らせん です
時間を少し巻き戻して
異国情緒に浸った日のことを
回想しています
今では外国人墓地の扉は
いつもの通り閉ざされて
生垣越しに見るしかなくて
もう踏み入れることは叶わない
あの特別な日に味わった
静かで耽美でどこか心が揺れ騒ぐ気持ち
それを もう一度
異国の地で永遠の眠りにつくのは
どんな気持ちだったことでしょうか
亡くなった人は
看取って埋葬する家族は
悲しみと美しい思い出とを
涙に見立てた円柱に込めたり
天使がいつでもそばにいてくれるように
祈りを込めたり
そこには送る側の
優しさと愛情が満ち溢れているように
思います
墓地の中はとても広くて
階段とスロープで段々になっています
ロシア正教
ユダヤ教
フリー・メイソン
ケルト教
様々なお墓の様式や
文様が刻まれているのは
日本のお墓の家紋に通じるのかも
そんな中に
いくつものマリア様が
安らぎを与えるように居ました
上はパイロットだった人のお墓
その人の携わった仕事を模した
お墓もありました
誰が手向けたのか
柄の長いピンクのバラが一輪
朧げな機長帽子をかぶった後ろ姿を
内側から呼び起こしてくれます
下は日米の桜大使とも言われた
ミセス・セイモアのお墓
彼女のお墓の脇には大きな桜があり
葉桜が緑陰を落とします
赤毛でそばかすのアン・シャーリーが
わたしの隣に
いつの間にか寄り添って立ちます
ねえ
お墓の碑文を読むのって
素敵じゃない
その人がどんなに愛されていたか
どんな人生を送ってきたか
いくらでも想像することができるもの
アン
わたしもあなたと同じ気持ちよ
双子のように建っていても
それぞれの個性がまったくちがう
お墓には
どんな人が眠っているのでしょう
左側は錨のデザイン
きっと荒波を何度も乗り越えてきた
船乗りだったのでしょう
右はイエスキリストの最初の3文字を
組み合わせたIHSの文字が
強さと正義を表してます
ガタガタとした
ちょっと歩きにくそうな階段の先
十字架のお墓には誰が眠っているのでしょうか
人から少し離れて
ひとりだけの静けさを好む
風変わりなおじいさんかもしれません
ねえ
アン・シャーリー
ここにある古いお墓のほとんどは
親族が絶えてしまって
横浜市が管理しているんですって
日本で言う 無縁墓地 なのよ
でも柵越しや木々の間越しに
たくさんの人が見てくれるし
いろんな想いをここに残していくし
ここからもいろんな想いを持ち帰るから
きっと眠っている人は淋しくないわよね
たくさんの愛情がこもった碑文を読むのって
本当に素敵
わたし 忘れないわ
日本で生きて亡くなった
いろんな国から来た人たちのこと
隣に立ったアン・シャーリーが
わたしも同じ気持ち
呟いたのが聞こえました
なんて素敵な出会いでしょう な気分です