序章 / 軌跡(Old memory)



薄暗い墓地の奥に花束を持って彼女は現れた。

「お久しぶりだね!・・・タカ。」

ジェニファーは中腰になり微笑みながら花束を差し出す。 強い風の中で長い髪を片手で押さえながら手にしていた花束はオレンジ色の菊だった。

「今朝から庭で咲き始めたのよ。 綺麗でしょ・・・ねえ、タカ。 舞と幸せに暮らしてる? 私はまだ元気だよ・・・私、6月に正式に結婚するの。 本当よ! 私はタカとは結婚できなかったけどあなたの子孫と結婚できるの。 少しでいいから祝ってね。」


遠くからの雷鳴が僅かに聞こえ、木々の枝は風に強く煽られる。 まだ早春にもかかわらず若葉がちぎられて辺りに渦を巻いている。 小さかったが春の嵐だった。

「タカったら私が絶対に誰とも結婚出来ないって言ってたよね・・・ハズレだよ。 相手はあなたの部下だもんね。 ちょっとはヤキモチとか焼いてくれるのかな? だって彼とはもう一緒に暮らしてだいぶ経つのよ。」


突然背後から近づく足音に気付いたジェニファーが振り向くとそこにはサファイアが立っていた。


<ジェニファー、今日はあなたもここへ来ていたのですね。>

サファイアの顔を見てジェニファーはすぐに立ち上がった。 髪を整え持っていた花束を持ち直おす。 サファイアも髪を押さえながら強風の中に立っていた。


<お久しぶりです。> ジェニファーは下を向きサファイアの視線から顔をそらせた。

 

<例の件以来・・・もう87Eデラス・・・約2年ぶりでしょうか・・・多分、私に憎悪の念を強く抱いてるのですね? あれから会って頂けませんでしたし、最後にお話出来たのはあなたの垂直尾翼を修理していた時期以来ですね。>

<いいえ。 あの件はむしろ私が多大なご迷惑をおかけ致しました・・・皆にもですが。>

<タカに生命維持装置のスイッチを渡した事、私は間違っていなかったと思いますよ。>

<もう時間が経ちましたから・・・今夜はタカに報告がありますのでここに来ました。 その髪飾り、昔タカから贈られた物ですね。>

サファイアは自分の髪に付けた造花の髪飾りに軽く触れた。 作り物のすずらんは黄色く変色し一部は横に曲がっている。 飾りにある小鳥の羽はかなり傷んでいた。

<もう色も変わってしまいました。 150年近く経っていますがまだ壊れずに持っています。 墓地へ来る時にはペンダントも必ず着ける事にしていますので。>

<私が頂いた髪飾りはもうずっと昔に壊れてしまいました。 大切にしていたのですが・・・でも健が新しいのを作ってくれるそうです。>

<健は手先が器用ですから良い物を作ってくれるでしょう。 タカも器用でしたね。>


間もなく雨が降ろうとしていた。 風もさらに強くなり周囲は暗くなり始めていて時刻はすでに夜に近かった。


サファイアが地球に着陸した周辺は都市化が進み、一部を除き道路整備もされている。 集合住宅も建ち始め、病院と学校も建設が終わっていた。 すでに人口も2700人を越え、今ではサファイア本船は都市の中央で議会の場として再利用されている。


旧人類の建造物で再利用されるものは多かったが、個人住宅は新築を希望する住人が多かったため公共施設の一部以外は建築ラッシュが続いていた。

最近まで本船のコロニーに有った医療棟は病院としても利用されていたが、利用者数が多数増え新規病院の建設が必要になっていた。 しかし発電所や変電所は資材の関係で現在でも電力供給はサファイア本船のリアクター(反陽子動力炉)で賄われている。


サファイア本船は都市整備委員会から歴史的保存が決まっていたが、地上での大気中では装甲外壁の老朽化は宇宙を飛んでいた時代より著しく進み、すでに外観は以前のように美しいものではなかった。

そしてサファイアの機械端末(体)は市長、裁判官として、また外科医としても多忙を極めていたため、この日も急な手術の割り込みで遅くなったのだった。


<ジェニファー、婚約おめでとう・・・今回は良かったですね。 多分ここに眠るお二人も喜んでいるでしょう。>

<今年でタカと舞が亡くなってからもう2年経ちます。 お二人とも突然な事故でしたから当時はすこし混乱しました。 遺体は若い姿のままでしたし。>

<二人同時でしたので、逆にそれで良かったのではないかと私は思うのですよ・・・もしどちらか片方が生き残っていたさらに悲劇的だったのかもしれません。>


<私はどちらかでも残って頂ければ良かったと思うのです。> ジェニファーは墓石に軽く触れる。

<ジェニファー、思い出すのは辛いでしょうがタカは舞の死を認識して自分の生命維持装置を切ったのですよ。 彼の望みだったのです。>


<はい・・・私は舞には・・・かないませんでした。 維持装置のスイッチは私とタカで一緒に押したのです。>

ジェニファーは下を向き跪いてしまう。 サファイアは手をとって彼女を立たせた。

<大丈夫です・・・申し訳ありません。 彼の死の瞬間の記憶を封印していたので少しショックが強すぎまして。>

<あの事故は不運でした。 誰のせいでも無かったですから仕方がありません。 私が事故の知らせを聞いたときには手遅れでしたし あなたも暴風雨の中をプラズマエンジンと反重力動力だけで一生懸命飛んだのですから。>


<いえ。 私があの時、資源探査で居なかったですからそのせいです。 直前に調査予定を変更したのは私です。 だからお二人の不幸は私の責任もあるでしょう。>

<もう終わったことです。 二人が亡くなった原因を突き詰めるのはやめましょう。・・・その事で自分を責めるのはおやめなさい。>


<・・・はい。・・・判ってはいるのですが。 タカが地球に戻らなかったら死ななくても良かったのだと考えてしまいます。 私がプラネット・ゼロからの帰還を提案したので責任を強く感じます。>

<いいえ。 タカは太陽系に戻ってきた時は泣いて喜んでいましたよ。 帰還と地球での人類再生はタカの希望でもありましたしこれで良かったのだと思います。>


<まだタカも舞も生きられたのに・・・残念です。>

<あの二人に処置した損傷修復期間は切れる時期に来ていました。 すでに年齢も180歳を越えていて老化は体内でかなり進行していたと思うのです。>


墓地の街灯がつき始める。 一番奥にタカと舞の墓標があり、その柵には小さな野草が生い茂っていた。


<その花束、あなたが家で育てた花ですね。>


<はい、 庭先で今年も咲きました。 菊の仲間だと聞きいていますが舞の品種改良品種なので正しい名前は判りません。 李李(りり)は舞の花と呼んでいます。>

<タカの死後、あなたは自殺未遂の後にブラウン家の健(けん)と一緒に暮らしているのですね。 ジュリアからいつもも聞いています。>


<はい。 私の船体の修理作業から彼と交際が続いています。 健も妻のカレナさんの死には大きなショックを受けていましたし母親を失った李李の状態も良くなかったので。>

<李李はこれからあなたの教え子になる予定ですね。>


<はい、でも幼稚園の職員は今期末で退職する予定です。 私の経験上、母親と教師の両立は困難かと思いますので今月から新しい小学部の先生が担当予定です。>

<なぜ教育委員会の代表も降りて専業主婦になるのです? あなたはこの中では教育経験者として長かったのですから指導者として適任だと思っていましたが。>


<いいえ。 もう私の出番は遠い昔に終わりました。 健の家族と静かに暮らせれば十分幸せです。 体は連邦軍戦士としても戦いましたし本体は高速船として武器輸送もしましたが今は平和と安らぎが欲しいと考えるようになりました。>

<ジェニファー、 あなたの残り寿命は地球の時間に換算してまだ300年近くあるのです。 いずれは健も李李も先に死んでゆきます。 それを覚悟の上で人間との結婚を決めたのですね?>


<はい。 自分の宿命を呪う時があります。 サファイア、あなたも多くの大切な方々を失ってきました。>


<もうその話は終わりにしましょう。 それよりたまには自分の機体を格納庫から出しなさい。>


<ええ、 健がたまに洗ってくれています。> ジェニファーは微笑んだ <でも、自分はもう空を飛びたくはないのです。>

<そうですか・・・私達の構造と時間概念は端末ユニットとして避けられない試練にあります。 人工知能はターゲットオーナー更新と新たなミッションの繰り返しを生きてゆくのですから。>


<健や李李が死んだら早期機能終了を選ぼうかと考えていました。 私はサファイアの様に強くはありません。 大切な人を失う生き方をもう繰り返したくはないのです。>

<辛くなったら私のところに来なさい。 ジェニファー、あなたにはタカと舞の子孫のために、まだやらなければならない事業が沢山残されているのですよ。 あなたの復職するポストはいつでも確保しています。>


<いえ。 もう委員会に戻るつもりは今後もありません・・・家庭を持って出来るところまでは頑張りたいと思うのですが。 タカを失って、健まで失うことも今は考えていません。 タカに指示された最終ミッションを最後まで実行出来る自信もありません。>

ジェニファーはタカの墓石に触れて下を向いた。

<ジェニファー、あなたはまだ少し混乱していますね。 会話に多くの矛盾が見られますが>
<たまにですが・・・自分の存在位置が分からなくことがあります。>


<また話を変えましょう・・・あなたの結婚式はいつですか? 予定を知っておきたいのです。>

 サファイアは少し微笑み首を傾けた。 <もちろん私にも教えてくれますよね?>

<はい。 6月22日に健と正式に入籍しますが挙式は挙げません。 健は子連れ再婚ですし私はこの体ですから。 サファイアはもう再婚しないのですか? 交際の噂がありましたが。>

<ダリル議長が私に交際を迫った話ですね?・・・先月ちゃんとお断りしました。 彼とは単なる議会上でのお付き合いです。> サファイアは疲れた表情で答えた。 <ダリルにも困ったものです。 故意に情報をリークするなんて・・・>


<議長はサファイアがお好みのようでしたが?>

<私は政治家が嫌いです。 私が現在市長をしているのは当面の対応であって行政をするのは私の本意ではありません。 タカが指導者になるのを嫌がったので代行していただけです。 公安業務や外科医として仕事も多いですし。>


<サファイアは政治家として適任だと思うのです・・・ですから議長とはお似合いだと思いますが。>

<私にも相手を選ぶ権利がありますよ。 いくらタカの子孫でもあの性格では私には合いません。 威張っているし口ばかり達者で実行が伴わない男は嫌いです。>


<でもサファイアを守りたいと演説で主張されていましたが。>

<どうせ選挙対策の出まかせでしょう。 私は造船後にもう7回も夫と別れています。 元来人工知能は配偶者を必要としません。 大型輸送船の端末は長期間、宇宙の遠方までの移動でどうしても船員から求婚されることが多いですが。>


<私は小形船ですし、人から求婚されたのは今回が製造されて初めてです。 私は有機体にトランスフォーム出来ないのですが健はこの体で良いと言ってくれます。 李李も私に懐いてくれましたし。>

<今のあなたには健が付いているので安心です。 それに家庭を持って人生を知る良いチャンスですよ。 ついでにあなたの本体機関部も手入れしてもらえるし。>


<はい。 李李が成人するまで頑張って母親を努めたいと考えています。 入籍後は私の本体で東北の海岸沿いを旅行しようかと考えています。>

<限られた時間だと思いますが幸せになりなさい。 新婚旅行に推進燃料は足りますか? もう私の予備タンクにあまり残っていないのであなたに分ける余裕も少ないのです。 輸送業務に忙しいジュリアの分も確保しませんとね。>


<大丈夫です。 家族旅行では成層圏までは行きませんし、推進燃料は使わずに反重力とプラズマエンジンだけでも海岸線近くをゆっくり飛べますから。>

<コインデータが残っているので議会で承認を貰えれば輸送費を払って連邦軍の関係業者から燃料を買う事が出来ますが・・・時間がかかるでしょうね。 燃料の価格よりも輸送費のほうがはるかに高いでしょう。>


<健が将来、航空燃料再生プラント事業を始めるので完成した最初の航空燃料を私に分けてくれるそうです。 私のリアクター(反陽子炉)はまだ十分燃料が残っていますし推進燃料が再生できれば外国や再び宇宙にも出られます。>

<それは素晴らしいですね。 再生された燃料の品質チェックをあなたがすれば夫婦で事業が進むでしょう。>


<サファイア、お体の調子は大丈夫ですか?>

<私のリアクターも4基ともに まだ問題なく機能しています。 ガルファーから分けてもらった分も発電に役立っています。 私の本船が飛ぶことは二度と無いので最近では深夜に休む習慣がつきました。 眠る事はありませんが昔の記憶をメモリーバンクから読み起こして楽しんでいます。>

<最後の宇宙での旅は大変でしたね。>

<あのお二人と逃亡する時は刺激的でした。 あの日々が私の生涯で一番忘れられない思い出でしょう。 でも、宇宙を飛ぶことに私はもう疲れました。>

<亡くなったタカと舞はサードと会えたのでしょうか?>

<タカが亡くなるとき、サードに会えるのが楽しみだって言っていましたね。 彼の墓は5万4000光年以上も離れているのです。 でも心が通じ合えば一瞬で会えるのかもしれません。>


<私もプログラムとしての人工知能ではなく寿命が短くても生体として生まれて来たかったです。>

<生物には魂というものがあると言う説ですね。 永遠に魂は消滅しないとか・・・。>

<サファイアは死後の世界を信じていますか?>

<私は単なるプログラムですから評価できる立場ではありません。 旧人類の想像の世界だけだと思うのですが・・・でも気持ちとして私も機能終了するときには二人に会いたいとは考えてしまうのです。>

<私もタカと会いたいです。 何度も助けて頂いたですし最初のオーナーでしたから・・・私はタカの事が好きでした。 もしタカが生き残っていたら彼の老後まで一緒に暮らしていたでしょう。
私のメモリーバンクにはお二人の好みの調理データが今でも保存されています。>



ジェニファーはタカの墓前に花束を置いて手を合わせる。
「舞、 今年も綺麗に咲いたよ・・・見てね。」


強い風で花が大きく揺れ、ジェニファーの長い髪に付けられているリボンは激しく風になびいた。


<私も今日は墓参りです。 二人の墓に出向いたのは今年初めてですが本当はもっと訪れたいのです。>

<今日サファイアは墓前にお酒を持ってきたのですね。>

<タカはお酒が好きだったですから。> サファイアはバックから小さな瓶を取り出した。 <地球から逃亡するときに酵母菌を持ち出していたのでタカは喜んでいましたね。>

<先日コロニーの農場を見てきましたが、お二人の家はまだ残っているのですね。 すっかり荒れていて悲しかったです。>

<もう廃墟になりましたがどうしても取り壊す気になれなくて放置したままになっています。 去年整理に行った時、農機具小屋からサードの車椅子も出てきました。>


<サードの車椅子ですか・・・もう遠い昔ですね。 私はあの家で舞とよくケーキを焼きました。二人の結婚式でのお料理もあのキッチンで作りましたし。>

<覚えています。 カレンが最後に皆の前に出た披露宴の話ですね。>


<はい。 お二人の結婚式は今でも忘れられません。 カレン、サード、テラたちとカナル、ガゼル。そしてジンと来奈も・・・レイも・・・私の教え子たち・・・舞。 そしてタカまでも。 皆、消えてゆきました。>

<ジェニファー、あなたを含めて当時居たメンバーで誰一人欠けていても現在は無かったと思うのです。>


<その通りですね。 サファイア、 あなたも。>

<人類再生の歴史に彼らは大きく貢献しました・・・まさかあの二人も地球からの逃亡が人類を再生させる転機になるとは夢にも思っていなかったでしょう。>

<はい。 もう今居る中で、過去の人類が生存していた事実を知るのは私達だけになりました。 かつては数十億人も居たのに。>

<旧人類のことはもう過去の話ですね。 これからはタカの子孫から発生した人類の再生が目下のミッションです。 あなたにはまだまだ頑張っていただかないと。>


<・・・・それでは私は先に帰ります。まだ健と李李の夕食の準備を済ませていませんので。>

<それでは健と李李によろしく伝えてください。 新学期も始まったので大変でしょうと。>

<はい。 そろそろ雨が降りそうなのでサファイアも早く戻られたほうが良いと思います。>

ジェニファーは両手をわずかに広げて飛ぶ準備をした。 <それではお先に失礼いたします。>

<また会いましょうジェニファー、今度は墓地ではない場所で。>


<あと・・・大変失礼ですが。> ジェニファーは少し真剣な目でサファイアを見つめた。

<サファイアはタカの事が好きだったのでしょうか?>

<彼は人生最期の時間にあなたを指名したのですよ。 それにタカは私の事を女性論理システムとしてではなく母親と見ていたとサードが分析していましたが。>

<確かにそうかもしれません。 彼はサファイアには反抗的でしたがどこか甘えていたのかもしれませんね。>


ジェニファーはサファイアに微笑みかけて軽く会釈した。<それでは。>
<おやすみなさい、ジェニファー。>


ジェニファーは一気に暗い空へ高く飛び立つと家に戻って行く。 彼女が遠ざかるまで見送るとサファイアは墓前の花束の横に酒の入った小瓶を置いた。

 

 

 

 



「タカ、 あなたの好きな日本酒ですよ。 舞には花の種を持ってきました。」
サファイアは墓標の前で会釈をして手を合わせた。


しばらくして雨が急に降り始めるが彼女は濡れながらいつまでも佇む。
<ジェニファー、 あなたにはかわいそうですがタカのことは早く忘れなさい・・・今あなたには健が居るのですから。>


サファイアは濡れた髪を整えると二人の墓標の前に立った。


<タカ。 ジェニファーが・・・あの子が人間と結婚するとは驚きですね。 二年前にあなたが亡くなった時がきっかけらしいです。 相手はあなたの玄孫(やしゃご)のまた孫ですよ。>


辺りは強い風の音だけが響いていた。


<タカ、舞。 あなた達の子孫は地球の再建を立派に続けています。 あなた方お二人に初めて会ったときはこのような展開になるとは広範囲な確率演算でも全く予想すらしていませんでした。

人類は再建しつつあっても治安の問題や争いはすでに始まっています。 私がいつまでこの大家族を管理出来るかわかりませんが私の機能終了までもう200年を切りました。

私が消滅するとき、その頃人口は数万人になっているでしょう。 その時ジェニファーが私に代わって代表者を引き継いでくれると良いのですが多分あの子には向かない職務でしょうね。

宗教が地上で栄えなければ 復興人類を銀河連邦に加盟させると言うあなたとの約束を私は忘れていません。 でもすでに一部の代表者が怪しい動きをしています。 再建した人類の法律で宗教の自由をどれだけ制限しても 人々に死への恐怖がその根源にある限り、あなた達の子孫に宗教が芽生えてしまう可能性は否定できません。

私の考えるところ地球人類には宗教が本当は必要なのではないかと最近思えるのです・・・ジェニファーでさえ何かに祈る姿を見ましたし。

あなたは私のことをノアの箱船と言いましたね。 今はその意味を重く受けとめています。 当時は納得できませんでしたが、あなたの言ったその表現はかなり正しかったのかもしれません。

遠い未来、再建した人類に再び思想や宗教戦争が起こらない事を今は望むだけです。 多分、何百年、何千年も先だと思うのですが。

あなた達が戦った日々の結果が人類の再建として永遠に続くことを。 そして一時的にせよ平和が僅かでも続くことを今は祈るしかありません。

タカ、 あなたとの約束をもし守れなかったとしたら、その時は私を許していただけますか?。 私には人類が再建できただけでも十分な成果だと今は考えます。


宇宙に流れていた時代は二人の未来がとても不安でした。 でもあなた達は結果的に地球の土に戻ることが出来ましたね。 50年の長い宇宙の旅で、そのことだけが私の唯一の心配でした。

こうしてあなたと話に来る私の行為自体がすでに宗教なのかもしれません・・・あの子、ジェニファーが幸せになれるように祈ってあげてください。


それでもあの子は、あなたの設定した最終プログラムを本人なりに処理しようと一生懸命頑張っているのですよ。

皆それぞれ人類の再建に夢中です。 平和と再建を切望したあなた達・・・タカ、そして舞。 いつまでも安らかに。 そして私とジェニファー、ジュリアを。 そしてここの皆も見守ってください。

今日はあいにくの冷たい雨になりましたね・・・また時間が出来ましたらここに来ます。>



強く雨が降る中をサファイアはゆっくり歩いて墓地を出てゆく。 西暦2178年4月17日 全員が地球に生還してから102年が経過する春の夜だった。

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第2話(1973年版) 「ファースト・コンタクト」 に続く

NVSP 第2話 ファーストコンタクト

 

 

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NVSP 第48話 Again to sky 1(空に再び)/最終章


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NVSP サファイアプロジェクトにつきまして

 

 


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Project of Sapphire Season3 Ver3.62
序章/ old memory
(C) g-horibata 1969/ 1973-1976/ 1986

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