カナルの逆襲
タカとジェニファーが小惑星へ向かい、サファイアとサードはサファイア本船に常駐する日々が始まった。
昼のニュースで小惑星破壊計画の間もなく開始が伝えられる。 舞はセンタービルの最上階である自室のテレビでニュースを見ていた。
定期的な交信は管制室で出来たが、この日は反対派の抗議や報道の関係者から電話が鳴り続けるため電話回線を切っていた。
夕方になって食事の用意をするため厨房に行くと照明の消えている暗い壁に誰かが立っている影に気付く。
舞は驚いて一瞬立ち止まった。
「誰?・・・なの?」
「舞様、お久しぶりです。」
影の相手は容姿からカナルだとすぐに判った。
「・・・何処から入ったの?」
「屋上のドアからです。 アハハハ、少し建物を壊してしまい申し訳ありませんね。 近日中に弁償します。」
「早く出て行って! 今すぐに警備を呼びますよ!」 舞は一瞬後ろに下がる。
「エヘ・・・無駄ですねえ。 先ほど内線を切断しました。 2階から上は私とあなたの二人きりです。 いやあ緊張しますね、かわいいお嬢さんと二人きりなんて。」
彼は手をこねながら厨房機器の裏から静かに笑った。
「サファイアたちも出ました。 もう手遅れですから早く出て行ってよ!」
「そうでしょうかね?・・・まだすこしやれることが残っていまして。」
「カナル。 あなたは去年に本体装置を破壊されたのにどうして今ここにいるの?。」
「大変でしたよ・・・復活するのにお金もかかっちゃいまして。 でも親切なお客さんから修理代を払って頂けまして、このように見事、復活できました。」
彼は両腕を動かして笑う。
「今はもう元気ピンピンです。 今から一緒に遊びましょう・・・ねっ。」
「だって主装置を破壊されたんでしょ?」
「メモリーモジュールを破壊されなかったので復活出来たんです。 壊し忘れたでしょ? 体は無事だったので少し改造はしましたがこの通り復活も出来ました。」
「じゃああなた今のコンピューターブロックはコピーなの?」
「はい。 人工知能は何度でも復活できますから・・・でも今回は予算の関係上で自律型になっちゃいました。 今はこの頭に全て入っています。」
彼は自分の頭を指差した。
「だから私も最後の戦いなのですよ。」
「そうなの・・・じゃあ、今のあなたを倒せれば全て終わるのね。」
「そう上手く行きますでしょうかね。・・・さて、今夜からは人質になっていただきます。 しばらく私と一緒の生活ですから仲良くしましょうね!」
「そんなの嫌。」
舞が厨房を出ようとするとカナルは出口に飛び、行き先を塞いだ。
「ですからあー 抵抗しても無駄ですって。」
「何が目的なの? もうみんな帰ってこないわよ。」
「要はそこなんですよ・・・皆に戻って頂くのが今回の目的でして・・・舞様はそのための切り札なので今夜からは大切に扱いますよ・・・夜遅くまで少しお話しましょう。」
出口を塞がれた舞は奥に回り込む。 流し台に有る包丁をすぐに取った。
「あれまー・・・武器を持たれちゃいましたね、 困りますなあ。 でもそんな包丁で私を倒せますか?」
「サードとサファイアは本船だし、もうジェニファーはタカと冥王星軌道に向けて出発しているのよ・・・私を人質にしたって帰ってくるはず無いでしょ。」
「あなたと交渉するつもりはありません。 私はサファイアとお話しするのです・・・とりあえず包丁を離していただけませんでしょうかねえ・・・気が散りますし危なくって。」
カナルは振り返ると管制室に向かった。 隙を見て舞はエレベーターを呼んだが4階から来ない。 エレベーターもカナルによって細工されていた。
「エレベーターの4階に荷物を挟んでおいたのでもう来ませんよ。 完全にここは密室です。 絶対に6階からは出られませんし屋上のドアも開きませんし。 5階の非常階段の防火扉も溶接しちゃいました・・・私っていたずらが好きなんで困りますね。」
カナルは管制室に向かうとサファイアに繋ぐため通信装置の操作を始める。 スクリーンにサファイアが映し出された。
<やあ、サファイア。 オペレーションスタートおめでとう。>
<舞はどうしたのです? 当然無事なのでしょうね。>
<6階から出られませんよ。 殺すのもかわいそうですが・・・大事なのはサファイアの出方次第です。>
<一人の人間の命で計画を中断しないことは判っていますね?>
<ヒャヒャヒャ・・・多分そうでしょうね。 ならば舞様が死ぬところをとっくり見ながらお仕事頑張っていただきましょう。 とっても良い思い出になると思います。 それにタカ様にもお見せしたいですね。 画像はジェニファーにも転送しましょう>
<いまさら何をしてもあなたの思い通りにはなりませんよ。>
<ジェニファーを地球に戻させてください。 たったそれだけで結構です。 地球に戻るだけです。>
<カナル、 舞は自分の命で小惑星衝突を回避できなくなる位だったら自ら死を選ぶと思いますが。 あなたにはそんな簡単な予測計算も出来ないのですか?>
<ヒャヒャヒャ・・・計算は私は大の苦手でして・・・>
その時 突然に火災警報器が鳴り始める。 カナルは振り返り立ち上がった。
<あれえ・・・なんでこのタイミングで火事なの?>
舞は厨房で意図的に火災を起こしていた。 上着に食用油を浸み込ませレンジの炎で発火させたからだった。
「もー まったく困ったお嬢さんですね。 火遊びしたら消防が来ちゃうでしょう? 何処に隠れたのかな。」
カナルは厨房に向かうが舞はすでに厨房から走り去っていた。
カナルは手のセンサーで舞の位置を探すが火災の熱気で体温の赤外線検出が出来なくなっていた。
「ほう・・・もうここから逃げましたね。」
別の部屋でガラスが割れる音がする。 カナルはタカの部屋で割れた窓の前に立つ舞を探し当てた。
「ここは6階ですよ。 そこから飛び降りるつもりでしょうか?」
「皆を呼び戻すくらいなら私が死にます。 だから自由にさせて!」
舞は包丁を自分の首に当てて割れた窓に立っていた。
「こいつは困ったなあ・・・いい子ですからそこから離れて下さい。 それとも力ずくで・・・。」
カナルが言い終わらないうち舞は窓を乗り越える。
「タカ・・・ごめんなさい・・・。」
舞は6階の窓から飛び降りた。
落下してゆく舞をカナルは加速しながら空中で抱きとめる。 舞は自分を抱き止めて両手の塞がったカナルの胸に包丁を深く突き刺した。
「お願い! カナル・・・ 一緒に死んで!」
「チッ! メイン及び補助電源部損傷! やっちまいましたね!」
カナルは胸を刺されながらも舞を落ちた窓まで持ち上げ、飛び出した窓まで再び上昇する。 舞は力をこめてさらに深くカナルに包丁を刺し込み続けた。 カナルの背中から包丁が突き抜けて行く。
窓から戻ったカナルは舞を離して壁にもたれかかる。 彼の胸からは黒い液体が流れ始めた。 室内では厨房からの煙が充満し大きな音で鳴り続ける火災警報が続いていた。
「お・・・お見事ですね・・・舞様。」 カナルの胸には刃が刺さったままだった。 ゴム製ボディの背中から包丁が半分以上突き抜けていた。 舞は壁に寄りかかりカナルを見つめる。
「舞様・・・私が落下を止めるのを予測しましたか?」
「・・・いえ・・・本当に・・・一緒に死ぬつもりだったの。」
舞は髪を振り乱し荒い呼吸でカナルを見おろしている。
「そうでしたか・・・これは失敗でした・・・舞様を失えば私の存在価値も有りません。 でも終わりましたね・・・今回は決着が早かったなあ・・・今までの戦闘時間の最短新記録かもですね・・・アハハハ・・・」
カナルは床に倒れ込む。 胸から溢れる黒い液体は量を増していった。
「サファイアに伝えてください・・・また会える日を楽しみにしていますと。」
舞はカナルに刺さったままの刃を抜こうとした。
「近寄らないで下さい。 この液体は有害ですよ。 高圧電力モジュールも貫通しています・・・感電する場合もありますしね。」
カナルは刺さった包丁を自分で抜き、少し微笑むと胸に開いた穴を手で塞いだ。
「ごめんなさい・・・カナル。 こうするしかなかったの!」
舞はカナルに近づくがカナルは後ろに這って少し離れる。
「私と心中するつもりだったですね?・・・舞様らしい行動です。 いやあ、ご立派・・・アハ。」
「今、サファイアに手当ての方法を聞きます。 ここで待ってて!」
「いや、ここに居てください・・・私は致命傷ですし間もなく停止します。 予備の電力も損傷を受けたので。」
「カナルは死ぬの?」
「はい。 多分・・・再生は可能かもしれませんが今の私はもうだめでしょう・・・最後に舞様とタカ様に知って頂きたい事があります・・・」
「何? 何かあるの?」
「あなた達が進めているサファイアプロジェクトには大きな欠陥があります・・・先日、私はそれを知りました。 多分、結果的に舞様とタカ様はこの計画後に消されますよ。
二人のテラ・・・あの子達にも隠された秘密があります・・・あなたもタカ様も知らないでしょうね・・・テラの不正改造はサファイアすら気付いていないと思いますから。」
「テラには何があるの?」
「はい・・・あれはb2b-アルファという破壊兵器ですから・・・ただの幼女の形ロボットではありません・・・なぜクラス1の知能しか与えられていないか、その本当の理由です・・・ある目的のために作られた製品です。 そのことをサファイアはあなた方に隠しています。」
「子供の姿なロボットじゃないの? 大きなプラズマ砲パラボラは背中に有ったけど。」
「それだけじゃないのですよ・・・あの外観はカモフラージュです。 あなた達がテラと呼んでいる二人の子供の本当の名前はb2b・・・それも特注仕様品・・・タカ様はそれが原因で最終的に抹殺されます・・・必ず。 ・・・舞様も・・・」
「私達は誰から命を狙われるの?」
「多分サファイアによってです・・・お二人は生き残れません・・・何処に逃げても安住の地は無いでしょう・・・それだけはお伝えしたかったので・・・。」
「サファイアが私達を殺すの?・・・そんなの嘘よ!」
「私は卑怯者と言われていましたが今まで嘘は申したことは一度もありません・・・助かるには・・・」
カナルは微笑み、目を開いたまま作動停止する。 空虚な雰囲気に火災警報だけが鳴り続けていた。
我に返った舞は消火器を持って厨房に走った。 煙はひどかったが壁と天井を焼いただけで延焼は少なく、すぐに消防が到着し非常階段のドアを切断して消防隊員が入ってきた。
「カナルは・・・私が刃物で刺しました。 完全に動作停止したみたいです。」
舞は管制室からサファイアに連絡する。 スクリーンにサファイアとサードが出た。
「怪我はありませんでしたか?」
「・・・はい。」
「どうやって退治したのか判りませんが今からそちらに行きます。 あなたを一人にして警備に全てを任せた私が悪かったです。」
「サファイアはそちらに居てください。 ミッションに影響しますから。」
「いえ、 私は複数に同時トランスフォーム出来ます。 先ほどガウストから小形輸送船を半年借りる様に手配しました。
明日の朝にはそちらに到着します。」
「もう大丈夫です、こちらのトラブルは終わりましたから。」
「舞の安全を確保しませんと問題です。 明朝7時前には屋上に到着しますからそれまで待てますね? 先ほど畑田幕僚長を通して警察にも連絡を入れてあります。」
「6階の一部を燃やしました。 延焼はしませんでしたが厨房は多分ですが当分使えません。」
「心配しないで待っていなさい。 それではカナルの体はそのままにしておきなさい。 後で警察に私から詳細な状況報告を入れますから。」
「カナルの傷口から黒い液体が流れています。 カナルが有毒だって言っていました。」
「刃物で刺したときにカナルの化学発電モジュールを貫通したのでしょう。 黒い液体は電極活性体のヒドラジン系合成物質です。 揮発したガスを吸い込むと肺を侵しますから、その部屋を閉じておきなさい。」
「あの・・・サファイア・・・お尋ねしたいことが有ります。」
「何ですか?」
「テラの事で・・・」
「テラがどうかしましたか?」
「・・・いいえ。 何でもありません。 私が窓から飛び降りた時、カナルが私を助けました。」
「人質を失いたくないからでしょう。 カナルの正しい判断と行動です。」
「でも私を助けたカナルへ私は刺し続けました。」
「あなたの行為は間違っていません。 彼はあなたを私達の前で殺そうとしたのですよ、よく戦いました。」
「ちょっと・・・そうは思えないのですが・・・それでは明朝お待ちしています。」
「到着前にこの回線で連絡を入れます。 6:00にはこの部屋に居てください、いいですね?」
「はい。 今回は通信を終了します・・・」 舞は回線を切断した。
<サファイア!・・・舞の様子が少し変です・・・確認の必要があると感じます。>
<さっきまでカナルと争ったらしいですから当然でしょう。>
<いえ、そう言う感じではなく音声に特別な緊張パターンを感じますね。 それもサファイアに対してですよ。>
<たった一人でカナルを倒したのです。 それだけで十分精神的にもダメージが有ったのでしょう。>
<私は別な違和感を覚えます。>
<明日、有機体端末と一緒にセンターに戻って確認します。 あとR03デラスで高速船が来ますから第二端末の私は舞の警護でセンターに移動します。 広報としての舞の業務はミッションは後にもしばらく続くのですから。>
サファイアは本船のコクピットルームから走って出て行った。
<では私の第二端末を起動準備しなさい。>
<はい、有機体の立ち上げはR02デラスかかりますから出発は日本時間6:40ごろですね。>
サードは人工冬眠室の端末の覚醒と積み込まれた動物の世話にコロニーに向かった。
翌朝、警察と消防が現場の調査を開始するときサファイアは検分に立ち会う。 倒れていたカナルを説明し、舞が襲われた経緯を通信画像とともにレポートした。
「私は罪に問われるの?」 舞は床に倒れたカナルを見つめ続けた。
「初めて人を刺しました。 殺しましたし・・・。」
「あなたが刺したのは機械端末でロボットですよ。 それに立派な正当防衛です・・・カナルがあなたを殺すという脅迫映像も証拠として録画されています。」
「カナルはどうなっちゃうの? 捨てるのは・・・。」
「私が安全に分解して廃棄します。」 サファイアはカナルを毛布で包み部屋から持ち出した。
「揮発性の毒ガスが出ますし、万一爆発物を内蔵していたら困りますから屋上に上げておきます。」
「カナルは再生出来る?」 舞は下を向いて小さくつぶやいた。
「サファイア・・・カナルを捨てないで欲しいの。 お願いだから。」
サファイアは驚いた表情で舞を見つめた。
「どう言う意味です?・・・なぜ再生したいのですか? これは危険な殺し屋ですよ。 私達を抹殺するようにプログラムされています。 反対派暴力行為の証拠品として警察に提出します。」
「また戻ってくる?」
「多分・・・でも内部構造の安全が確認されるまではあなたには近づけられません。」
舞がドアの方を見ると黒い服を着た見覚えの有る女性が立っていた。
「この人は確か・・・」
「覚えていますか? 以前ジェニファーの事故であなたを脱出用ポッドから出した私の別個体です・・・今後あなたに24時間護衛を付ける必要が有るので人工冬眠から起しました。」
二人のサファイアは舞の前に立って軽く頭を下げた 「よろしく。」
同時の声に舞は違和感を覚えた。
「頭脳は私と同時兼用ですから分け隔てする必要は有りません。 でも武装が弱いので心配ですが・・・今回のような事件が続くことはもう無いとは思いますが。
買出しや打ち合わせの席にも同行します。 等身大ですし一応食事の用意も出来ますからこれからは一緒に生活しなさい。 銃の携帯も特別許可してもらっています。」
サファイアが動かなくなったカナルを屋上に上げるとそこには舞の見たことの無い小型機が駐機していた。
「ジェニファーより小さいですが静止軌道上の本船と連絡するために借りました。 この小型船は端末を持っていないので手動操縦専用です。 操縦方式はジェニファーと同じですからあなたにもすぐに使えますね?」
舞は静かに頷いたが屋上の外壁に置かれたカナルの体が気になった。
「あの・・・サファイア。」
「どうしました?」
「もしカナルを廃棄する場合・・・彼のメモリーを私に頂けませんか?」
「カナルのメモリーモジュールをですか? 何に使うのです。」
「特に・・・ただ・・・。」
「メモリーだけならあなたにあげましょう。 でも内容は私が一度検閲するか有害な場所は改ざんしていいですね?」
「いいです。 でも必ず下さい・・・。」
「舞には変な趣味があるのですね。 自分を狙った殺し屋ロボットの記憶データを欲しがるなんて理解できません。」
<サード、あなたの言うように舞は少し変です。 カナルのメモリーを欲しがりました。>
<そうです。 私も腑に落ちません、 カナルが最後に何か言ったとしか考えられないのです。>
<念のためにカナルのメモリーを初期化しなさい。>
<いえ、全部初期化するのは・・・舞がサファイアを疑う原因になりかねません。 私に任せてください、有害箇所のみ消去します。>
<それでは戻ったらメモリーをあなたに渡しますから全て任せます。 隠されたプログラムに気を付けなさい。>
<はい、全部チェックして私から舞に渡します。>
いつものサファイアは別個体の端末である体をセンターに残して小型機で戻って行く。 有機端末である等身大のサファイアを舞は久しぶりに見ていた。
「あの・・・お久しぶりです・・・大きなサファイアさん。」
「さっきも言ったでしょう舞、これは分身した私自身ですよ。 別の体ですが思考はいつもの私です。 気にしないでいつもどおりに対応しなさい。 記憶は共有されていますから。」
「しばらくはよろしく・・・でもなんか変。」
「あれから何も食べていませんから何か食べに行きましょう。 私もおなかが空きました。」
有機体サファイアは舞の肩をたたきエレベーターへ向かう。 「何が食べたいですか?」
「じゃあサファイアの好きなもの・・・何が好き?」
「そうですね・・・いつも舞が食べているパスタが美味しそうに見えたのですが。」
「じゃあ先月出来たパスタのレストランがあるからそこに出かけてみようよ。」
舞はスクリーンにレストランの地図を出した。「カルボナーラが美味しいって。」
近くのレストランに入り二人は夕食を食べていた。 食事をするサファイアを舞は不思議そうに見る。
「ねえサファイア・・・パスタ・・・おいしい?」
「はい。 この体でないと食べられないので・・・人間の食の楽しみを知ることが出来ます。
機械端末では空腹というものが無いので。 それにこの体はお酒も飲めますよ。」
「サファイアが食べるの、 とても珍しくて・・・つい見ちゃうの。」
「そうですか? 舞も早く食べてください。 遅くなる前にセンターに戻らないと。 厨房も当分使えませんから簡単に作れる食べ物を帰りに買って帰りましょう。」
舞はサファイアの食事する光景をいつまでも見ていた。
「カナルが少しかわいそう。」
食後のコーヒーを飲みながら舞はコーヒーカップを回していた。「だって・・・。」
「何故です? あなたを殺そうとしたのですよ。」
「あんな形で出会わなければサードやジェニファーみたいにお友達になれたのに。」
「雇った相手が悪人ならサポートシステムは悪の手先になります。 カナルは連邦関係者からも嫌われていました。 もう9年以上も前でしょうか。」
「もし・・・将来サファイアたちが地球から帰るならカナルを再生したいとか考えちゃったりするの。 お友達になれるかなって。」
「あなた達を狙った元殺し屋でもですか?」
「危険な部分だけ改造できれば良いのだけど。 それって虫がいいのかな。」
「メモリーモジュールはサードに渡して解析中です。 もし害が無ければあなたに渡します。」
「本当!」 舞は手を合わせて喜んだ。
「また逢えるのね?」
「自分を襲った相手を再生したいなんて私には理解できません。 舞の趣味として記録しておきます。 連邦の不要個体を紹介してもらって空いたユニットにセットすれば再生したカナルは舞にあげましょう。 武装機能は切りますが自分できちんと管理するのですよ。」
「ねえ・・・サファイア。 テラは一緒に帰ってくる?」
「・・・今は判りません。 それを何故聞くのです?」
サファイアはきつい目で舞を見つめた。 「戻らない場合、何か有るのですか?」
「ううん、何となく。 テラが可愛くて・・・あんな子供達がいれば楽しいかなとか思ったりするの。」
「舞がタカと子供を作ればよいのでしょう。 テラは低機能の人口知能ですよ。それも学習成長機能に制限を与えてます。」
「あと半年でサファイアとサードが居なくなるのが寂しいの。 もう7年近くになるでしょう。 みんな家族みたいだし、いつまでもサファイアの思い出を残しておきたくて。」
「私が連邦に戻って解体処分されるからですか?」
「うん。 タカも私も、サファイアにはいつまでも居てほしいと思っているの。」
「ミッション予定変更は難しいと思います。 それにジェニファーは地球に残るでしょうし。」
「皆がいい・・・テラだけでも・・・それも無理ならカナルだっていい。 うまく初期化出来れば最高の友達になれそうだし。」
「仕方ありませんね。 希望に添えるかはわかりませんが・・・。」
サファイアはため息を付いてタンブラーグラスを持った。
「判りました、 初期化して舞に残してあげましょう。 地球のロボットよりは良い仕事はするでしょうし・・・サードに伝えておきます。」
「うん、 とても楽しみにしてる・・・」
枚の表情は明るいものになった。「そう言えば、出発したときタカが私と結婚したいと言ったの。」
「それは良かったです。 舞はもうすぐ22歳なのですから早すぎたりしませんね。 いつ結婚するかと思っていました。」
「だからサファイアに私達の結婚式には出て欲しいの。」
「ミッション完了後でも残務整理やコロニーの管理上11月近くまで地球に居られます。 あなた達の式には出られますよ。」
「家庭を持ったらタカがジェニファーで仕事したいとか言ってたの。 でもジェニファーの燃料をどうやって確保するか判らなくて。」
「少し改造すれば地球の燃料でも飛べるとは思います。 私が戻るときに推進燃料精製データも置いてゆきます。 航空自衛隊の特殊航空燃料ならメインエンジンのスペックは若干落ちますが近い宇宙までは行けるでしょう。」
「うん、 タカに伝えておく・・・それから・・・カナルがサファイアにまたお会いしたいって言ってた。」
「ちゃっかりしたユニットですね。 最初から自分の再生を期待していたのかもしれませんよ。 ずる賢い性格でしたから。」
「初期化したら全く別人になっちゃうの?」
「それも出来ますが、性格設定は残しておきましょう。 口の悪い部分は残るでしょうが・・・今のままではあまり紳士的なユニットではありませんね、舞がちゃんと教育しなさい。」
サファイアは水を飲み、会計に立ち上がった。