。 本はママに読んでもらってね。」

「はーい・・・おしっこしてくる・・・。」

李李はジュリアの膝から飛び降りて家に入ってゆく。 ジュリアは少し表情を固くしてジェニファーに近づいた。


<ねえ、本当に健と結婚するの?・・・私は反対。>


<ジュリアからそう言われるとは思わなかったよ・・・祝ってはくれないんだ。>

<ジェニファー、健も李李も先に死ぬのよ。 それでも側に居られるの?・・・今が良くても先で苦しむのはあなたなのよ。>
<サファイアからも同じこと言われたの。 でもそれは覚悟してるよ。>

<嘘よ、タカの葬儀の夜にあなたは海に沈もうとしたじゃない・・・ジェニファー、あの時は健やサファイアが必死であなたを説得したの忘れたの? 私もあの夜は大変だったのよ。>

<・・・ううん。 忘れてない・・・皆に迷惑かけちゃったね。 私、暴走してたから・・・でももう大丈夫よ。今は幸せ。

健だけじゃないの。 皆のために生きること見つけたから。>

<ジェニファー、あなた人工知能の基本原則を守っていないじゃない。 勝手に管理コードは変更するしサファイアに楯突くし・・・縛られない生き方はあなたの良いところかもしれないけどルールは守ってよ。 好きな人が出来て相手のためとか献身的発想もいいけど自己管理能力越えてまたプログラム暴走したらどうするの? 自分の限界はきちんと守ってね。 基本的に軍用機だから主婦には向いてないのよ。>

<うん。 でも家庭を持ちたかったの。 たくさんの子供を見てきて自分に子供が出来たらいいなって考えたら・・・>

 

<おかしいよ、大切な人の死が受け入れられないのに家庭を持ちたいの? コンピューターが壊れてるんじゃない。 希望と限界が矛盾していることに気付かないの?>

 

<それは・・・>

<それに健と一緒に暮らすのも李李のお母さんの役目をするのも良いよ。 でもあなたはタカのこと忘れてない、あなたの設定基準はタカで満たされてるのよ。 そこをちゃんと自覚してるの?>

 

<タカは死んだよ。 せっかく救助されたのに舞を追ってった・・・舞を先に一人で行かせられないって。 自分で延命を拒否した・・・タカは私から離れたの。 その時もうわかったから。>

<ねえ私達、人類の再興を背負ってるのよ。 私は一番後から参加してるけどサファイアはあと200年は持たない。 お願いジェニファー、私を最後に一人残さないで。>

 

<もう大丈夫だって!・・・ジュリア、 でもあなただってガルバに潰されそうじゃない。 ねえ、自分を大切にするならガルバと別れなよ。>

<ジェニファーお願いだから将来に健と李李が死んでも後を追わないって約束して。 私もあなたと頑張って行くから。 もう苦しむあなたを見るのは嫌なの。>

 

<・・・うん。 約束出来るよ。> ジェニファーは笑って手を差し出した。

<はい、指切りよ。 地球人がする約束の習慣だってさ。>


「わー大変だー!」
その時、頭からオイルを被った健が走ってくる。
「まいったなぁ~耐圧ホースが裂けちゃって。 加圧設計をミスったかな。」

「ちょっとそのまま家に入らないで!・・・今タオル持って来るから。」

ジェニファーは買い物袋を抱えたまま家に入って行った。


「やあジュリア、久しぶり! 先月交換したイグナイター(点火器)の調子はどう?」

「ええ、調子いいわよ。 姿勢制御の点火にミスる事なくなったから・・・ありがとう。 今日はジェニファーにお話があって・・・そのまえに健、かなり働き過ぎよ。」

「姿勢制御エンジンでリフト操作に使うのは良くないな。 プラグの点火回数が多くなってカーボンが詰まりやすくなるから。」
「わかってるって。 でも時間がなくって・・・反重力モードだと細かい位置決めが出来ないの・・・つい姿勢制御つかっちゃう。 でも結構あれって燃料食うのよね。」


「そうだ! ジュリア、お願いがあるんだ。 頼まれてくれるかい?・・・君にしか頼めないお願いなんだ。」

健は両手を合わせる。「燃焼テストのことでさ・・・すまん!」

 

「いいわよ。何?」 健はジュリアの耳にそっと囁いた。

「うん・・・うん・・・燃焼テストね? じゃあジェニファーに内緒なんだ。」


「ちょっと健、 ジュリアと何話してるの? 彼女に油がつくじゃない!」

ジェニファーはタオルを持ってポーチから出てきた。 「早くジュリアから離れなさいよ。」

 

「秘密なんだ。 なあ、ジュリア。」
「そうよ。 私と健だけのね。」

「ねえ、健を取らないでね! 今は私のものなんだから。」
「わあ。 ジェニファーったらヤキモチ焼いてる、かわいい!・・・健、いつでもいいよ。 その時呼んでね・・・じゃあねジェニファー!約束したわよ。」

ジュリアは両手を少し開いて一気に空高く飛んでいった。


「ちょっと健、ジュリアと何を約束したの? 私に言えないこと?」
「お楽しみ・・・ちょっとね・・・さあ李李!もう少しでお昼にしよう。」

「その体で李李に近づかないでよ。 油拭いたら体洗うのよ。 もう、怪我しなくてよかったけど服はもうだめね。 パンツまで全部脱ぐのよ!」

 

「何としても来月までに終わらせる予定が有るんだ。 じゃあお風呂入ってくる。 これじゃ何も出来ないよ。」

健は庭先にある井戸へ身体を流しに行った。


「李李、ニワトリさんのところに行って卵を取ってきてくれる?」ジェニファーは小さなカゴを李李に持たせた。

「イチゴのホットケーキ焼くから。」

 

「はい、ジェニーママ。」
李李は家の裏にある鳥小屋へ走って行く。

「二個でいいからね!」

「はーい。」
走ってゆく李李を見ながらジェニファーはジュリアとの約束を自分が果たせるか不安を抱いていた。
 

 


6月22日 ジェニファーは朝早く自分の本体を格納庫から出して端末の自分は市役所に向かう予定だった。 健との入籍手続きを済ませるためである。

自分の本体を格納庫から出した理由は入籍当日に記念旅行に出るためだった。 ジェニファーの推進燃料はすでに空の状態だったがゆっくりなら少し離れた海沿いや山岳地までならプラズマ動力で飛ぶ事が出来た。 まだ暗い時間から前方のセンサーモジュールを水洗いする。


<最近洗ってないなあ・・・仕舞いっぱなしで自分がどっちだか忘れちゃうよ。>

バケツを持ったジェニファーは洗い終えた自分の本体を眺めていた。

<うん、すこしは綺麗になったかな。>


プラズマエンジンでは宇宙空間で巡航は可能だが重力圏内では高高度までの上昇は難しく低空までがいっぱいだった。

春以降は李李を連れてのキャンプも予定していたので船内の冷蔵庫には食料と菓子類、キャビンやカーゴルームにはバーベキューセットなどまで積んであった。

健と一緒に暮らして一番変わった場所は船内の居住室で、タカが居た頃は酒瓶でいっぱいだったベッドの周りは李李のお気にい入りぬいぐるみや生前のカレナが写った家族写真が置かれている。


ジェニファーは仕事上で輸送船としての出番はほとんど無く、工事や機械類の移動で年に何回かジュリアを手伝う事くらいである。 すでに攻撃用の光学砲など武装オプションは全て外されていた。

フォースはタカの生前に機能終了しおり惑星ゼロで購入したサポーターユニットとして現存しているスタンドアローン個体はこの時点で無かった。

その意味ではサファイアとジェニファー、ジュリアは例外的に長寿命と言える訳であり、この時点で新興人類に存在する人工知能はこの残った3体のみである。

サファイアは身長や振る舞いから機械端末のロボットとして認識されていたがジェニファーとジュリアは人間同様に扱われていたため婚姻に対して周囲からの違和感は特別に感じられていなかった。

その要因の一つにジェニファーが幼稚園の職員を100年以上務めていいたため育った人口の殆どカレナや健と同じようにジェニファーの教え子でもあった。




<さて・・・今日はお墓に行こうかな。>
この日は少し気温が高く、天気も良かったため役所に向かう前にタカと舞の墓地に向かう。 手には小さな花束も持っていた。

墓地には人気は無く緑に囲まれた二人の墓の周りには多くの野草が花を咲かせていた。 ここに来るのは春にサファイアと会って以来となる。


<誰だろう?>
ジェニファーが花を置く前に、花瓶に入った花があるのに気付いたが周りには誰も居なかった。

<サファイアかな?>


簡単に墓石を掃除してジェニファーは腰をかがめると手を合わせる。

「今から婚姻届を出してくるよ・・・ごめんね・・・タカ。」

ジェニファーは暫くタカと舞の墓標の前に立っていたが一礼すると空高く飛んだ。「また来るね!」


役所の帰りにライゼルの店へ小麦粉を買いに寄ったが(臨時休業)の紙が下がっていた。
<今日は定休日じゃないよね。 何で?・・・ストック少しあるから今日の分は足りるかな。>

ジェニファーが家に戻ろうとした時、上空から見ると健の工場の車庫に車が何台か駐車していることに気づく。

<え、今日はこんなに健のお客様?>
家に入るとダイニングに大勢の客が来ていた。
 

 

「ジェニファー、おめでとう!・・・幸せになるんだよ。」

最初に大きな声を出したのはケーキを前にしたライゼルだった。 頭に紙の帽子をかぶっている。
「あたしが昨夜作ったんだよ。 惜しいね、ロボットのアンタは食べられなくて!」

「ううん。 いい香りがするもの、きっと美味しいよ!・・・ありがとうライゼル!」

ジェニファーはライゼルの作ったケーキを見渡す。

「すっごく大きいね!どうやって運んだの?」


「ジュリアに頼んだんだ、ジュリアは着替えたらまた来るって。 皆でさあ早く食べようよ。」

健もナイフとフォークを配っている。 ライゼルは笑いながら最終段階としてフルーツを乗せていた。


「久しぶりの自信作なんだわ。 みんなに食べてもらわなくちゃ・・・全部私のおごりだし。」

「みんなありがとう・・・今日は家族だけでお祝いするつもりだったのに・・・。」

ジェニファーはライゼルに頭を下げた。 「本当に有難うね!」

「あら、パーティーはみんなで楽しむものよ。 ジェニファーさあ、ぼやぼやしないで早くカットして!」


ロウソクの点火はジェニファーのプラズマアーム砲だった。

「おい、気をつけろよ。 家ごと燃やさないようにな!」

健は震える手でジェニファーの右手を支える。

 

「うん・・・最弱でも外すと天井焦がしちゃうかも!・・・だって80年以上使ってないし指先から10cmなんて近距離、撃ったことがないの。」

ジェニファーは久しぶりに右腕のミラーをわずかに開いた。 ミラーが開くと皆は「おー」と声を上げる。

「そうだよ。 本当は幼稚園の先生に大砲なんか必要ないものな。」

健はジェニファーの肩も支える。「うん。点火は成功だ!」

ロウソクへの点火は無事成功し、皆は拍手をした。

幼稚園の元同僚や健の仲間たち、李李の同級生も狭いダイニングに集まっている。

一番奥ではサファイアが微笑みながら立っていた。

<おめでとう・・・これであなたも立派なお母さんですね。> サファイアが差し出したのは大きな花束だった。

<今朝、墓地にも置いてきました。 あの二人も喜んでいるでしょう。>

<サファイア、ありがとうございます。・・・大きな花束ですね。>

<花屋のベルがあなたのために今朝早く市長室まで届けてくれたのです・・・あなたの元教え子でしょう。>
<ベルが卒園したのは、もう20年以上前の話です。>

<ベルがよろしく伝えて下さいと言っていました。 優しい先生だったとも言っていましたよ。>
<はい、ベルにはあとでお礼に行きます。 どうして私の入籍が知れちゃったのでしょうか? 一部の人以外は秘密にしたかったのに。>

<李李が情報発信源みたいですよ。 新しいお母さんが出来るって皆に話していましたから。>

サファイアは李李を見た。「李李、秘密を我慢出来ませんでしたね。」

「まあ、李李ったら・・・もう、お喋りね。」

ジェニファーは李李の頭をさする。「やっぱり内緒に出来なかったのね。」


「おめでとう、健・ブラウン! ジェニファー・ブラウン!」

 皆は声を揃えてジェニファーに紙吹雪をふりかける。

「ありがとう! みんな。」

健は自分で作った指輪と髪飾りをジェニファーに着ける。

「ジェニ、僕は貧乏だけど、これからもよろしく!」

紙吹雪が部屋を舞い、李李はカレナの写真を抱えてジェニファーにキスをする。

「ジェニーママ、 本当のお母さんになってね。」

「うん。李李・・・これからもよろしくね!」 ジェニファーは李李を抱きあげ、それを見た全員が拍手をした。


健は明るい表情でジェニファーの背後から両肩を持った。

「ジェニ、君に素晴らしいニュースが有るんだ!」

「なあに?」

「先週完成した試験プラントで推進用の再生燃料が出来たんだ。 もう、準備は出来てるよ。 不純物は全くない、僕の自信作なんだ。」

<私でテストは終わってるのよ。> ドアを開けて入って来たのは紅色のドレスを着たジュリアだった。

「品質は保証付きよ!ジェニファー、今日からメインエンジンブースターで飛べるの。」

「ジュリア、ひどいよ・・・健も私でテストしてくれなかったんだ!」 ジェニファーは健を軽く突き飛ばし少しきつい目で睨んだ。「結婚前から浮気者!」


「大切な花嫁を実験台には出来ないよ。 なあ、ジュリア!」

「そうよ、新婚旅行の晴れ舞台でエンストこいたら恥かしいでしょ!」

ジュリアは片目をつぶって頷いた。 それを聞いて皆は吹き出す。

 

「そりゃそうだ!」 健も大笑いする。

「もう!・・・でも頑張って飛んでみるからね、見てて!」


<ジェニファー、私からあなたにも良いニュースが有ります。>

サファイアはジェニファーに近づいた。<耳を貸しなさい。>

<ええ?・・・どんなことでしょうか?>

<先月ファリルとマリアナに連絡がつきましたよ。 昨夜はリジェにも。>
<ファリルにはガーディアンも一緒でしょうか?>

<あなたが戦争を嫌がる話をしたら、ガーディアンは防衛の目的だけに地球の周回軌道を死守するって頑張っているそうです。 彼にも少しは仕事をやらせてあげなさい。>

 

<・・・地上に武器を持ち込む事がないなら我慢します。>

<マリアナは単純にあなたの結婚生活を見たいだけに休暇をとったと言っていました。 仕事の関係で式に間に合わないと残念がっていましたが。>

 

<多分お酒が飲みたいだけでしょうけど・・・あいつらしいですね。>


<リジェのエンジンはワープ航続距離が短いので到着まであと217Fデラス(3年)以上はかかるでしょう。 あなたの分が教育庁の欠員になったので補充する目的も有ります。>

 

<では彼女も正式な教育に参加できるのですね。>

<はい。 健康な子供たちを任せてみようかと思うのです。 教育プログラムはアークが担当します。>
<タカが聞いたら喜ぶでしょうね。 とても残念です。>

<ピグラとウェラミルのお墓はタカと舞の隣が空いているのでそこに埋葬しましょうね。 ダリルに墓石の予算調整させました。>
<素晴らしいです! 遺体を冷凍庫に入れっぱなしも可愛そうですから。>


<あと・・・条件付きで冠婚葬祭に限っては一部宗教を認めましょう。 次回の議会で提案する準備を進めているのですよ。>
<本当ですか?!>

<タカ達が亡くなって悩んだのですが私なりに決心がつきました。 私も賛成です。>
<嬉しいです!・・・これで隠れて墓参しなくていいのですね?>

<但し、冠婚葬祭と宗教参加に資金収集と政治は切り離す条件付きです・・・>

 

「ねえあなた、墓石の準備は出来ていますか?」
サファイアはワインを笑顔で来賓客に注ぎ回るダリルの背中を叩いた。

「あ・・・はい。 一番いいヤツを手配します。」


<あの、まさか・・・サファイアは議長と?!>
<いえ、来月カレンを再起動するので7番端末を当ててダリルと再婚させる考えですが。>

<ええっ!本当ですか? 素晴らしいです。>
<さあ・・・どうでしょうかね・・・カレンがダリルで満足できないと思うのですが・・・> 

 

「ねえ、あなた。 浮気したらあなたは3番リアクター(反陽子炉)で骨まで灰にしますからね。」

「あ・・・はい! 肝に銘じます・・・。」

ジェニファーはおかしくて吹き出しそうになっていた。


少ない人数ではあったが披露パーティーは終わり、格納庫前のジェニファー本体の前に全員が集まる。
ダリルが簡単な挨拶をすると大きな音と共に上空に青白い花火のような光が多数広がった。


「え?・・・どうしてプラスマ信号弾? だって私かジュリアしか撃てないはずなのに?」
ジェニファーは首を傾げてあたりを見回した。


上空から一人の青年が降りてくる。 ジェニファーの前にひざまずくと顔を上げて連邦軍式の敬礼をした。


「おめでとう ジェニファー! タカ様と舞様の結婚式には出られませんでしたが今日は間に合いましたね!」
「うそ!  何でカナルがここにいるのよ」ジェニファーは驚いて後退りをする。

「ほら・・・後ろ見て下さいよ・・・やっと修理出来たのですから今後は可愛がってくださいよね。」

ジェニファーが振り返ると花束を持ったテラが彼女を見上げていた。

 

「ジェニファーさん、 おめでとうですの!」

「ええっ テラは直ったの?・・・どうやって?」

「ハイ・・・あのですね、連邦軍技師ブラルはb2bの修理はお手のものですよ。 テラ1 テラ2を改造したのは私ですがサードくんはテラのライフカウンターのリセットができなかったみたいですねえ。」

 

「えー 可愛い! これから李李のお友達になれればいいけど」

カナルはそっとジェニファーに近づくと耳元で囁いた。
<タカ様を忘れて健様と結婚なんて、なかなかやりますね。 私は来月からあなた達お二人のラブラブ時間を確保する目的で健様のサポートをするようにサファイアから再起動する許可を頂けたんですがね。>

<あのこと健にバラしたら、また体を木っ端微塵にして頭を工場の天井でも風鈴代わりにぶら下げてやるからね。 今の端末はバージンなのよ!>

<今の端末が・・・でしょ。 何度でもバージンになれるから機械端末って便利ですねえ・・・ウヒャヒャヒャ!>
彼は両手を広げて空に一気に上昇する。

<待ちなさいよ! どこで端末買ったのよオ!>

<あなたの予備端末と一緒の時にサファイアが買ってくれたんです。 高かったから壊さないでくださいね! 今度こそ一張羅なんですから。 思考プロセスはサファイアのデータバンクメモリーで暮らしています。>

上空まで飛び上がったカナルの両腕からは大空に再びプラズマ信号弾の花火が数発広がった。