らせん です
誰か来たら手を振りたい
参りましょう
詣でましょう
山の奥へと分け入り
あちらとこちらの境界を
じっと見守る山神様へ
きれいなお水を携えて
さあ 参りましょう
さあ 詣でましょう
今日は絶対にたどり着く自信が
ありました
どこからその想いがくるのかは
わからなかったけれど
いつかは行きたいと思っていた
山神峠の祠に
絶対行かれるという理由のない自信は
体じゅうに満ち満ちていました
細く伸びた道に一歩を踏み入れ
傾斜を渓谷側に転げ落ちないように
気をつけながら
来た道を振り返りました
初めての道を歩くわくわくした感じ
林道がもうすぐ見えなくなる
緑の中に吸い込まれていくこの感じ
足は歩きたがって
心は気力で満たされている
いつからここに掛かっているか
苔むした三本橋を慎重に渡って
少しずつ少しずつ
曲がったり小上がりしたりすると
はじめまして の階段が現れました
山神様詣の階段です
木漏れ日の中
奥山へ続く山の階段は
くねりながらゆっくりと幻想的に
幽玄の世界に誘います
木の階段が岩の階段になり
地衣類が青白く
苔は強い緑の輝きを放ちます
一歩一歩がなんて素晴らしいのでしょう
ひとりが通れるだけの幅の尾根道は
ひと吹きの風さえありません
静かに緑の世界が広がるだけ
トンネルの上に立つ
あぁ こんなふうに
林道を見下ろすことが出来るなんて
いつも見上げた視線の先には
他の誰かがいることが当たり前で
圧倒的に多かったいろんな山
今 ここでは
わたしの見上げる先には誰もいません
誰か来たら手を振りたい
山の階段を上りましょう
誰もいないことは
気持ちを落ち着かせてくれますから
広がった尾根で待っていてくれたのは
ギンリョウソウの群れ
ロウソクみたいに白い透明感
地面の中から立ち上がったタツノオトシゴたち
今年も会えたことに感謝します
待っていてくれてありがとう
ふかふかの傾斜をしばらく登って
出会ったフデリンドウはまだ蕾でした
長い登り道をジグザグ歩きながら
ショートカットをしようと向きを変えたら
あせらないで
ゆっくりゆっくり
まるで心を見透かされたかのように
足を置こうとした場所に
小さな群れになっていました
@神奈川県西丹沢
大橅ノ丸 954メートル
その先に
あれが目印の落合線41号鉄塔
落ちないように
あせらないで慎重に
頭ではわかっているけど
心はついつい急いてしまいます
それにしてもなんて足場の悪いこと
うっかりするとずるずると滑り落ちて
山神様にお参りする前に
とんでもないことになりそうです
風が変わりました
冷たくざわざわと吹き付けてきます
ここは
まちがいなく神域です
山神様
お会いしたかった
山神様
この祠を自分の目で見てみたかった
そして
この階段を上って
お参りするのが目標でした
階段の下には
山神様の眷属であるマムシグサ
堂々と胸を張って神様をお守りしてました
玄倉の林道には
崩落危険 立入禁止 の立看板があります
山神峠
文字を見たときから
口の中で言葉にして呟いてみたときから
いつか山神峠に来たかった
古くなった祠の存在を知ったときから
幾度となく
その場を想い描いていました
憧れていた山神峠
お会いしたかった山神様の祀られた祠
お導きに感謝します
無事に帰ってこれたことにも
感謝します
また参じます 気分です