廃棄惑星に残す記憶



地球へ向けての帰還航行中にサファイアは特殊な船舶交信を行っていた。

その後、タカにどうやってその内容を伝えたらよいのかわからないまま定期的な家族会議に出席し いつもと違うサファイアの態度にタカはすぐに気づくことになる。
 

会議も終盤に近づいた時、サファイアは横に座るタカの袖を引っ張った。
「本日は早めに切り上げてよいですね?・・・特別、問題点は見受けられませんから。」


「あ、ああ・・・そうだね。」 彼もファイルを閉じて席を立つ。

「今日はここまでにしようか。 細かいことはジンに伝えてくれ。」

全員が立ち上がるとサファイアも早々と自分の席に戻った。「ちょっと・・・失礼します。」


「何だい?」タカはコクピットの操作パネルに座るサファアイアの後ろに立つ。

「いつも通りの君じゃないね。」

「会議は終了してよかったのですね? 本日決定した事項は議事報告書にまとめますから。」

「どうしたんだよ? いつもと様子がおかしいよ。」

サファイアは立ち上がり、振り返ると帰ってゆく全員に頭を下げた。

「では本日はお疲れ様でした。」

全員が戻ってもタカと舞はコクピットルームに残っていた。

「反省会を省略するなんて君らしくないね。」 タカはサファイアの両肩を持つ。

「今日はなんかいつもと変だよ。」

 

舞もタカの隣に立つと心配そうな表情でサファイアを見た。

「何かトラブルなの?・・・お願い、私達に隠さないで。」

 

「こちらへ・・・。」
サファイアは再び会議テーブルに座ると二人を前に手を組んで静かに言った。

 

「少しだけお話・・・お願いがあるのです・・・聞いていただけると助かります。」

テーブルを挟んでわずかに沈黙が流れる。

「ザイダ・・・まだ残っていたのです・・・ね。」

サファイアは壁のスクリーンに写った文字情報を見る。「今朝の船舶通信文です。」


「ザイダは君の本名だったかな。」
「はい。 ギャラクシーダイナミクス社の大型輸送船開発プロジェクトネームです。」

「ファリルも居たね。」
「ファリルはザイダ計画ではなく普及型量産機です。 ザイダは現存するはずありませんが・・・驚きました。」


「どうしたんだよ・・・いつもの君らしくない。正直に全部答えてよ。」
「いいえ、やっぱりあなた達には無関係です。 もう家に帰りなさい。」

「そう言われたらますます帰れないよ。 途中まで話してさ・・・。」
「そうよ、家族じゃない・・・ねえ。」 舞もタカを見る。「心配なのに。」

「水臭いな、教えろよ。」

サファイアは振り返り、ため息を付いた。

「ザイダ、0006です・・・ザイダ計画の最終機体です。」
「君の姉妹かな? 6番目で計画は中止されたんだね。」

「弟なので男性設定の機体です。 ガルファーと言いましたね・・・タカ船長、 可能なら次回ワープのエントランスホールのポイントをA6R4ガルジ...548万キロ延期してもいいでしょうか? 出来ればですが彼に会いたい事情がありまして。」

「なんだそんな事か、ぜんぜん問題ないよ。 別に地球に急いでいるわけでもないし・・・そんなに遅れるんじゃなければ少しばかりいいじゃないか。 彼とは最後の別れになるのかもしれないから。」


「ありがとうございます。 ではワープポイントと航路変更届けは連邦軍に提出しておきます。」
「君の事情で転送予定変更するのは初めてじゃないか。 そのくらい好きにしなよ。」

「ではお言葉に甘えまして57日分ほど航路変更します・・・でも詳しい理由は聞かないので欲しいのです。」
「それは困るな・・・やっぱり秘密かい?」

「できれば無条件で納得していただきたいのですが・・・多分、難しそうですね。」
サファイアは両手を合わせて二人を見た。


「ザイダ0006・・・ガルファーは私の弟に当たります。 現在は廃棄惑星に向かっているので・・・会いたい理由は別れの挨拶なのですが、このまま巡航すると50日後に彼の近くの航路を通ります。」

「君の家族か・・・もう会えないのなら会っておくべきだし。 でも男性機体なんて珍しいな・・・ガウストかガーディアン以来だね。 廃棄惑星って船の墓場かい?」


「墓場という場所ではありませんが、彼にとって最後の勤務地となるでしょうね。 先ほど通信情報を確認しましたが、彼から私に渡したいものがあって少し並走したいとのことです。 私も彼に渡したいものが有るのです。」


「廃棄惑星に行くなんて・・・彼は機能終了するのかい?」

「いえ、 今は詳細をご説明出来ません・・・ガルファーの最終状態を説明するのはお許し下さい。」
サファイアはただ頭を下げ続ける。 そのまま動かなくなった。


「ねえ、深い事情がありそうだからそっとしてあげようよ。」 舞はタカの肩を軽く叩いた。

「サファイアだって知られたくないこと有るんだし・・・ねえ帰ろう。」

「そうだな・・・巡航に関係ないならいいけど・・・・サファイア、航路変更は君に任せるよ。 何か困ったことが有ったら相談してな。」
タカはテーブルを立ち上がり舞と部屋を出て行った。



<ガルファー・・・久しぶりですね。0002です。 現在はサファイアと呼ばれています。>

<やあ、まだお互い生きてたな。 船舶情報で聞いてたよ、僕もいよいよ終わりさ・・・サファイア、君は今度プラネットアースに向かっているんだってね。>

<はい、 再生人類を輸送中です。 多分私はそこで機能終了するのでしょう。>

<羨ましいな、仕事がいっぱいあってさ。 いつも心配しながら聞いたよ。 プラネットアースの小惑星対策とかザム総裁の横領事件とか・・・今は地球人の輸送なんだな。 すでに銀河系の有名人だし輸送船冥利に尽きるね。>

<事件の連続でそれなりに苦労は有るのですよ。 でもあなたが廃棄惑星行きとは驚きました。 現存するザイダ計画の機体はついに私だけになるのですね。>

<そうだよ。 0003は解体処分済・・・0004は事故で大破。 0005は行方不明さ。 僕も最近、事故ってね。 もう補修有効期限を過ぎていたし君に残った燃料と補修予備部材を分けてあげたい・・・もう僕には必用が無いからさ。>

<私の燃料は十分にあります。 プラネットアースまでのワープには十分な量ですから。>

 

<いや、君は輸送人類がエネルギーを自分達で生み出せるまでの期間、君自身のリアクターの動力が必用なはずだ。 かなり足りないよね・・・さっき試算したんだよ。>

<正直言いまして確かに足りません。 でもあなたの動力を分けていただくわけにはゆきません。>

 

<いいさ、こっちも貰ってもらえると助かるんだ。 減ると苦労も短くなるしね・・・でも運ぶ人手はあるかな? 僕の格納庫に輸送船はないんだ。 トランスポーターは死にかけたのがいっぱいいるけど。>

<小形輸送機は2機持っています。 ただ、汎用カーゴを持っているのは1機だけですが。>

 

<じゃあ軌道を合わせよう。 4RD41デラスにマーカーの待ち合わせ場所でね。 それまでに貨物は荷造りしておくよ。 両舷の格納扉とプラットフォームは普通に使えるから輸送機にそう伝えてほしい。>

<助かります。 ではまた・・・。>
サファイアはスクリーン上に航路予定図を出していた。


数週間後の朝、ジェニファーは自分の休日にタカの家を訪れる。

「タカいる?」

「うん、いまシャワーなの。」 舞はキッチンで食器を洗っていた。

「タカってお風呂好きね。 朝から入るんだ。」
「でも夜は体洗わないのよ。 不潔よね~。」舞は笑う。

「ほんとね。 お酒飲んですぐ寝る習慣がいけないのよね・・・だからお腹が出るのよ。」
ジェニファーは笑いながらテーブルに飾ってある花を取って見ていると上半身裸のタカがタオルをかぶってドアから出る。

「わわっ。 お前、来てたんか!」

「驚いていないで早くシャツ着なよ。 もうサファイアは乗って待ってるし。 忘れたの? 今日は燃料と資材を運ぶ日でしょ。」
 
「あれ・・・そうだったかな。 ガルファーの件? 出発時間は何も聞いてないよ。」
「もう・・・ボケちゃったの? さっき通信カード着信あったでしょ。 だから通信機をいつも持ち歩いてって言ってるじゃない。」

「じゃあ舞、タカ借りるね。 夕方には戻るよ。」
「いってらっしゃい。 夜はピザ焼くからね。 トマトとチーズでいいよね?」

「ああ楽しみに・・・ああああ! 離せ! この乱暴者!」

着替え中のタカはジェニファーに抱えられてポートに連れて行かれる。 「痛いよ・・・もっと優しくできんのか!乱暴教師め!」

 

「もうエンジン加圧終わってるのよ、急いでるんだからね・・・燃料も勿体ないでしょ!」


タカがジェニファーのエアロックから乗り込むと後部シートにはもうサファイアが乗っていた。

「君も乗るなんて珍しいな・・・あれ?いつもと服が違うじゃないか。」


「お早うございます。 本日は私もガルファーに乗り込むので。」彼女の横にはアタッシュケースくらいの箱が有った。

「ああ、これは彼に渡すものです。」

「へえ、 機能終了する機体に土産なんか持ってゆくんだ。」

一旦コクピットに座ったジェニファーは走って近寄るとタカの胸ぐらをつかんで睨みつけた。


「あのね!・・・何も知らないくせに偉そうなこと言わないでよ。 アンタにこの意味が・・・」

<よしなさい、 タカには意味が解りませんから。> サファイアは微笑みながらスクリーンを見ていた。

「さあ早く行きましょう、 エレベーターを上げますよ。」

「はい、出発します。」

 ジェニファーはコクピットに再び座るといつも通りにサファイアの機体を飛び立った。


薄暗い宇宙空間をしばらく飛び続けるとスクリーンにサファイアと同じ機体が眼下に見え始める。しかし機体の状態は想像してたものと大きく異なっていた。


「あれ、君と同型機のはずだよね・・・何で中央に穴が空いているんだ?」

「彼は廃棄惑星に行きます。」


「君は昔、グリーフに行って解体される話をしたよね・・・廃棄惑星って解体される場所じゃないんだ。」

「はい、解体処分は資源の再利用です。 彼は廃棄処理係です。」
「係?・・・どう違うのさ・・・。」


「ジェニファーは再びタカに近づき両手を腰に当てて見下ろした。」

「ねえ、昔に言ったよね。 私もこういう場所に行く筈だったの。 タカが助けてくれたけど、ここで最後までこき使われるの。 動かなくなる日まで。」

 

「意味分かんない。 怒っていないでちゃんと説明しろよ、俺はバカなんだからさ。」


「私から説明しましょう。」
サファイアはシートから立つとタカの横に座った。


「輸送船は寿命や運用期限が切れた場合、製造された造船所で解体処分になります。 でも解体された機体や資源はすべて再利用できませんから再生不能な最終的なゴミは銀河連邦が定めた廃棄惑星に集められて管理されます・・・まあ、早い話が廃棄惑星は燃えないゴミの処分場ですね。

 

まだ動く機体はそこでゴミを管理して整理する仕事をもらいます・・・動かなくなる最後まで・・・そしてそこが自分の墓場にもなります。 ガルファーはその使命を受けました。」

タカはサファイアの言葉を聞いて絶句する。
「まさか・・・一生かかって他人の墓守?・・・そこで死ぬんだ。」

「そういうことです。 以前あなたが助けたタルタのテラも廃棄惑星へ送られる運命だったのですよ。」


「かわいそうだよ・・・だって人工知能にも感情があるんだろ?」

「あなたが憤慨しても規定は変わりませんよ。 私もジェニファーも人工知能として生まれてきていつかはこういう運命をたどるのです。」


「ねえ、タカ。 ガルファーは解体処分よりひどいのよ。 機体が動かなくなる最後まで働いて、自分の意識が止まるまでの何百年、ひとりぼっちなんだから。」

「タカ、あなたは生体ですから死ぬときは一瞬です。 でも人工知能は機能停止を積極的に行わない場合に暗黒の時間を待ち続けます。 生体より何千倍、何万倍の待ち時間感覚は人間には理解できないでしょうね。 端末の電池はすぐに切れますが本体のエネルギーを抜かない場合は思考は闇の中で永遠に続くのですよ。」

「最後に誰か止めてあげられないのか!」

「誰が自分を止めるのですか? 是非にでも教えていただきたいです。」
「だってサードは機能終了をしたじゃないか。 自動設定でさ。」

「彼は混成構造です。 私やジェニファーは艦載コンピューターですから彼とは構造や管理規則が全く違います。」


「ねえ昔、私が自爆許可もらった話したよね。 タカは怒ってたけど、あの時に私が言った慈悲って言った意味、今になって判った?・・・意識が消滅出来るって権利なのよ。 輸送船は自分で自分の動力を切る方法が無いのよ。 航行動力が無くなったあとは意識が切れるまで待ち続けるのが使命なの。 リジェも自分で一旦停止出来たけど意識は完全に止められないの。」


「うわあ・・・残酷だ・・・消滅するまで禁錮刑みたい。」


「あの大きな穴はカーゴブロックやコロニーをリリース(取り外した)跡なのです。 大型輸送船クラスの大きさでは輸送用のコンテナか私のように移住用コロニーを搭載します。」

「ガルファーはもう物を運べないんだ。」
「はい。 空洞部分に搬送機を取り付けられて廃棄惑星のゴミ埋め立て作業に使われるのでしょう。」


「あと26分で着艦します・・・ねえタカ、ベルト締めてよね。」
「あ・・・うん。」


ポートにランディング後に若い男性がエアロックの前に立っていた。 サードにも似ていたが髪は短かった。
サファイアは彼にハグをする。 二人は見つめ合ったまま言葉を交わさなかった。 そして彼女はアタッシュケース大の箱を渡す。


「見ないであげて・・・ねえ、カーゴハッチ開けるから燃料コンテナ積むよ。 ほら、ぼやぼやしない!」
「おい・・・あれ・・・何渡しているんだ?」

「私から説明できないよ・・・戻ってからサファイアに聞いたら?」


ジェニファーはカーゴルームの後部ハッチを開いた。 マリアナに搭載されていた36Rと同様のトランスポーターが大勢で大きな箱を持ち込む。


「なあ、ジェニファー・・・こいつらも廃棄予定品か?」

「うん、私もこうなるはずだったのよ。」
「へえ。」

大小のコンテナを200以上を積み込み、後部ハッチは閉まってゆく。 タカが手を振ると彼女らは同じく手を振って別れを告げた。

「かわいそうだな・・・機械端末って生体にこき使われて最後まで仕事かよ。」
「家電品と同じなのよ。 機械ってそう言う運命だよ。 タカは生体だから分からないけどね・・・あと3分で出発するよ。」


「あれ、 サファイアは戻っていないよ。」
「うん。 ここに残るの・・・」

「ええっ! 置き去り?」
「うん。 今日乗っていたのはサファイアの予備端末・・・昔に使っていたやつね。 古い体だよ。」

「・・・。 おい、ジェニファー、エンジン止めろ!」
「だめ・・・サファイアの命令なのよ。」

「バカ! いいから早く止めろ! エアロックも開けろ!」


「しょうがないわね・・・多分そう言うと思ったのよねー・・・メインエンジン及び加圧ブースター加圧停止します。」
タカは走ってエアロックハンガーをかけ降りると目の前にサファイアは立っていた。


「やはり来ましたね・・・あなたには少し説明が必要でしょう。」


「おい、どういう事だよ!」 彼は泣きながらサファイアを抱きしめる。「君をここに置いては行けない。」
サファイアはタカの目を見て優しく微笑んだ。

「ガルファーが死ぬまでここに残ります。 私はマスターサファイアのバックアップコピーなのですよ・・・本船の私にによろしく伝えてください。」

タカは拳を握りしめて涙を流す。


「うう、君の考えていることは分かったよ。 だから・・・だから・・・。」

「泣くのをやめなさい。 私はあなたの知っているいつものサファイアではありません。」
「嫌だ。 君は君だろ?・・・でも。」

「私達はコピー自在です。 コンピューターのデータファイルに そもそもオリジナルやコピーの区別は無意味です。」

「判った・・・じゃあ・・・これからも・・・元気で。」

タカはさらに強くサファイアを抱きしめた。「さようなら。」

「はい・・・地球で人類の再生計画を頑張ってくださいね・・・あなたと長い旅が出来てとても楽しかったですよ。」

「君のことは忘れない。」

「いえ、コピーされた私の事は忘れて欲しいのです・・・でも一つだけ、あなたにお願いしていいですか?」

「何?・・・俺にできることなら!?」


「はい。 遠い将来、地球人類が再生して未来に科学が進歩しても開発される人工知能に少しでいいから消滅の権利は与えてあげてくださいね。」

「死ぬ・・・権利を・・・かい?」

「はい・・・そうです。 銀河連邦の法律では人工知能に自分を永久に停止させる権利は有りませんでした・・・利便上に必要だったのだと思うのですが。」

「うう・・・絶対・・・与えるよ。 俺は生き物も人工知能も死ぬ権利はあると思うんだ」

タカはサファイアにキスをする。 「俺、新しい人類には絶対そんなコトさせない。」

「おねがいしますよ・・・では。」 サファイアは彼の首に手を回した。

「さようなら・・・舞にもよろしくお伝え下さい。」


「ほら、行こうよ。」ためらうタカの手をジェニファーが引く。

「もう出発するよ。」

タカは顔を覆い走って居住室に走りこんだ。


<ではコピーサファイア・・・さようなら。> ジェニファーは敬礼をする。

<彼を連れて帰投します。>

<はい。 では本船のマスターサファイアによろしく伝えてください。>
<伝えます。>


ジェニファーはガルファーの格納扉からテイクオフした。


「急にどうしたのよ。」 ジェニファーは居住室のベッドで座るタカを見て水を差し出す。

「いつまで泣いているの? 男のくせに。」


タカは返事をせずに酒を飲み続けていた。

「本船のサファイアが心配していたよ・・・やっぱりタカに見せたのまずかったってさ。 私達の運命って判った?・・・事故で破壊しなくても最後はこうなるの。 人工知能って使い終わったらただのゴミだから。」


「そんなの嫌だ。 ちゃんと意思や感情があるのにか?」

「そうよ。 生体みたいに死ぬ権利はないの。 だから自ら消滅できるって大切な権利なのよね。」

タカは立ち上がるとジェニファーを抱きながら泣く。
「彼・・・ガルファーは?・・・あのサファイアはこれからどうなる・・・」

「そうね・・・あと150年以上は働いてそれから・・・200年以上は二人は一緒に暮らすのね・・・リアクターの動力が切れるまで。」

「あのな・・・サードからは施設へ行くって聞いてたんだ・・・だから人工知能は全部そう言う最後になると思ってた。」

「彼は脳組織のある混成構造でしょ。 生物としての死ぬ権利が有ったの。 私やジュリア、サファイアは別なのよ。 私達は不燃物。 だから使い終わったらゴミなの。」

「心や感情があってもか?」

 

「そう? 人から見て心に見えるもの、ただのプログラムでしょ・・・データなんて最初から形なんかないもん。 だから動かすコンピューターはただの不燃ゴミ。」

「お前の行動も言葉もか?・・・俺には人間として見てるんだからな。」

 

「それはタカの勝手でしょ。 私だって自分の存在は認識してるけど心が何処にあるのかわかんないよ・・・私、ただのプログラムだもん。」


「こういうシステム、何とかならないのか?」


「連邦政府の規則だし・・・そうね・・・でも私達はタカと舞に出会えて幸運なのね。 多分最期まで皆のために仕事できるけど、有効期限が切れた機体は宇宙では回収廃棄なの。」


「だから弟のためにサファイアは残ったんだ・・・理由を知らなかった。」


「それでも彼らは幸せなのよ」彼女は軽くキスをする。「ねえ、もう泣かないの・・・昔、言ったよね。 自爆した二人のテラは最期の日に幸せかもって。」

「連邦組織のバカヤロー・・・爆弾とか船に感情なんか組み込みやがって・・・生き物に便利ならそれでいいんか?」

「そうね・・・機械やコンピュータープログラムの進歩は残酷かもね。 工業技術の革新はいいことばかりじゃないの。 じゃあね・・・16:15分には着艦するから。」

ジェニファーはしばらく彼を見下ろしていたが居住室を去る。 タカは帰投するまでの1時間はベッドに潜って泣き続けていた。